第1章 組織犯罪との闘い 

オ 薬物の密輸・密売事犯における関係

 薬物密輸の多くは,海外の密輸組織と暴力団等とが結託して行われている。従来,暴力団と海外の密輸組織が連携し,海外の密輸組織が密輸した薬物を暴力団が荷受けする手口が多くみられたが,近年では,海外の密輸組織が密輸した薬物をその構成員等が我が国で保管し,暴力団に譲り渡している事例もみられるようになっている(薬物の密輸事犯における海外の密輸組織と暴力団との関係については,4(2)ア(ウ)参照)。
 一方,薬物,とりわけ覚せい剤の密売事犯においては,暴力団とイラン人との間に連携がみられるが,その関係は,バブル経済崩壊以降に不良化した来日イラン人が変造テレホンカードの密売等に加え,より利益があがる薬物密売を敢行するようになり,次第に連携を深めていったものとみられる(イラン人薬物密売組織の成立の背景とその実態については,1(3)ウ参照)。
 イラン人薬物密売組織は,多種多様の薬物を扱っており,大麻等の一部の薬物は,ロシア人犯罪組織等から独自の密輸ルートを用いて入手しているが,覚せい剤については,その多くを暴力団から供給を受けているものとみられる。また,暴力団が場所代名目で薬物密売の収益の一部をイラン人薬物密売組織から収受している事例もみられている(図1-66)。

 
図1-66 暴力団とイラン人薬物密売人との間の薬物犯罪収益の流れ

図1-66 暴力団とイラン人薬物密売人との間の薬物犯罪収益の流れ

事例1
 覚せい剤等を密売していたイラン人密売人(35)らを検挙したところ,密売していた覚せい剤については栃木県内に縄張を持つ山口組系暴力団幹部(28)から,大麻については仲間のイラン人から仕入れていたことが明らかとなり,14年7月,同暴力団幹部を麻薬特例法違反で検挙した。イラン人密売人らは,10グラム当たり約8万円から約12万円で覚せい剤を仕入れ,0.3グラム当たり1万円で密売していた(栃木,群馬,茨城)。

事例2
 警視庁と厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部は,15年3月までに,都内繁華街で薬物密売を行っていたイラン人から場所代として現金を徴収していた住吉会傘下組織の組長(57),四次組織の組長(53)らとイラン人(38)らを麻薬特例法違反で検挙した。
 組長らは,10年ころから自己の縄張内の繁華街で,イラン人による薬物密売が活発になってきたと認識したが,イラン人密売人を排除するよりも,場所代名下に現金を徴収して組の活動資金にしようと考え,配下の組員に指示し,パトロールと称して複数の組員が縄張内を回らせ,イラン人密売人から薬物犯罪収益のうち1か月最低25万円を徴収していた。一方,イラン人密売人らも,安定した薬物密売ができるよう,薬物犯罪収益の一部を支払うことに決め,取りまとめ役のイラン人が末端のイラン人密売人から薬物犯罪収益を徴収し,これを組の集金役に支払っていた(警視庁)。

 

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