第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

2 安全・安心なまちづくりの全国展開

(1)犯罪対策閣僚会議と都市再生本部の連携
 近年、住居に犯罪者が侵入したり、街頭で犯罪の被害に遭ったりする事案が多発しているほか、子どもをねらった凶悪犯罪が続発している。また、人々が行き交う繁華街・歓楽街では、風俗店の違法営業が横行するなど風俗環境の悪化が進む一方、街が犯罪組織の活動拠点となっている。
 これに不安を覚える全国の地域住民の間では、警察等の取締りだけに頼るのではなく、自主的にパトロールや地域安全情報の発信を行うなど、自らの手で街の安全・安心を確保しようとする気運が高まっている。また、市区町村や事業者等も関与しながら、犯罪対策とまちづくりの施策を融合させ、平穏に生活できる街、健全なにぎわいのある街を再生しようとする動きも拡大している。
 政府では、こうした地域の自主的な取組みを支援し、官民連携した安全で安心なまちづくりを全国に展開するため、平成17年6月、犯罪対策閣僚会議と都市再生本部の合同会議を開催し、「安全・安心なまちづくり全国展開プラン」及び都市再生プロジェクト「防犯対策等とまちづくりの連携協働による都市の安全・安心の再構築」を決定し、両者調和させて推進していくこととした。警察庁及び都道府県警察も、これらの取組みに積極的に参画している。

(2)「安全・安心なまちづくり全国展開プラン」
 このプランは、官民連携した安全・安心なまちづくりに関し、「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」(平成15年12月犯罪対策閣僚会議決定。第6章第16項(284頁)参照)を補完するとともに、更にこれを加速化させるため、当面重点的に推進すべき施策を取りまとめたものである。同プランには、次の三つの重点課題別に合計61の推進施策が盛り込まれている。

 〔1〕 住民参加型の安全・安心なまちづくり全国展開

・ モデル事業・モデル調査の全国的実施 ・ 安全・安心なまちづくりデータベースの構築
・ 防犯ボランティアと防災ボランティアの連携強化 ・ 地域安心安全情報ネットワークの構築
・ 防犯ボランティア全国ネットワークの形成 ・ 内閣総理大臣による表彰制度の新設 等
 〔2〕 住まいと子どもの安全確保

・ 都市再生整備計画に基づく安全・安心なまちづくり ・ 地域ぐるみの学校安全体制の整備
・ 防犯性能の高い公的賃貸住宅等の整備 ・ コンビニエンスストア、ガソリンスタンド、大規
・ 住宅の購入・注文時における防犯性能の表示   模小売店舗等による地域安全活動の全国展開 等
 〔3〕 健全で魅力あふれる繁華街・歓楽街の再生

・ 違法性風俗店、暴力団、人身取引等の取締りの強化 ・ 落書きや違法広告のしにくい美しい街並みの形成
・ 街ぐるみの環境浄化活動の展開 ・ 歩行者優先の道路空間整備と違法駐車対策
・ 取締りにより生じた空きビル・空き店舗の転用 ・ 違法性風俗店や暴力団の入居阻止 等


(3)繁華街・歓楽街を再生するための総合対策の推進
 全国各地の繁華街・歓楽街における風俗環境は、取締り等の強化により改善されつつあるものの、依然いかがわしい広告や悪質な客引き行為が後を絶たず、また、暴力団や来日外国人犯罪組織による資金の獲得や謀議、情報交換の拠点となっているなど憂慮すべき状況にある。
 「安全・安心なまちづくり全国展開プラン」及び都市再生プロジェクト「防犯対策等とまちづくりの連携協働による都市の安全・安心の再構築」には、それぞれ「健全で魅力あふれる繁華街・歓楽街の再生」及び「大都市等の魅力ある繁華街の再生」が盛り込まれている。主要な繁華街・歓楽街を管轄する都道府県警察では、それぞれの繁華街・歓楽街が健全で魅力あふれるものとして再生することを目指し、繁華街・歓楽街における違法性風俗店、不法就労、暴力団等の犯罪組織等に対する取締りを行うとともに、街の新たな魅力づくりとの効果的な融合を目指した取組み等を推進している。
 
