第6章 公安委員会制度と警察活動の支え 

15 国際社会における日本警察の活動

第1章第2節(5)第3章第3節第3項(3)、第4節第4項(2)、第5章第2項(3)〔6〕、〔7〕参照

(1)警察による国際協力
 社会経済の国際化が進展し、ヒト・モノ・カネや情報が国境を越えて移動し、やり取りされる機会が格段に拡大したことによって、国際組織犯罪が深刻化し、国際テロの脅威が高まっている。こうした中、日本警察による国際協力は、支援対象国(地域)の社会秩序の維持・安定という「良い統治(グッド・ガバナンス)」の実現のために重要な基盤づくりを支援し、また、犯罪対処能力の向上という支援対象全体の能力向上(キャパシティ・ビルディング)を図るものであるとともに、我が国の治安対策にも資するものであることから、その重要性は一層高まっている。

〔1〕 「国際協力推進要綱」の制定
 警察庁では、平成17年9月に、日本警察による国際協力の基本方針及びその方向性と今後実施すべき施策を明らかにした「国際協力推進要綱」を制定し、公表した。同要綱は、警察による国際協力が、国際社会の安定と発展に貢献するのみならず、我が国の治安対策にも資するとの意義を有していることを明らかにするとともに、警察による国際協力の総合的・体系的指針を初めて示したものである。警察としては、今後、同要綱に基づき、国際協力を積極的かつ効果的に推進することとしており、具体的には、特に〔2〕以下の形態の国際協力に力を入れている。

〔2〕 知識・技術の移転
 警察庁では、住民の理解と協力を得ながら治安維持に当たる我が国の警察の特質を生かし、日本警察が有する知識・技術の移転による国際協力を推進している。
 
 無線通話の指導
写真 無線通話の指導

 ア インドネシア国家警察改革支援プログラム
 警察庁では、インドネシアの民主化改革の一つである国家警察の改革を支援するため、インドネシア国家警察の要請を受け、独立行政法人国際協力機構(JICA)の協力の下、インドネシア国家警察改革支援プログラムを実施している。
 13年以降、国家警察長官政策アドバイザー兼プログラム・マネージャーとして警察庁の審議官級の職員を派遣し、インドネシア国家警察の改革に関する指導・助言に当たらせるとともに、14年からは、市民警察活動促進プロジェクトとして、ブカシ警察署(現メトロ・ブカシ警察署及びブカシ県警察署)に4人の警察職員を派遣し、組織運営、通信指令、犯罪鑑識等に関する助言・指導に当たらせている。このプロジェクトにおいては、日本からの援助により、17年末までにメトロ・ブカシ警察署管内に交番が3か所設置され、このうちの1か所の交番では、市民警察活動促進の一環として、市民に親しみやすい交番を目指し、勤務員を女性警察官のみとする運用が開始された。
 また、バリ州警察プロジェクトとして、世界的観光地を管轄するバリ州警察本部に警察職員1人を派遣し、観光地における地域警察活動に関する助言・指導に当たらせている。17年10月に発生したバリ島における爆弾テロ事件発生に際しては、ブカシ警察署を拠点としている犯罪鑑識専門家がその発生現場において、国家警察の鑑識担当職員らに対し、現場写真の撮影要領等、鑑識活動の指導に当たった。
 さらに、薬物対策プロジェクトとして、インドネシア国家警察本部刑事局薬物対策課に警察職員1人を派遣し、薬物取締分野の助言・指導に当たらせているほか、インドネシア国家警察の職員を研修員として日本に受け入れ、警察庁や都道府県警察で研修を行っている。

 イ タイ薬物対策地域協力プロジェクト
 このプロジェクトは、警察庁として初めて行う、複数の国を支援対象とする広域プロジェクトであり、タイ及びその周辺のカンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムにおける薬物分析技術と取締り能力の向上を目的として、14年6月から3か年計画として実施されてきたが、17年6月をもって終了した。
 なお、各国の要望を踏まえ、18年以降も、引き続き同地域に対する支援を行うこととしている。

 ウ フィリピン警察活動支援
 フィリピン国家警察に対する支援は、従来から警察職員2人を派遣し、初動捜査と鑑識に関する指導を行ってきたが、16年7月に無償資金協力として、指紋自動識別システム(AFIS)が供与されたことに伴い、17年には、更に警察職員2人を派遣し、その運用に関する指導を行った。
 このほか、同国の薬物取締り能力と薬物分析能力を向上させるため、フィリピン薬物法執行能力向上プロジェクトとして同年1月から警察職員1人をフィリピン薬物取締庁に派遣し、治安関係の職員を対象とした講義を開催するなどの指導を行っている。また、フィリピン薬物取締庁の職員を研修員として日本に受け入れ、警察庁や都道府県警察で研修を行っている。

 エ 研修生の受入れ
 日本の有する警察運営、交番制度、犯罪鑑識等に対しては、諸外国から高い関心が寄せられている。そこで、警察では、このような分野における知識や技術の移転を積極的に進めるため、アからウで述べた取組みのほか、研修受入れの充実も図っている。
 
 地域警察活動に関する研修風景
写真 地域警察活動に関する研修風景

 
 指紋検出技術の研修風景
写真 指紋検出技術の研修風景

〔3〕 国際緊急援助活動
 警察では、外国で大規模な災害が発生したときには、国際緊急援助隊の派遣に関する法律に基づき、被災地に国際緊急援助隊を派遣することとしている。
 最近では、17年10月に発生したパキスタン等での大地震に際して、救助チーム要員として捜索・救助活動や通信活動に当たる警察職員を同国に派遣した。
 同救助チームは、被害が甚大で、かつ、救助活動が手付かずであった北西辺境州のバタグラム郡に、外国救助チームとしては最も早く到着して、倒壊した病院や民家に対する捜索・救助活動を展開し、遺体の発見・収容を行った。
 
