第1章 組織犯罪との闘い 

エ 不法就労事犯における関係

 不法就労事犯における暴力団員と来日外国人の関係は複雑である。
 共犯事件に関する調査から判明した代表的な形態は,次のようなものである。外国を拠点とする犯罪組織が,母国において,日本で性風俗関連の仕事に就くことを望む女性を募集し,数人単位で日本に引率したうえで,暴力団員等に一定の金額の現金と引き替えに引き渡す。女性が来日する際は,観光目的等の短期入国資格で入国する。暴力団員は,日本における性風俗関連営業の就労先を探し,そこでの就労をあっせんする。外国人女性が性風俗関連営業の就労先で稼いだ収益は,就労先の事業者と暴力団員が一定の割合で分配する。女性は,日本に滞在する間は,住居,食事のほかには,小遣い程度の金銭を与えられるだけであるが,短期の滞在期間を経過して母国に帰国した後に,外国の犯罪組織の者から一定の金額の報酬を受け取る(典型的な共犯形態に関して図1-65参照)。

 
図1-65 不法就労事犯における共犯形態の例

図1-65 不法就労事犯における共犯形態の例

 このように,外国人犯罪組織と暴力団とが,直接取引をしている事例のほか,外国に本拠をおく日本人プロモーターが,日本の暴力団員と取引をしている場合や,日本側の外国人女性の受入れ組織が,暴力団の庇護を受けたプロモーターである場合もある。このような場合には,報酬の配分や暴力団との関係は,必ずしも明確ではない。
 また,日本人のプロモーターが手引きして,不法に入国した外国人女性が,都内の新宿,池袋等の街頭で売春の勧誘をし,日本の暴力団がこれらの女性からショバ代と称して,一人一日あたり8,000円の金銭を要求,収受していた事例もある。
 いずれにしても,日本の性風俗関連営業等で働く外国人女性は,母国及び日本の犯罪組織のえじきとなっており,このような形態の犯罪が,犯罪組織の大きな資金源となっている(図1-65)。

事例
 日本人乙は,以前からの知り合いのロシア人Aと再会した。Aから「ロシア人女性を日本に渡航させ,性風俗の仕事をさせて,儲けないか」と持ちかけられ,ロシア人女性の不法就労の仕事に加わることにした。
 乙は,以前からの知り合いの指定暴力団三次組織組長甲に犯行を持ちかけ,甲はこれに加わることとした。
 Aは,ロシアで,ロシア人女性を募り,短期滞在で日本に入国させ,これを甲らに引き渡し,甲は引き渡された女性を都内の複数の性風俗関連営業の店にあっせんした。
 甲らは,女性の引き渡しを受ける際に,Aに対して,女性一人につき3か月の滞在で108万円と往復の渡航費用8万円を支払うほか,女性の滞在に必要な経費を負担した。また,甲らは,引渡しを受けたロシア人女性を性風俗関連営業の店にあっせんし,そこでロシア人女性が働いて得た収益を,店側と折半していた。
 他方,Aは,ロシア人女性が3か月の滞在を終えて帰国した際,報酬として,一人当たり3,900米ドルを支払っていた。
 甲とAは,12年4月,警視庁及び富山県警察に入管法(不法就労助長罪)で摘発されるまでに20人以上の女性を日本に入国させ,性風俗関連営業の店にあっせんしていた(警視庁,富山)。

 

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