警察活動の最前線 

警察活動の最前線

苦しみの共有
 
福島県須賀川警察署刑事課
吉田 幸江 巡査長
写真 吉田幸江 巡査長

 あの事件は少女が男に連れ去られるという衝撃的な事件で、あのときほど自分の力不足を強く感じたことはありません。
 少女は、人一倍、他人に気を遣う性格で、その本心を探ることは本当に難しいことでした。昔、私が少年事件の捜査を担当していたころ、被疑者である少年の母親から「子どもを産んだこともないのに、子どもの気持ちを理解できるの」と食ってかかられたことを思い出し、少女の気持ちを本当に理解できるのか不安にさいなまれていました。
 それから私は、毎日彼女に会って話を聞くとともに、登下校時はいつも一緒に付き添って歩くなど、彼女の苦しみを和らげ、言葉で表現できない彼女の思いを読み取ろうと必死でした。
 約1か月後、犯人は逮捕されました。これで事件は解決したと、だれもがそう思っていました。しかし、実は、彼女は、その後も小さな胸で独り悩み苦しんでいました。彼女にとって受けた心の傷は深く、事件は終わっていなかったのです。事件発生から1か月以上経ったある日、彼女の思いを打ち明けられ、初めて私は、その苦しみを知りました。私は、彼女とともに涙を流しました。やっと彼女の信頼を得られたという喜びとともに、早く気付いてあげられなかった自分が情けなくて仕方がなかったのです。
 この事件は私にとって、大きな教訓となりました。いつか必ず被害者の苦しみを共有できる警察官となること、それを目標にこれからも努力したいと思っています。

安全で安心な交通の実現を目指して
 
北海道警察本部交通部交通規制課
村中 俊治 警部補
写真 村中俊治 警部補

 私は、交通機動隊員だった3年前のある日、国土交通省北海道開発局道路維持課に出向を命ぜられました。北海道十勝地方の閑静な田園地帯で甲高い金属音をたてながら、速度違反車両を追跡するそれまでの生活から、180万都市札幌にある庁舎内で、道路事業の検討、関係機関との協議や道路災害発生時の対応に従事する生活へと一変しました。当初は、仕事内容のあまりの変わりように戸惑いを覚えたほどです。
 しかし、北海道開発局での2年間の勤務は、手段や環境は違えども、北海道の道路利用者の安全と交通の円滑を実現するという同じ目的に向かって、様々な人々と協働して取り組んでいく、とてもやりがいのあるものでした。そして、北海道警察等と協働して、道路中央に溝を連続して切り込むランブル・ストリップス工法を用い、対向車線にはみ出しそうになる運転者に対し振動によって注意を喚起することにより、正面衝突事故を大幅に減少させる効果を上げました。
 交通の安全を確保するためには、警察と道路管理者との連携は不可欠です。
 北海道開発局での2年間で得られた貴重な経験や人間関係は、合同で実施する現場視察や各種の協議における連携を円滑にしてくれるなど、交通規制課において勤務する今でも、掛け替えのないものとなっています。
 今後も様々な人々と共に北海道の道路交通を日本そして世界に誇れる安全で安心なものとすべく頑張っていきたいと思っています。

被害者の心の叫びを見逃すな
 
和歌山県警察本部刑事部組織犯罪対策課
橋本 諭 警部補
写真 橋本 諭 警部補

 暴力団は、その組織の活動資金を獲得するため、個人や企業のスキャンダルやちょっとした落ち度等に巧みにつけ込んで、被害者本人だけでなくその家族に危害を加えるなどと脅し、多額の現金や利権を奪おうとしますが、被害者側は、「お礼参りが怖い、金で済むのであれば」と暴力団の要求に屈してしまうか、被害申告をちゅうちょしてしまうのが実情です。
 しかし、これでは暴力団を勢い付かせ、更なる犯罪を助長することになってしまいます。和歌山県内でも最近、暴力団の構成員が人通りの多い繁華街でけん銃を発砲し、たまたま通り掛かった市民にけがを負わせるという事件が起きました。自分たちの利益のためであれば他人を傷つけることもためらわない、暴力団とは正に卑劣な存在なのです。
 暴力団犯罪を根絶させるためには、被害者からの訴えが不可欠です。我々は、「被害者の心の叫びを見逃すな」を合言葉に、被害者の悲痛な思いを真正面から受け止め、全力で被害者を守るとともに、暴力団やその周辺を取り巻く闇勢力の実態をえぐり出して追い詰め、弱体化させ、壊滅させるべく、心を一つにして頑張っています。

