特集:変革を続ける刑事警察 

特集:変革を続ける刑事警察

特集に当たって

 戦後の警察制度等の改革により、警察が独立した第一次捜査権を担うこととなって、60年が経過する。この間、犯罪の悪質・巧妙化、広域化及びスピード化は絶えることなく、犯罪者の組織化、国際化及び匿名化も進んだ。そして、これに対峙する刑事警察は、科学捜査力の強化、広域犯罪捜査力の強化、優れた捜査員の育成等により、捜査力を強化し、ち密かつ適正に捜査を行うための変革を続けてきた。
 今もなお、犯罪捜査を取り巻く状況はあらゆる面において変化し続けている。
 平成8年から7年連続で戦後最多の記録を更新し続けた刑法犯認知件数は、14年をピークに減少を続けているものの、銃器を使用した凶悪事件や街頭における無差別殺傷事件が続発するなど、犯罪情勢は依然として予断を許さない。また、地域社会の脆弱化と人間関係の希薄化は「人からの捜査」を困難に、経済のグローバル化等による物流の活発化は「物からの捜査」を困難にし、携帯電話とインターネットの普及は生活に大きな利便を与える一方で犯罪の温床となるなど、社会構造の変化に伴う捜査環境の変化も著しい。警察内部では、経験豊富な捜査員の大量退職により、第一線の捜査活動を担う刑事の顔触れが大きく入れ替わりつつある。さらに、司法制度改革により、法律の専門家ではない一般の国民が刑事裁判に参加する裁判員制度が21年5月に始まるなど、刑事裁判制度は戦後最大の変革期を迎えている。こうした中で、昨今、警察による被疑者の取調べについて、その在り方を問われる無罪判決等が相次ぎ、国民・社会の信頼が大きく揺らぐという事態も生じた。
 こうした情勢においても、刑事警察にとって変わらないことがある。それは、警察の捜査は第一線の捜査員の地道な活動の積み重ねにより成り立っていること、第一線の捜査員は犯人を検挙し、被害者の安心した表情を見ることに大きなやりがいを感じること、そして、捜査を的確に遂行するためには国民の信頼と協力の確保が不可欠なことである。
 犯罪捜査は、個人の生命、身体及び財産を保護し、公共の安全と秩序を維持するという警察の責務を遂行するに当たっての原点ともいえるものであり、刑事警察には、警察捜査を取り巻く環境の変化を的確に把握して捜査力を強化し、ち密かつ適正に捜査を遂行して国民の信頼と期待にこたえていくことが求められている。
 この特集では、第1節で戦後の刑事警察の歩みを振り返り、第2節では警察捜査を取り巻く厳しい環境等を概観した上で、取調べの適正化に向けた警察の取組みについて詳述した。第3節では捜査力の強化に向けた取組みを続ける現在の刑事警察の姿について記述し、第4節では今後の展望を提示した。この特集が、変革を続ける刑事警察について理解していただく上での一助となることを願ってやまない。

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