第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

第3節 安全で安心な暮らしを守る施策

1 子どもの安全対策

(1)子どもが被害者となる犯罪
〔1〕 子どもの被害状況
 刑法犯に係る13歳未満の子どもの被害件数(以下「子どもの被害件数」という。)は、平成14年以降減少傾向にあり、17年における子どもの被害件数は3万4,459件と、前年より2,595件(7.0%)減少した。
 同年における全刑法犯被害件数に占める子どもの被害件数の割合の高い罪種についてみると、略取誘拐が37.5%(104件)と最も高く、強制わいせつが15.8%(1,384件)、公然わいせつが12.6%(132件)、殺人が7.6%(105件)となっており、全刑法犯被害件数に占める子どもの被害件数の割合(1.8%)と比べ、特に高くなっている。
 
 図2-27 刑法犯に係る13歳未満の子どもの被害件数の推移(平成8~17年)
図2-27 刑法犯に係る13歳未満の子どもの被害件数の推移(平成8~17年)
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 図2-28 子どもの罪種別被害状況の推移(平成8~17年)
図2-28 子どもの罪種別被害状況の推移(平成8~17年)
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 同年中には、広島市及び栃木県今市市(現日光市)の小学1年の女子児童が相次いで殺害されたほか、京都府宇治市では小学6年の女子児童が通っていた学習塾において講師に殺害されるなど、子どもが被害者となる悲惨な事件が続発した。これらの事件の発生を受けて、警察では、学校、教育委員会、防犯ボランティア団体等と連携し、子どもを犯罪から守るための取組みを一層推進している。

事例
 ペルー人の男(30)は、学校から帰宅途中の小学生の女児(7)を殺害し、段ボール箱に入れて遺棄した。17年11月、殺人罪等で逮捕した(広島)。

〔2〕 犯罪から子どもを守るための施策
 警察では、通学路の安全を確保することによって、子どもが被害者となる事件を未然に防止し、子どもが安心して登下校することができるよう、通学路や通学時間帯に重点を置いた警察官によるパトロールを強化するとともに、退職した警察官等をスクールサポーター(第2章第4節第2項(3)〔3〕(143頁)参照)として委嘱し、積極的に学校へ派遣するなどして、学校と連携して、学校や通学路における児童生徒の安全確保、児童生徒の非行防止、立ち直り支援等に関する施策を推進している。
 また、子どもが被害に遭った事案や子どもに対する犯罪の前兆と思われる声掛けや付きまとい等の発生に関する情報については、迅速に児童、保護者に対し情報提供が行われるよう、警察署と小学校、教育委員会との間で電話やファックス等による情報共有体制を整備している。さらに、これらの情報を都道府県警察のウェブサイトで公開するとともに、電子メール等を活用した情報提供システムによる情報発信を行うなど、地域住民に対する積極的な情報提供を実施している。
 そのほか、通学路や学校周辺を子どもや保護者、地域住民等が歩き、道路、公園、駐車場や空き地等における死角や暗がり等の危険箇所を確認する通学路の安全点検の実施や、安全点検の結果に基づいた「地域安全マップ」の作製に対し、学校や教育委員会と連携して支援を行っている。
 
 不審者情報の提供
写真 不審者情報の提供

 
 地域安全マップの作製
写真 地域安全マップの作製

 そのほか、子どもが犯罪の被害を予見する能力や被害を回避する能力を向上させるため、幼稚園や保育所、小学校等において、学年や理解度に応じた腹話術、紙芝居、演劇等により、子どもが体験、実践することができる防犯教室を学校や教育委員会と連携して開催しているほか、教職員に対しては、不審者が学校に侵入した場合の対応要領の指導等を行っている。さらに、子どもが危険に遭遇した場合に助けを求めることができ、子どもの一時的な保護と警察への通報等を行うボランティアである「子ども110番の家」に対し、ステッカーや対応マニュアル等を配布するなどの支援を行っている。
 
