第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

9 金融・不良債権関連事犯と企業犯罪

(1)金融・不良債権関連事犯
 平成17年中の金融・不良債権関連事犯の検挙事件数は116件と、前年より28件(19.4%)減少した。その内訳は、融資過程における詐欺事件等が20件、金融機関による債権回収の過程で民事執行を妨害するなどした強制執行妨害事件等が47件、金融機関の役職員による詐欺、業務上横領事件等が49件であった。
 
 図2-22 金融・不良債権関連事犯の検挙事件数の推移(平成8~17年)
図2-22 金融・不良債権関連事犯の検挙事件数の推移(平成8~17年)
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事例1
 会社員(46)ら6人は、15年3月ころから5月ころにかけて、虚偽の給与所得の源泉徴収票、不動産売買契約書等を用い、地方銀行に住宅ローンの借入れを申し込むなどして、合計約9,000万円をだまし取った。17年10月までに、詐欺罪で検挙した(警視庁)。

事例2
 地方銀行の元支店長(60)ら4人は、13年4月及び5月、建設会社に対する貸付けの担保として根抵当権を設定していた不動産について、実際には約4億円で売却しようとしているにもかかわらず、約2億3,000万円で売却すると虚偽の説明をし、元支店長が勤務する地方銀行に根抵当権の抹消を承諾させた後、根抵当権の登記を抹消させ、財産上不法な利益を得た。17年8月、詐欺罪で検挙した(埼玉)。

事例3
 都市銀行の元派遣社員(55)は、キャッシュカードの発行を希望し、そのキャッシュカードを同派遣社員に届けてほしい旨記載された虚偽の普通預金申込書を用いて顧客名義のキャッシュカードをだまし取り、同キャッシュカードを使用して13年11月から14年2月にかけて、約4,800万円を現金自動預払機(ATM)から引き出した。17年11月、詐欺罪等で逮捕した(神奈川)。

(2)企業犯罪
 17年中は、商社の社員らによる粒子状物質減少装置売却名下の詐欺事件や全国農業協同組合連合会の元県本部長らによる業務上横領事件等社会的反響の大きい事件を検挙した。

事例4
 商社の社員(47)ら3人は、既に東京都知事から指定を受けた粒子状物質減少装置の指定内容の変更を申請するに当たり、虚偽の排出ガス試験の結果を東京都に提出し、不正に東京都知事の指定を受けた上、14年12月ころから15年2月ころにかけて、東京都交通局担当官らに対し、同粒子状物質減少装置が適正に知事の指定を受けたものであるかのように装って売却を申し込み、同装置約60台の物品供給契約を締結させ、同年4月、約5,700万円をだまし取った。17年6月、詐欺罪で逮捕した(警視庁)。

事例5
 全国農業協同組合連合会の元県本部長(62)ら12人は、16年3月ころから同年5月ころにかけて、同連合会が県内の農業協同組合を介して約2,000人から売渡委託を受けて預かり保管中の玄米合計約760トン(時価合計約2億5,000万円相当)を関連会社を通じて売却し、横領した。17年11月までに、業務上横領罪で検挙した(秋田)。

(3)財務捜査体制の整備
 金融・不良債権関連事犯や企業犯罪のように、法人の経済活動に関連して行われる犯罪の捜査では、背景、動機、実行行為等を明らかにするため、伝票、帳簿類等の客観的な資料に基づいて、法人等の財務の実態を解明することが不可欠である。
 このため、15年4月に警察大学校に設置した財務捜査研修センターでは、全国の捜査員を対象に、簿記その他の財務捜査に必要な知識や効果的な財務捜査の手法等についての教育を行うとともに、最新の企業会計制度等に即した財務捜査手法等の調査研究を行っている。
 また、都道府県警察では、高度な機能を備えた財務解析用機器の整備を進めているほか、公認会計士等の資格を有する者や民間企業での会計事務の経験がある者を財務捜査官として採用するなど、体制の強化に努めている。
 
 財務捜査研修センターでの研修風景
写真 財務捜査研修センターでの研修風景

 第1節 最近の犯罪情勢とその対策

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