 パキスタンにおける国際緊急援助活動
写真 パキスタンにおける国際緊急援助活動

〔4〕 国際連合国際独立調査委員会(UNIIIC)への職員の派遣
 17年2月にレバノンのベイルート市内で発生したハリーリ元首相暗殺事件の調査のため、国際連合安全保障理事会決議1595号に基づき、国際連合国際独立調査委員会(UNIIIC)(注)が設置された。日本警察では、国際連合からの要請を受け、鑑識担当職員3人を派遣し、UNIIICが実行犯等を特定するため調査に協力した。

注:United Nations International Independent Investigation Commission


〔5〕 国際連合平和維持活動(国連PKO)における文民警察活動
 武力紛争後の国・地域の復興のために行われる文民警察活動については、「国際協力推進要綱」の中で、知識・技術の移転の面における我が国警察の特質をいかす形で、現地警察に対する助言や指導、監視を行うこととするなど、その方向性を明らかにしたほか、文民警察要員を育成するための教育訓練の在り方等について、調査研究を行った。

(2)国際的連携の強化
〔1〕 国際会議への参画
 ア G8各国との連携
 主要国首脳会議(サミット)においては、最近の犯罪情勢・テロ情勢を踏まえ、近年特に、国際組織犯罪、テロ等に関する問題が取り上げられることが多い。

 (ア)グレンイーグルズ・サミット
 2005年(平成17年)7月のグレンイーグルズ・サミットでは、開催期間中にロンドンで発生した同時多発テロを受け、サミット参加国はテロ対策に関する緊急共同声明を発表した。また、サミット最終日には交通機関のテロ対策強化を盛り込んだ「G8テロ対策声明」が採択され、G8が一致結束してテロと闘う方針を確認した。

 (イ)G8ローマ/リヨン・グループ
 G8国際組織犯罪対策上級専門家会合(リヨン・グループ)は、1995年(7年)のハリファックス・サミットにおいて、各種犯罪分野における刑事法制や法執行協力の在り方について検討する場として設置することが決定された。2001年(13年)の米国における同時多発テロ事件発生以降は、ハイジャック対策や国際テロの動向について意見交換を行う場として1978年(昭和53年)に発足したG8テロ専門家会合(ローマ・グループ)と合同で開催することとされ、名称もG8ローマ/リヨン・グループと改称された。現在、同グループには、法執行、刑事法、人身取引、ハイテク犯罪、テロ対策等の各課題を扱う様々なサブグループが置かれており、特に「DNA型情報の共有に関する計画」(注1)等、各国が協力して取り組むべき対策について検討を行っている(注2)。警察庁では、同グループの会合に継続的に参加し、議論に積極的に参画している。

注1:各国が保有するDNA型情報を共有することで、各種犯罪の捜査及び災害時の身元確認の効率化・迅速化を目指す計画
 2:「児童ポルノデータベースに関する計画」(各国が登録する児童ポルノ画像の国際的なデータベースを設置し、児童ポルノ関連事犯の捜査の効率化・迅速化を目指す計画)については、平成17年9月以降、国際刑事警察機構(ICPO-Interpol)において引き続き検討が行われることとされた。


 (ウ)G8司法内務閣僚会合
 G8司法内務閣僚会合は、1997年(9年)以降、2000年(12年)を除いて、毎年開催されており、日本からは国家公安委員会委員長や警察庁の幹部職員が出席し、国際組織犯罪対策やテロ対策についての日本の取組状況を報告するとともに、共同声明や行動計画の起草に参画している。
 2005年(17年)は、サミット議長国である英国のシェフィールドにおいて開催されたが、同会合では、国境を越えて行われる組織犯罪対策やテロ対策等に関する協議のほか、ローマ/リヨン・グループにおいて完結したプロジェクトの成果文書につき、G8として承認が行われた。

 イ アジア諸国との連携
 2004年(16年)以降、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国に加えて、日本、中国及び韓国の治安機関の閣僚が参加する、国境を越える犯罪に関するASEAN+3閣僚会合が開催されている。2005年(17年)には、11月に第2回会合がベトナムで開催され、警察からは国家公安委員会委員長が出席した。同会合においては、テロ、薬物犯罪、人身取引、マネー・ローンダリング等の国境を越える8つの犯罪分野において、協力して対策を講じていくこととされている。

〔2〕 二国間の連携
 警察では、日本との間で多くの国際犯罪が敢行される国や来日外国人犯罪者の国籍国を始めとする各国の治安機関との間で、個別の政策課題についての協議を行うことを通じて協力関係を深めているほか(第3章第4節第4項(2)〔2〕(181頁)参照)、当局間協力に関する文書についても策定を進めており、18年2月には、オーストラリア連邦警察との間で警察当局間協力に関する合意文書を策定した。
 
 日豪意図表明文書署名式
写真 日豪意図表明文書署名式

〔3〕 条約交渉への参画
 犯罪対策等に関する取組みの実施を法的に担保するためには、条約等の国際約束を締結し、法的拘束力をもたせる必要がある。警察庁では、各国との刑事共助条約の締結交渉や予備協議に積極的に参画しているほか、人の移動の自由化について議論されることが多い二国間の経済連携協定交渉についても、不法就労、不法滞在その他の犯罪を防止するために必要な制度が確保され、的確な対策が講じられるよう、交渉過程に参画している(第3章第4節第4項(2)〔3〕(182頁)参照)。

 15 国際社会における日本警察の活動

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