第1章 組織犯罪との闘い 

エ 香港三合会

 香港三合会(以下「三合会」という。)とは,17世紀に清朝の支配に抵抗するために生まれた政治的な団体が,その後,次第に変質して香港において売春,賭(と)博等を支配する犯罪組織になったものの総称である。現在,約3万人の構成員,大小約50の三合会が存在し,そのうち活動が活発な組織は「和勝和」,「新義安」,「14K」等,10~20組織といわれている。
 組織の構成は,首領の下,個別の役割を帯びた幹部,構成員,準構成員がいる伝統的な構造(図1-19参照)から,首領の下に複数のグループリーダーがおり,その下に構成員,準構成員がいるといった単純で実利的なものに変化しつつあるといわれる。

 
図1-19 三合会の伝統的組織構造

図1-19 三合会の伝統的組織構造

 資金獲得は,縄張内の風俗店等からのみかじめ料徴収,賭博場の経営,薬物取引,管理売春,債権取立て等,多様な非合法ビジネスを行いつつ,運送業や娯楽産業等の一般社会の経済分野にも進出しているとみられる。
 我が国ではこれまで,三合会の構成員が首領として指揮を取りヒットアンドアウェイ方式により貴金属店に対する強盗を敢行したり,構成員らが日本国内に偽造工場を設けクレジットカードを偽造し,これを用いて商品を騙(だま)し取った事件等がみられる。後者の例では,磁気情報をスキミングされた店舗が米国,カナダ,シンガポール等世界各地にわたり,我が国での被害総額は約20億円に上るなど,国際的規模で敢行されている事件もみられる。また,新宿の歌舞伎町で活動がみられた香港出身者からなるクレジットカード偽造グループに対する捜査の過程でその背後に三合会の関与がうかがわれるものもあった。

コラム9 三合会の位置付け(被疑者の声)
 三合会は,歴史の古さ,組織性の強さ等から,アジア地域における代表的な犯罪組織の例として我が国の暴力団とともに挙げられることが多いが,暴力団と比較した場合,構成員個人の利益追求を目的とした横のつながりの側面が強いことや,香港では三合会の構成員であること自体が取締りの対象であることから秘密性が高いといった相違点がみられる。例えば,クレジットカード偽造等事件での検挙被疑者が次のように話している例がみられる。
 ・黒社会に入会しなければ,黒社会のメンバーにいじめられる。
 ・個人主義になっており,自分の利益のために活動する。
 ・組織員であるメリットは,仕事にありつきやすいことやトラブルの際に組織が助けてくれることである。同じ組織の者にもめ事が生じていれば,組織で団結して解決する。
 ・組織員であることのデメリットは,黒社会の者というだけで警察に捕まってしまうことである。
 ・相手が信用できなければ黒社会の一員であることを明かさない。

 

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