安心の街へ
 
茨城県つくば中央警察署地域課つくば駅前交番
飯田 和代 警部補
写真 飯田和代 警部補

 私は、今春の異動で、つくばエクスプレスの開業に伴い茨城の新たな玄関口となったつくば駅を管轄するつくば駅前交番に、県内初の女性交番所長として配置され、着任しました。管内は、駅、大学・研究機関、デパートのほか、アパート・マンション等が多数ある地域であり、昨年8月にエクスプレスが開業してから自転車盗を始めとする街頭犯罪が急増していました。
 そんなある日、交番前で立番をしている私のところに一人の女子高校生が駆け寄ってきて「盗まれた私の自転車を見つけました」と届け出てきました。早速、女子高校生と共に現場に向かったところ、自転車はまだ犯人が使用中と思われたことから、付近で張り込み、約2時間後、その自転車に乗ろうとした男を検挙することができました。自転車を返す際、犯人の検挙を知った女子高校生のうれしそうな顔を見て、新米所長として、管内で発生した事件を解決できたことの喜びを肌で感じるとともに、地域の方々が安心して暮らせる街となるよう、もっと頑張らなくてはと決意を新たにしました。

山岳遭難救助隊員として
 
静岡県警察本部地域部地域課
眞田 喜義 警部補
写真 眞田喜義 警部補

 私は昭和52年から30年間山岳遭難救助隊を兼務しており、平成15年からは隊長として救助活動に従事していますが、その中で最も辛いのが、遭難者家族への捜索打切りの告知です。「山に登る」と元気に自宅を後にした最愛の肉親との連絡が突然途絶え、その家族は、最後の頼みの綱として警察に捜索を依頼してきます。隊員一同「必ず救助する」との気持ちで精一杯の捜索をしていますが、中には未発見のまま捜索を打ち切らざるを得ない場合が少なくありません。
 わらにもすがる思いで捜索の継続を望み、あるいは、警察の捜索活動に納得はしても、あきらめきれず独自に民間ヘリを依頼するなど、残された家族の気持ちを思うといつまでもやるせなさが残ります。
 ここ数年、中高年者の登山ブームと相まって各地で遭難が報じられておりますが、山での甘い判断は家族を悲しませるだけでなく、救助に当たる多くの人命をも危険にさらすことを忘れず、簡単な登山でも十分に下調べを行うなど、慎重に行動するよう強く訴えていきたいと思います。
 私自身高齢になりつつあることから、最近は、後を引き継げる後輩隊員を育成するため、厳しい訓練、指導にも精を出しています。

鑑識係員として
 
富山県魚津警察署刑事課
森 康子 巡査部長
写真 森 康子 巡査部長

 事件の現場で、足跡や指紋等を探し、写真を撮影する。それが鑑識係員である私の仕事です。そんな鑑識係員となり10年余りが経ちました。ある日、一人の女子高校生が泣きじゃくりながら「見知らぬ男性から、わいせつな行為を受けた」と届け出てきました。捜査員は検索に回り、鑑識係である私は、暗くなった現場で、懐中電灯を照らしながら、「何か手掛かりはないか」と、指紋を採取するため粉を振り、足跡を探しました。それから、警察署に戻って、落ち着きを取り戻した被害者から男の特徴を尋ね、似顔絵を作成しました。その日は犯人の検挙に至らなかったものの、2年余りが経ったある日、懸命な捜査から似顔絵に似た男が浮かび、現場で採取した資料のDNA型とその男のDNA型が一致したことなどから、男を犯人として逮捕することができました。犯人が逮捕されたことで、少しは被害者の女性のつらい気持ちも和らいだものと思います。
 現在の社会は複雑多様な犯罪を生み、鑑識活動がますます重要になってきています。今後も、鑑識活動が捜査を支えるという気構えで、毎日の現場と向かい合って仕事に励んでいきます。