 図2-30 繁華街・歓楽街を再生するための総合対策の推進
図2-30 繁華街・歓楽街を再生するための総合対策の推進

〔1〕 違法性風俗店、客引き及び無料風俗案内所等の取締り
 繁華街・歓楽街の多くの地域では、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営適正化法」という。)等により、客に性的なサービスを提供する個室付浴場業や店舗型ファッションヘルスの営業が禁止されているが、エステティックサロンやマッサージ店を装って、店舗型ファッションヘルス営業を営む者が後を絶たず、また、最近では、接待飲食店営業等の風俗営業の許可を取得して合法な営業を装いつつ、店内を改装して店舗型ファッションヘルスを営む者も少なくない。このような違法営業に対する取締りを強化するため、風営適正化法の改正が行われ罰則が強化された。
 また、最近では、「カラス族」と呼ばれる黒い服を着たホストクラブ店員等や、「韓国エステ」、「中国エステ」と称する店舗型ファッションヘルス営業の従業員等が、客引きをするために通行人に付きまとったり、その進路に立ちふさがるなどしているほか、性的サービスを提供する店舗が入っている雑居ビルの壁面や無料風俗案内所等と称する店舗の出入口等に、卑わいな看板、ポスターが多数掲出されるなどしており、警察では、これらの行為を禁止する条例等による一斉取締りを実施するなど、対策を強化している。
 風営適正化法の改正では、これらの対策を強化するため、客引きのための付きまとい、立ちふさがり行為を禁止するとともに、ポスターの掲出やビラの配布等による性風俗店の広告宣伝の規制を強化し、これらの違反について罰則を設けている。

事例1
 店舗型ファッションヘルス経営者(59)らは、平成15年7月、条例により営業が禁止された地域においてカフェー営業を営むとして、不正の手段により広島県公安委員会から風俗営業の許可を取得し、17年1月までの間、店舗型ファッションヘルスを営業した。また、無料風俗案内所経営者(38)は、同ファッションヘルスが違法営業であることを承知の上、客を勧誘し、同ファッションヘルスに紹介した。同年2月、同ファッションヘルス経営者らを風営適正化法違反(許可不正取得、禁止地域営業)で、同風俗案内所経営者を同法違反(禁止地域営業)幇助で逮捕した(広島)。

〔2〕 繁華街・歓楽街における組織犯罪の取締り
 暴力団は、依然として各地の繁華街・歓楽街において、違法性風俗店や違法カジノ店等の経営への関与、規制薬物の密売、性風俗店や飲食店等からのみかじめ料、用心棒料等の徴収を資金源とするなど、不当な資金獲得活動を活発に行っている。また、繁華街・歓楽街においては、利権をめぐって暴力団同士又は暴力団と外国人犯罪組織等との対立事案が発生している。警察では、各種法令を駆使して取締りを強化している。

〔3〕 関係行政機関・防犯ボランティア団体との連携
 警察では、繁華街・歓楽街を健全で魅力あふれるものとして再生することを目指し、入国管理局、消防等の関係行政機関と連携して、合同の取締り・立入調査を行っているほか、防犯ボランティア団体、商店街振興組合等と連携し、合同パトロール、街の環境浄化、暴力団排除活動等の取組みを推進している。

事例2
 警視庁では、新宿歌舞伎町地区において、消防及び新宿区役所と合同で立入検査を行い、雑居ビル等に入居する性風俗営業等の営業形態、防火管理の状況等を把握し、指導取締りを推進しているほか、歌舞伎町ルネッサンス推進協議会のクリーン作戦プロジェクトに参画し、ボランティア等と共に、違法に設置された看板、露店等に関する指導・警告等、環境浄化に向けた活動を推進している。