 子どもに対する被害防止教育
写真 子どもに対する被害防止教育

 
 子ども110番の家マニュアル
写真 子ども110番の家マニュアル

〔3〕 地域住民等と連携した子どもを見守る活動
 子どもを犯罪の被害から守るためには、警察や教育委員会、学校による取組みを推進することはもとより、子どもを取り巻く地域ぐるみで子どもを見守る意識を持つことが重要である。
 平成17年12月末現在、自主的に地域のパトロール等を行う防犯ボランティア団体は1万9,515団体把握されており、その数は年々増加しているが、そのうち通学路における子どもの保護・誘導を主な活動内容とする団体は1万2,816団体と、全体の65.7%に上っている。
 警察では、これらの防犯ボランティア団体に対し、活動拠点の整備や資器材等を提供しているほか、防犯ボランティア団体との合同パトロールを実施するなど、自主防犯活動を積極的に支援している。
 また、ボランティア団体としての活動のほか、子どもの通学時間帯に合わせて地域住民が玄関先の掃除や散歩、買物を行うなど、日常生活の中で子どもの安全確保に配慮した取組みが各地で行われている。
 
 地域住民による子どもの見守り活動
写真 地域住民による子どもの見守り活動

 
 防犯ボランティア団体による活動
写真 防犯ボランティア団体による活動

コラム1 犯罪から子どもを守るための対策

 17年に広島市(11月)及び栃木県今市市(現日光市、12月)の女子児童が相次いで殺害された事件を受け、政府は、同年12月、子どもを守るための対策が関係省庁の連携の下円滑に行われるよう省庁間の連絡調整を図ることを目的として、内閣官房副長官補を議長とし、内閣府、警察庁、総務省、法務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省の事務担当局長により構成される、「犯罪から子供を守るための対策に関する関係省庁連絡会議」を発足させた。
 同連絡会議において、すべての小学校区における全通学路等の緊急安全点検、全小学校における防犯教室の緊急開催、すべての地域における不審者情報の共有体制の緊急立ち上げ等の「緊急対策6項目」を含む登下校時の子どもの安全確保等のための対策及び犯罪から子どもを守るための総合対策を盛り込んだ「犯罪から子どもを守るための対策」が取りまとめられた。この対策は、同月開催された犯罪対策閣僚会議(第6章第16項(284頁)参照)において報告され、対策に盛り込まれた各施策を、政府全体として着実に推進することが確認された。

「犯罪から子どもを守るための対策」(抄)

一 登下校時の安全確保等のための対策
1 緊急対策6項目
 (1)全通学路の緊急安全点検 (2)すべての学校における防犯教室の緊急開催
 (3)すべての地域における情報共有体制の緊急立ち上げ(4)学校安全ボランティアの充実
 (5)路線バスを活用した通学時の安全確保 (6)国民に対する協力の呼び掛け
2 重点的に推進する項目
 (1)学校における対策 ○学校の安全管理対策 ○防犯教育の推進
 (2)地域における対策 ○犯罪を起こしにくい環境整備 ○子どもを守るための諸活動の充実 ○情報通信技術の活用
 (3)犯罪対策 ○取締りの強化 ○再犯防止等
二 犯罪から子どもを守るための総合対策
1 学校における対策 ○学校の安全対策の充実 ○防犯教育の充実 ○学校施設の安全
2 地域における対策 ○犯罪を起こしにくい環境整備 ○子どもを守るための諸活動の充実 ○情報通信技術の活用
3 犯罪対策 ○取締りの強化 ○再犯防止等

コラム2 「子ども安全・安心加速化プラン」~子どもたちを非行や犯罪被害から守るために~

 18年6月、政府は、犯罪対策閣僚会議・青少年育成推進本部合同会議を開催し、子どもを非行や犯罪被害から守るための対策に関する関係省庁プロジェクトチームにおいて取りまとめた「子ども安全・安心加速化プラン」を了承した。同プランでは、
 ・ 地域の力で子どもを非行や犯罪被害から守る
 ・ 犯罪に巻き込まれない力を地域で育む
 ・ 困難を抱える子どもの立ち直りを地域で支援する
ことを重点として、家庭、学校、地域住民及び行政機関が一体となって、子どもを非行や犯罪被害から守るための対策を加速化する取組みを進めることとした。