災害警備のプロ集団として
 
福岡県警察警備部第一機動隊副隊長
藤 博隆 警視
写真 藤 博隆 警視

 平成17年3月、福岡県西方沖を震源とするマグニチュード7.0の地震が発生しました。当隊を中心に編成された広域緊急援助隊は、甚大な被害を受け孤立した玄界島に緊急派遣され、大きな余震が続く中、不眠不休で全島民の避難誘導や被災家屋内の検索等を行いました。住民の避難後は、隊員自ら発案した「警ら表」を全戸にはり付け、島内全域をきめ細やかに警戒警らするなど、窃盗等の犯罪防止にも目を光らせました。
 9月には、台風第14号が九州に上陸し、宮崎県高千穂町で土石流が発生、当隊中隊長を指揮官とする広域緊急援助隊は一家4人が行方不明となった現場に派遣されました。隊員は、腰まで土砂に埋れる最悪の状況の中、消防等と協力して懸命の捜索を行いましたが、4人は遺体で発見されました。
 これらの現場活動を通じて、隊員達は、被災者の心情を配慮した災害警備活動の重要性と警察官として使命の重さを実感したのでした。
 現在、本県を含む全国12都道府県警察の広域緊急援助隊に特別救助班が設置され、高度な救出救助活動に必要な最新の資機材を導入するとともに、救出救助能力の向上を図るべく各種災害現場を想定した訓練等を行っています。今後も「災害警備のプロ集団」として、警察に与えられた責務を果たすべく隊員とともに努力していきたいと思います。

来る困りごと拒まず
 
愛媛県伯方警察署地域課八幡駐在所
合田 薫 巡査部長
写真 合田 薫 巡査部長

 私の勤務する駐在所は、四国と本州を結ぶしまなみ海道(西瀬戸自動車道)沿線の島にあり、駐在所前の国道は、今年4月のしまなみ海道の全線開通まで、未開通区間の代用道路として利用されていました。そのため、一晩中通り抜ける大型トラックの騒音と振動で、何度も目を覚まされていました。
 ある夜のこと、「タイヤがパンクしたが、ジャッキと灯りが無い」とドライブ中の青年が、その2時間後には「財布をなくし、島を抜けようにも橋の通行料がない」と県外ナンバー車の若者が、さらに深夜になって「嫁が鍵を掛け、家に入れてくれない」と地元の男性が駐在所のチャイムを次々と鳴らしたのです。駐在所は困りごとの頼り所。それぞれ解決して空も白みかけ、再び布団に入りながら妻に「せっかくの休みの晩にチャイムで起こされたね」とわびると、妻からは「いいえ、平和な夜でした。事件で被害に遭った人もなく、お礼まで言われたし」と反対にねぎらいの言葉が返ってきました。
 しまなみ海道の全線開通後は、以前の静かな国道に戻りつつありますが、「来る困りごと拒まず」の精神で、妻と二人で駐在所勤務に励んでいます。

日本一の女性専用留置場「菊屋橋分室」
 
警視庁総務部留置管理課
沼田 敦子 警部補
写真 沼田敦子 警部補

 午前中、回廊側から差し込む柔らかな日差しを感じながら、明るい留置室でくつろぐ彼女たちに目を移した時、ふと、ここは本当に留置場なのかと見間違うことがあります。しかし、ここは紛れもなく、常時100名を超える被留置者を取り扱っている日本一の女性専用留置場なのです。
 私はこの留置場で日本一の誇りを胸に、日々留置業務に従事しています。
 当留置場には、退屈な時間を紛らすためにしきりに私たちに話しかけてくる者、気を引くために暴れる者、幽霊がいるなどと騒ぐ者、被留置者の約7割を占める外国人に圧倒されている日本人、日本の生活に慣れない外国人等がおり、毎日様々な人間模様が繰り広げられています。
 「○○をしてくれ」、「××をしてくれ」という彼女たちの要望の多さについ「いい加減にしなさい」と叫びたくなることがあります。
 とは言っても、彼女たちにとって、生活のすべてがこの留置場の中にあるのです。常にそのことを忘れず、人権に配慮した処遇という原点に立ち返り、彼女たちと接することにしています。
 我が女性専用留置場「菊屋橋分室」は今日も万全です。