〔4〕 交通秩序の回復・向上と健全なにぎわいの創出
 繁華街・歓楽街では、違法駐車、道路上での営業を不法に常態化している露店や屋台、道路上に不当に設置された性風俗店の立て看板等により、交通秩序が乱されている実態がみられる。警察では、繁華街・歓楽街における交通秩序を回復・向上させるため、道路管理者等と連携して、ボラードの設置等の車道狭隘化を進めるとともに、悪質性、危険性、迷惑性の高い違法駐車や道路不正使用に対する指導取締りを行っている。また、健全なにぎわいを創出するため、地方公共団体等が関与して地域活性化のためにイベント等が行われる場合には、その社会的意義を考慮しつつ、イベント等の開催に必要な道路使用の許可手続が円滑に進められるよう努めている。

事例3
 新宿歌舞伎町地区の通称花道通りは、従来から、暴力団関係車両等の無秩序な路上駐車が多かったことから、警視庁では、集中的な違法駐車の取締りを行うとともに、新宿区、地元住民等と連携し、法定駐停車禁止区間の車道両側にボラードを設置して車道幅員を狭めることにより、路上駐車の整序化と暴力団関係車両の排除を行っている。また、18年度には、新宿区が行う車道及び歩道の整備事業に協力し、安全で快適な歩行空間を確保することとしており、これらの取組みにより、同地区における交通秩序の回復・向上を図っている。
 
 ボラード設置前
写真 ボラード設置前

 
 ボラード設置後
写真 ボラード設置後

 
 車道・歩道整備事業実施後のイメージ
写真 車道・歩道整備事業実施後のイメージ

〔5〕 繁華街・歓楽街における魅力あるまちづくりへの取組み
 繁華街・歓楽街における魅力あるまちづくりのためには、関係者の間で、繁華街・歓楽街が抱える問題点について十分な議論を尽くし、その再生のために何が必要であるかについて合意を形成することが不可欠である。警察としても、これまで、市区町村、地域住民、事業者や関係機関等から構成される協議会等の設置に向けた働き掛けを行ってきたところであるが、今後、より一層、このような官民協働体制の整備に向けた働き掛けを強化するとともに、既に立ち上げられているまちづくりに関する協議会等に積極的に参画し、必要な情報を提供し、意見を述べるなどして、魅力ある繁華街・歓楽街の再生に向けた取組みを積極的に支援していくこととしている。

事例4
 東京都新宿区の歌舞伎町地区では、17年1月、歌舞伎町ルネッサンス推進協議会が設置され、地元商店街・町会・事業者や、東京都、新宿区、警視庁、東京消防庁、東京入国管理局、警察庁その他の国の関係省庁等が参画し、歌舞伎町地区の安全・安心と環境美化を推進するとともに、健全で魅力あふれるまちづくりを進め、歌舞伎町から新たな文化を創造し、発信していくことにより、安全な歌舞伎町地区を築き、だれもが安心して楽しむことができる街へと再生するための総合的な対策が推進されている。これまで協議会は3回開催され、各機関等の取組み状況や今後の展開の方向性について意見交換が行われた。

事例5
 17年12月、大阪市のミナミ地区では、「ミナミ再生」をテーマに地元商店会、地元住民、経済界、大阪府、大阪市及び大阪府警察からなるミナミ活性化協議会を設立し、健全で魅力あるまちづくりを目指した活動方針を取りまとめた。また、ミナミ地区をパレードし、「ミナミ再生」に向けた意識の醸成を図っている。
 
 啓発パレード
写真 啓発パレード

 
 はみ出し看板対策
写真 はみ出し看板対策
写真 はみ出し看板対策

(4)「安全・安心なまちづくり全国展開プラン」に基づく新たな施策の推進
 平成17年12月に開催された犯罪対策閣僚会議において、安全・安心なまちづくりについて、その重要性を幅広く周知し、これを推進する気運を全国的に広げて各地域における取組み意欲を更に高揚させるため、毎年10月11日を「安全・安心なまちづくりの日」とするとともに、安全・安心なまちづくりの推進に顕著な実績を挙げた団体・個人を、内閣総理大臣により表彰する制度を新設することが決定された。この決定に基づき、警察庁では、18年から「安全・安心なまちづくりの日」の前後の期間において、国民の幅広い参加を得た取組みを集中的に推進することとしている。

 第3節 安全で安心な暮らしを守る施策

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