第3章 組織犯罪対策 

4 国際組織犯罪対策

 警察では、我が国の治安に大きな影響を与えている国際犯罪組織を壊滅させるため、内外の関係機関と連携しながら、各種対策に取り組んでいる。

(1)国内関係機関との連携
〔1〕 水際における取締り
 平成17年1月、警察庁、法務省及び財務省は共同で、航空会社の協力を得て、航空機で来日する旅客及び乗員に関する情報と関係省庁が保有する要注意人物等に係る情報を入国前に照合することのできる事前旅客情報システム(APIS)(注)を導入した。警察では、17年中に、APISを活用して、韓国人すり組織の構成員や不法就労のあっせんを行っていた者等の指名手配被疑者を始め、合計17人を検挙した。
 また、偽変造旅券の使用や他人へのなりすましによる不法入国等を防ぐため、16年6月、犯罪対策閣僚会議幹事会の下にワーキングチームが設置され、顔情報、指紋等のバイオメトリクス(生体情報)を活用した出入国管理に関する検討が進められてきた。このワーキングチームでの検討を踏まえ、出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律が、18年5月、第164回国会において成立した。

注:Advance Passenger Information System


〔2〕 その他の取組み
 警察では、法務省入国管理局と協力し、合法滞在を装う者やこれらを組織的に幇助する者等の徹底した取締りを行うため、情報交換を行うとともに、合同で不法滞在者の摘発を実施するなどしている。また、盗難自動車の不正輸出を防止するため税関と情報交換を行うなど、国内関係機関との連携を強化している。
 このほか、不法滞在・不法就労防止のための指導啓発活動、防犯講習及び研修生受入企業に対する日常の生活指導を推進するなどしている。

(2)外国治安機関等との協力(第6章第15項(280頁)参照)
 日本で犯罪を敢行した被疑者が外国人である場合、住所や氏名、生年月日等を把握するためには、その者の国籍国への照会を要する場合があり、また被疑者が国外に逃亡した場合、逃亡先国に所在確認を依頼しなければならない。このように、国際犯罪の捜査には、外国の治安機関の協力が不可欠であり、警察ではICPOや外交当局を通じて外国の治安機関との情報交換その他の捜査協力を行い、事件の解決を図っている。また、外国から協力を得るためには、日本警察も同様に、外国の治安機関が行う捜査に協力する必要があることから、積極的に国際的な捜査協力を行っている。
 さらに、このような個別の事件での協力のほか、二国間の協議、条約の締結交渉への積極的な参画等を行うとともに、相手国の閣僚や治安機関の職員と様々な治安問題について共に検討し、協力関係を強化するよう努めている。

〔1〕 ICPOを通じた捜査協力
 ICPOは、国際犯罪に関する情報の収集と交換、犯罪対策のための各種国際会議の開催、国際手配書の発行等を行う、各国の警察機関を構成員とする国際機関であり、2005年(平成17年)末現在、184か国・地域が加盟している。各国・地域は連絡窓口として国家中央事務局(NCB)(注)を置くこととされており、日本では警察庁がこれに指定されている。
 ICPOは、加盟国・地域間の情報交換をより迅速かつ確実に行えるようにするため、盗難車両や盗難旅券、国際手配被疑者等のデータベースを事務総局で運用している。警察庁では、日本の盗難車両や紛失・盗難旅券等に関する情報を提供している。
 さらに、警察庁は、ICPOが開催する国際組織犯罪対策に関連する様々な会合に参加するほか、捜査協力の実施、事務総局への職員の派遣、分担金の拠出等により、ICPOの活動に貢献している。

注:National Central Bureau


 
 ICPO本部内(フランス・リヨン)
写真 ICPO本部内(フランス・リヨン)

 
 表3-19 外国に対し捜査共助を要請した件数の推移(平成8~17年)
表3-19 外国に対し捜査共助を要請した件数の推移(平成8~17年)
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 表3-20 外国から捜査共助を要請された件数の推移(平成8~17年)
表3-20 外国から捜査共助を要請された件数の推移(平成8~17年)
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 表3-21 ICPOを通じた情報の発信・受信状況(平成8~17年)
表3-21 ICPOを通じた情報の発信・受信状況(平成8~17年)
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〔2〕 各国治安当局との協議
 警察庁は、日本との間で多くの国際犯罪が敢行される国や来日外国人犯罪者の国籍国等の治安当局との間で開催される二国間協議に積極的に参画し、これらの国々との連携の強化に努めている。