一線活動を支える機動警察通信隊の隊員として
 
沖縄県情報通信部機動通信課
平良 和寛 技官
写真 平良和寛 技官

 「対象機、那覇空港離陸」、6月23日夕刻、無線通話が流れます。
 梅雨明け直後の沖縄に、南国特有の肌を刺すような日差しが照りつけるこの日は、先の沖縄全戦没者に対する「慰霊の日」で、県庁、学校、多くの県内企業等が休みとなりますが、平和祈念公園で執り行われる慰霊式典に、例年、内閣総理大臣を始め政府関係者が多数来県することから、沖縄県警察にとっては要人の警護警備に全力を挙げる日でもあります。この警護警備を支える機動警察通信隊も、灼熱の太陽の下、無線基地局を設営し、会場等の要所要所にテレビカメラを設置し、警備本部へ映像伝送するなどの活動を展開します。式典当日は早朝から機器を設置して本番に臨みますが、各機器が警備終了まで無事に稼働してくれるかどうか、運用係長として、極度の緊張を強いられます。
 式典が終了して要人の搭乗機が那覇空港を飛び立った時、ようやくその緊張感から解放されます。そして、任務を完遂した達成感と一線を支える機動警察通信隊の隊員としての誇りを感じるのです。

児童ポルノ事件捜査のプロを目指して
 
岡山県警察本部生活安全部少年課
杉 直人 警部補
写真 杉 直人 警部補

 私は、昭和61年春以降、生活安全部門一筋で特別法犯の取締りに従事しています。
 警部補として少年課特捜隊に配属となった平成11年の秋、児童買春・児童ポルノ禁止法が施行されました。
 インターネットやデジタルカメラ等の普及に伴い、児童ポルノ事犯は多発しており、これに対応するため、我々特捜隊員は日々捜査手法を研究しながら取締りに当たっています。
 このような事件は、インターネット特有の犯人割出方法と従来からの犯人特定手法を織り交ぜながら捜査を進めるのがポイントとなりますが、犯人割出しが困難であればあるほど、目に見えない犯人への対決意欲が一層かき立てられ、犯人検挙に至った時の充実感は到底一言では言い表せません。
 今春、上司の推薦により光栄にも福祉犯捜査技能指導官に任命されました。その副賞なのか、最近、同僚からは「ロリデカ」「ロリ技能官」等という綽名で呼ばれる始末です。
 綽名に若干抵抗はありますが、被害児童を一人でも保護するため、また、後継者育成のため、今後も情熱と努力を惜しまず、この道のさらなるプロを目指し精進していきたいと考えております。

我が使命
 
山梨県甲府警察署地域課酒折交番
小林 幹生 警部補
写真 小林幹生 警部補

 私が警察官を拝命してから25年が経ちましたが、拝命当時は現在のように人が傷つき、だまされるといったニュースが毎日のように報道されることはなかったと思います。しかも、子どもや高齢者等のいわゆる社会的弱者が被害者となるケースが増加しているような気がしてなりません。私は、このようになった大きな原因は人間の心から正義の心が欠け始めたことにあるのではないかと思うのです。
 以前、女児がいたずらされるという事件が発生したときは、泣きじゃくる被害者を見て、「何とかして犯人を私の手で検挙するぞ、こんな事件は二度と起こさせないぞ」という強い思いに駆られたものです。
 現在、酒折交番では、地域の方々と協力して地域の安全を守るため、交番の管轄区域内にある山梨学院大学の学生と協力して、大学の周辺のほか、最近では、子どもの下校時に小学校の通学路をパトロールするなど、地域安全活動に取り組んでいます。学生は活動に非常に積極的に参加してくれており、とても頼もしいと思うと同時に、私も、学生に負けないよう警察官に与えられた伝家の宝刀である職務質問を武器に、地域の安全のため日々全力を尽くそうと、志を新たにしているところです。

 警察活動の最前線

テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む