第1章 組織犯罪との闘い 

ウ 韓国人すりグループ

 来日韓国人すりグループは,平成に入ったころから活動が目立ち始めた。これらは2,3人から10人程度のすり常習者によって形成されており,メンバーが離脱して別のグループを構成するような例はみられるものの,各グループを統括する上位者の存在等はなく,基本的に各グループ単体で活動しているものとみられる(図1-18)。

 
図1-18 韓国人すりグループの構造

図1-18 韓国人すりグループの構造

 我が国での犯行形態は,観光目的の短期滞在の在留資格等により来日し,犯行後は韓国に逃げ帰るいわゆるヒットアンドアウェイ方式により,広域にわたってすりを行うものであり,犯行時には刃物や催涙スプレー等の凶器を携帯し,犯行が発覚すると,これらの凶器を用いて警察官や被害者に抵抗し,逮捕を免れようとするなどの特徴がある。
 すりの手口は,「見張役」及び周囲からの「壁役」が被害者から数メートル離れた位置,あるいは近接した位置に立ち,「抜き役」が被害者が持つバッグの側面や上着の内ポケットにかみそり等の鋭利な刃物で切れ目を入れ,財布を抜き取るというものが多くみられる。「足止め役」が携帯電話や小銭を落として被害者の進路を妨害したり注意を引きつけているうちに盗み取る例もある。また,混雑の少ない日中等の時間帯でも被害者を取り囲むようにして犯行を行っている。
 近年はすり取った銀行カードで預金を引き出す手口(CD盗)も目立っているが,事後的に生年月日等から暗証番号を推察するものだけでなく,あらかじめCD機を利用する客の前後に並び暗証番号を盗み見た上ですりを敢行している例がみられる。

 
韓国人すりが携帯していた凶器

韓国人すりが携帯していた凶器

 
改札口付近での犯行状況(中央部の丸印を付したのが被害者)

改札口付近での犯行状況(中央部の丸印を付したのが被害者)

事例
 在日韓国人を含む韓国人すりグループは,13年2月から14年4月にかけて,高度に組織化された役割分担の下,駅構内等でのすり,置引き及び入手した銀行カードを使用した預金の払戻しを繰り返し,メンバーは首領から収益の配分を受けるなどして活動していたものである。
 本件では,在日韓国人が韓国内のすり常習者で構成されたすりグループを我が国に招き入れ,アジトの段取り,道案内等を行っていた。一部のメンバーは,来日後グループを離脱して別の新たなグループを結成しており,10人前後からなる3グループが把握された。
 活動範囲は,近畿圏から中国,九州方面へ車両等で移動するなど,広域にわたり,また,メンバーは入国後,3~10日後には韓国に出国するという動きを繰り返していた。
 上記グループは,この間,合計約180件のすり,置引き,預金払戻しを敢行し,被害総額は約1,800万円に及んだものであり,14年7月までに,在日韓国人を含む韓国人被疑者12人を検挙した(大阪,京都,兵庫,奈良)。

コラム8 来日目的(被疑者の声)
 韓国人すりグループが我が国で活動する理由として,韓国内ですりを敢行するよりも効率がよいとか,捕まりにくいなどの意識を持っていることがうかがえる。例えば,検挙被疑者の取調べ過程で,次のように話している例がみられる。
 ・日本円を韓国ウォンに換金する場合の価値を考えれば,旅費を使っても日本円をすり取った方が儲けになる。
 ・日本人はすりに対する防衛意識が希薄であり,犯行が容易である。韓国では被害が多発していることをテレビや新聞等で報道しているので,防衛意識が強く,韓国の女性はバッグを体の前に抱えるなどしている。
 ・万一逮捕された場合も日本は刑が軽く,初犯であれば執行猶予で出られる。
 ・日本では顔を知られていないので,来日してすりをやる。韓国では否認をしても前科があったり,顔を知られていることから捕まってしまう。

 

テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む