第2章 組織犯罪対策の推進

第4節 犯罪収益対策

1 犯罪収益移転防止法に基づく活動

暴力団等の犯罪組織を弱体化させ、壊滅に追い込むためには、犯罪収益の移転を防止するとともに、これを確実に剝奪することが重要である。警察では、犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯罪収益移転防止法」という。)に基づき、関係機関、事業者、外国FIU(注1)等と協力して犯罪収益対策を推進している。

注1:Financial Intelligence Unit の略。資金情報機関と呼ばれ、疑わしい取引に関する情報を集約・分析して捜査機関等に提供する機関として各国が設置している。日本のFIU は、国家公安委員会・警察庁が担当している。

(1)犯罪収益移転防止法の適切な履行を確保するための措置

犯罪収益対策を効果的に推進するためには、犯罪収益移転防止法に基づき、特定事業者(注2)により顧客等の本人確認、疑わしい取引の届出等の措置が適切に履行されることが重要である。このため、国家公安委員会・警察庁は、関係機関と連携して、特定事業者を対象とした研修会、ウェブサイト等を利用して犯罪収益移転防止法に対する理解と協力の促進に努めている。また、国家公安委員会・警察庁は、特定事業者が顧客等の本人確認義務等に違反していると認めた場合、犯罪収益移転防止法に基づき、当該特定事業者を所管する行政庁に対して、是正命令等を行うべき旨の意見を述べることができるものとされており、平成22年中は13件の意見陳述を行った。

注2:犯罪収益移転防止法第2条第2項で規定されている事業者

(2)疑わしい取引の届出

犯罪収益移転防止法に定める疑わしい取引の届出制度(注3)により事業者がそれぞれの所管行政庁に届け出た情報は、国家公安委員会・警察庁が集約して整理・分析を行った後、都道府県警察、検察庁を始めとする捜査機関等に提供し、各捜査機関等においては、マネー・ローンダリング事犯(注4)の捜査等に活用している。警察において、平成22年中に疑わしい取引に関する情報を端緒として検挙した事件数は390事件と、前年より53事件(15.7%)増加した。このうち、258事件は詐欺事件で、全体の66.2%を占めた。また、22年中に疑わしい取引に関する情報を端緒としてマネー・ローンダリング事犯の検挙に至った事件数は17事件であった。

図2―21 疑わしい取引の届出状況の推移(平成18~22年)

注3:金融機関等、ファイナンスリース事業者、クレジットカード事業者、宅地建物取引業者、宝石・貴金属等取扱事業者、郵便物受取サービス業者及び電話受付代行業者は業務で収受した財産が犯罪収益である疑いがあると判断した場合等に所管行政庁へその旨届け出ることが義務付けられている。

注4:2章4節2項 参照

コラム〔6〕 犯罪収益移転防止法の改正

平成23年4月、第177回国会において、電話転送サービス事業者の特定事業者への追加、取引時の確認事項の追加、預貯金通帳の不正譲渡等に係る罰則の強化等を内容とする犯罪収益移転防止法の一部を改正する法律が成立した。改正法は、公布の日(同月28日)から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行される(預貯金通帳の不正譲渡等に係る罰則の強化については同年5月28日から施行された)。


第4節 犯罪収益対策

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