ア 中国
 中国との間では、16年以降、来日中国人犯罪対策に関する相互協力の枠組み等について協議するため、警察庁と中国公安部との間で会議を開催している。17年10月に北京で開催された第2回会議では、警察庁組織犯罪対策部長を団長とする警察庁代表団が訪中し、中国公安部国際協力局副局長を団長とする中国公安部代表団との間で、日中間の捜査共助の在り方等について協議した。
 また、国際犯罪対策における協力強化を目的として、日本から警察庁、法務省、外務省、財務省等の職員が、中国から公安部、外交部等の職員が参加して、11年以降、日中治安当局間協議を開催している。17年7月には東京で第4回会合を開催し、より効果的な犯罪防止措置や取締り方法等に対する日中間の更なる協力等について協議した。

イ 韓国
 韓国との間では、7年以降、日韓両国間のICPOルートによる国際捜査共助の推進方策等について協議するため、ICPOルートの連絡窓口である警察庁と韓国警察庁の間で日韓ICPO実務担当者会議を開催している。17年11月に東京で開催した第8回会合では、韓国人すり組織対策等について協議した。
 また、日韓両国の治安分野の協力関係強化を目的として、日本から警察庁、法務省等の職員が、韓国から警察庁、法務部等の職員が参加して、17年8月、治安問題に関する第1回日韓協議を東京で開催し、捜査共助等について協議した。

ウ ロシア
 ロシアとの間では、16年以降、捜査情報の交換体制の改善等について協議するため、警察庁とロシア内務省極東連邦管区内務総局との間で日ロ(極東連邦管区内務総局)実務者会合を開催している。17年12月に東京で開催した第2回会合では、捜査情報を円滑に交換する体制の在り方等について協議した。

〔3〕 各国との刑事共助条約締結交渉
 刑事共助条約は、国際礼譲で行われていた共助の実施を条約上の義務とすることにより、共助が確実に実施されることを担保するとともに、共助の実施のための連絡を、外交当局間ではなく、条約が指定するの中央当局間で直接行うことにより、事務処理の合理化・迅速化を図る条約である。
 15年8月に我が国初の二国間刑事共助条約として15年8月に日米刑事共助条約が、さらに18年1月には日韓刑事共助条約が署名された。また、17年6月から中国との間で刑事共助条約の締結交渉の開始に向けた予備協議が行われているほか、同年11月の日ロ首脳会談を契機に、18年中にロシアとの間で刑事共助条約の締結交渉を開始することが合意されている。
 警察庁としては、引き続き各国との刑事共助条約締結交渉に積極的に参画していくとともに、アジア諸国を始めとする各国との同種の条約締結の可能性について、我が国の共助の必要性、相手国の制度等を勘案しつつ、関係省庁とともに検討を進めることとしている。

コラム1 日韓刑事共助条約

 日韓両国にまたがる犯罪が増加し、捜査、訴追その他の刑事手続に関する両国間の協力の必要性が高まっていたことを受け、16年7月の日韓首脳会談において、小泉首相と盧武鉉大統領との間で、日韓間の刑事共助条約の締結交渉を開始することが合意された。同年11月にソウルで開かれた第1回会合を含め4回の交渉を経て、18年1月、東京において署名が行われ、同年5月、第164回国会で締結の承認がなされた。

(3)国外逃亡被疑者等の追跡
 日本国内で犯罪を行い、国外に逃亡している者及びそのおそれのある者(以下「国外逃亡被疑者等」という。)の数は年々増加し、平成17年末現在で819人となっている。警察では、被疑者が国外に逃亡するおそれがある場合には、入国管理局に手配するなどして出国前の検挙に努めている。また、被疑者が国外に逃亡した場合には、関係国の捜査機関等の協力を得ながら所在の確認を行うなどし、所在が確認されれば犯罪人の引渡しに関する条約等に基づく引渡請求を行っている。また、逃亡先国で退去強制処分に付された場合に、公海上の航空機で身柄を引き取るなどして検挙している。
 同年中に検挙した国外逃亡被疑者は59人で、このうち外国人は32人であった。また、国内の空港で国外逃亡寸前に検挙した被疑者は17人で、このうち外国人は15人であった。
 
 図3-22 国外逃亡被疑者等の推移(平成8~17年)
図3-22 国外逃亡被疑者等の推移(平成8~17年)
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事例
 コロンビア人窃盗組織を編成・指揮していた日本人の男(36)がコロンビアに逃亡していたことから、ICPOを通じて国際手配を行うとともに、コロンビア捜査当局に対して同人の所在を確認するよう協力を要請した。17年11月、同国捜査当局から不法滞在していた同人を退去強制とする旨の連絡を受けたことから、捜査員を同国に派遣した。同月、公海上の航空機内において、退去強制された同人を窃盗罪等で逮捕した(兵庫)。

 第4節 来日外国人犯罪対策

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