第1章 組織犯罪との闘い |
事例1
指定暴力団四次組織の組員甲は,飲食店において,ロシア人Aらと知り合い,何度か飲食を共にするうちに,Aらが日本で高級自動車を窃取し,ロシアに密輸出していることを知り,報酬を得て,甲の配下組員3人と共に自動車窃盗の手伝いをするようになった。 しかし,甲らが自動車窃盗に習熟するに伴い,甲らとAの関係は,甲らがAの手伝いをするものから,甲らが窃取した車両をAが買い取り,ロシアに輸出する形態に変化した。 甲らは,ロシアでの需要が高い一定車種の高級RV車のみを効率よく窃取するため,一般人のガソリンスタンド店員乙を窃盗グループに取り込み,乙は,ガソリンスタンドの顧客の車両のうち,一定の車種の高級RV車に絞って車両の保管場所,鍵番号を記録し,甲の配下組員に伝える役割を担っていた。甲の配下組員は,鍵番号から当該車両の合い鍵(かぎ)を作成し,保管場所を確認していた。 Aは,盗難車をロシアに運ぶ船舶の船長との交渉及びロシアでの販売の一切を取り仕切っており,船舶が入港する日時,場所が確定するとそれを甲に知らせており,また,ロシアで販売する車両の車種についても,甲に指定していた。 Aから連絡を受けた甲は,乙から入手したリストをもとに,あらかじめ作成していた合い鍵を利用して車両を窃取し,Aから指定された日時,場所に,指定された車種の盗難車を届け,Aがこれを買い取っていた。 甲は,自らの報酬は一台当たりの買取価格である10万円で,甲が4万円を受け取り,残りの6万円を配下組員3人に2万円ずつ分割したと主張したが,同種の事案における同種の盗難車の買取価格と比較すると,極端に低額であり,その真偽は定かではない。 北海道警察では,13年7月,甲ら日本人被疑者6名,ロシア人被疑者2名を検挙したが,ロシア人主犯格のAは逃亡中であることから,ロシアでの盗難車の販売価格は判明していない(北海道)。 |
事例2
指定暴力団三次組織の組員乙は,パキスタン人の中古車買取り・輸出代行業者Aから,「ランドクルーザーをロシア,イギリス,ドバイ等に輸出販売するルートがある。乙さんが,盗難車を用意できれば買い取る」などと持ちかけられた。乙からこの話を聞いた同三次組織幹部の甲は,乙を含む配下指定暴力団員乙,丙,丁,戊,己をリーダーとし,不良少年らを構成員とする5つの自動車窃盗グループを組織し,Aから注文を受けた車種の高級自動車を本格的に窃取し始めた。 12年4月,甲らは,盗難車をAのほか,パキスタン人ブローカーB,日本人ブローカーCの3者を経由して,ロシア,イギリス,ミャンマー,中近東各国に輸出するとともに,「ロシアマフィアの国内エージェント」を自称する日本人にも販売していた。販売価格は,1台60万円程度であった。甲は,これらの国外販売ルートとは別に,国内販売ルートをも構築していた。 盗難車の販売代金は,窃盗の実行行為者に半額,各窃盗グループのリーダーである乙,丙,丁,戊,己に半額とされ,各窃盗グループのリーダーから,甲に対して販売代金の数%が上納されていた。 これらの被害は,1都1道9府県にわたり,被害車両626台,被害総額23億6,200万円に及んだ(神奈川,富山)。 |
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