(2)少年の福祉を害する犯罪
 警察では、児童に淫行をさせる行為のように、少年の心身に有害な影響を与え少年の福祉を害する犯罪(福祉犯)の取締りと被害少年の発見・保護を推進している。特に、児童買春や児童ポルノについては、平成16年7月から、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律が施行され、児童ポルノの提供等が禁じられたことなどを踏まえ、取締りを強化している。
 また、日本国民が国外で犯した児童買春、児童ポルノ事犯等の取締りや国際捜査協力を強化するため、警察庁では、17年11月、東南アジア3か国の捜査関係者、非政府組織(NGO)等を招いて、児童の商業的・性的搾取対策東南アジアセミナーを開催し、各国の児童買春等の状況や取組み等について意見交換を行った。
 
 図2-29 福祉犯の法令別検挙人員(平成17年)
図2-29 福祉犯の法令別検挙人員(平成17年)
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 表2-14 福祉犯の被害少年の学職別状況(平成16、17年)
表2-14 福祉犯の被害少年の学職別状況(平成16、17年)
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 表2-15 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律による検挙状況(平成16、17年)
表2-15 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律による検挙状況(平成16、17年)
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(3)有害環境の浄化(第1章(1頁)参照)
 警察では、インターネット上の違法・有害情報に少年が触れることのないようにするため、啓発活動等様々な取組みを実施したり、性や暴力等に関する過激な情報を内容とするコンピュータ・ソフト、ビデオ、雑誌等に関して、関係業界に対する働き掛けや悪質な業者に対する指導取締りを実施したりしている。また、未成年者が酒類やたばこを容易に入手できないようにするため、同様の対応をとっている。

(4)暴力団等の影響の排除
 警察では、暴力団員等が関与する福祉犯等の取締りを積極的に行うとともに、補導活動や少年事件の取扱いを通じて少年の暴力団等への加入状況の把握に努め、暴力団等からの離脱促進や新たな少年の暴力団等への加入阻止のための対策を推進している。

(5)少年の犯罪被害への対応
 平成17年中の少年が被害者となった刑法犯の認知件数は32万6,042件であり、このうち凶悪犯は1,668件、粗暴犯は1万8,039件であった。
 警察では、被害少年に対して、継続的にカウンセリングを行うなどの支援を行っている。また、大学の研究者、精神科医、臨床心理士等部外の専門家を被害少年カウンセリングアドバイザーとして委嘱し、支援を担当する職員が専門的な助言を受けることができるようにしている。

(6)児童虐待対策
 平成17年中の警察の相談窓口における児童虐待に関する相談の受理件数は1,861件(前年比28件増)と、過去10年間で7.2倍に増加した。
 また、17年中の児童虐待事件の検挙件数は222件(前年比7件減)、検挙人員は242人(前年比11人減)、被害児童数は229人(前年比10人減)であった。このうち、殺人及び傷害致死による検挙人員は44人(前年比18人減)であった。
 警察では、街頭補導、少年相談等様々な活動の機会を通じ、児童虐待事案の早期発見と児童相談所等への確実な通告に努めるとともに、都道府県知事・児童相談所長による児童の安全確認や一時保護、立入調査を円滑化するための援助を実施している。また、被害児童のカウンセリング、保護者への助言・指導、訪問活動による家庭環境の改善等の支援に取り組んでいるほか、要保護児童対策地域協議会(注)等に積極的に参画するなど、学校、児童相談所等の関係機関との情報交換や連携強化に努めている。

注:児童福祉法第25条の2第1項により、地方公共団体が、要保護児童の適切な保護を図るため、必要な情報の交換を行うとともに、要保護児童及びその保護者に対する支援の内容に関する協議を行うため設置できるとされた協議会


 
 表2-16 児童虐待に関する相談受理件数の推移(平成8~17年)
表2-16 児童虐待に関する相談受理件数の推移(平成7~17年)
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 表2-17 児童虐待事件の態様別検挙状況(平成16、17年)
表2-17 児童虐待事件の態様別検挙状況(平成16、17年)
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事例
 無職の女(21)は、17年10月、長女(5か月)を連れて家出し、同長女を宿泊先に放置しホストクラブに通い続けるなどして、同長女を餓死させた。同月、殺人罪及び死体遺棄罪で逮捕した(大阪)。

 第3節 安全で安心な暮らしを守る施策

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