第1章 組織犯罪との闘い |
コラム3 資金獲得の場所として我が国を選んだ理由(被疑者の声)
資金獲得の場所として我が国を選ぶ理由について,経済格差のほか,他国と比べ取締りや量刑が厳しくないなどという意識を持っている状況がうかがえ,検挙された中国人被疑者の取調べの過程で,次のように話している例がみられる。 ・短期間で大金を稼ぐことができる。犯罪であれ何であれ,金を稼いだ者が成功者である。 ・本当はアメリカに行きたいが警察官に撃たれるなどの危険性もあり,刑も重い。 ・日本の警察は絶対に殴らない。運悪く捕まっても,否認していれば退去強制されるだけで済む。捕まることは恐いが,警察自体は恐くない。 ・日本は刑が軽く,窃盗でもせいぜい数年なので我慢できる。 ・日本の刑務所はきれいで,テレビも見られ,中国での生活より楽だといわれている。 |
コラム4 新宿歌舞伎町における中国人犯罪組織の勢力の推移
新宿歌舞伎町は来日外国人のい集場所であり,中国人犯罪組織は情報交換,薬物取引等において歌舞伎町を利用し,勢力の拡大を図ってきた。集中的な取締りの影響により,都内の大久保,池袋等,あるいは地方都市に組織が分散する傾向がみられるが,今なお重要な活動拠点であることに変わりはない。 平成4年ころまで台湾グループ(台湾出身者の犯罪組織)が活発に活動していたが,集中的な取締りを受けて分散,沈静化し,その後,上海グループ(上海出身者の犯罪組織)が台頭してきた。上海グループは,上海での経歴,歌舞伎町内での信望等から自然に上下関係ができているが,離合集散が激しい状況がみられる。上海グループについても,現在は主要幹部が検挙されたり,取締りを逃れて出国するなどにより勢力を弱めている。最近では東北グループ(東北部出身者の犯罪組織)の台頭もうかがわれている。福建グループ(福建省出身者の犯罪組織)については,グループとしては根付いていないものとみられる。なお,マレーシア人のクレジットカード偽造グループが歌舞伎町を拠点に活動している状況がみられるが,これらの構成員は中国系のマレーシア人が多い。 |
コラム5 強盗グループに加わった経緯(被疑者の声)
中国人強盗グループの中には,中国において「黒社会」的犯罪組織に入り犯罪を行っていた者もいるが,来日後にこれらの者に強盗を勧誘されて仲間になった者も少なくない。その経緯として,例えば,福建省長楽市出身者らによる連続強盗事件では,20数人の検挙被疑者の取調べ過程で,次のように話している例がみられる。 ・職場で,言葉の問題や,日本人の同僚に馬鹿にされたことから自信をなくし,同郷者と寄り集まって金を得る相談をし,強盗をやることになった。 ・中国からの密航費用の借金を手っ取り早く返済するためグループに加わった。 ・仕事がなく,同郷者を訪れたところ,彼らが強盗を行っていることを知り,金欲しさから強盗グループに入った。 ・新宿のディスコやぱちんこ店等で,中国人の同世代の中に,強盗等により多額の現金を容易に手にして豪遊している者を見て,犯罪グループの仲間になった。 |
事例
上海グループ,住吉会傘下組織組長らは,クレジットカードの偽造,偽造カードを使用した商品の騙(へん)取,ピッキングによる侵入盗,窃取した銀行カードを使用した預金の引出し等をそれぞれグループに分かれて役割分担した上,敢行していたものである。 首領は,かねてより埼玉県西川口周辺の不良中国人らを束ねてこの種の犯罪を敢行する者として浮上していた上海出身の中国人であり,同人は,日本人名義の偽造旅券を所持し,定期的に我が国と上海を往復していた。同人と住吉会傘下組織組長とは,相互に面識のある日本人の仲介により接近し,犯罪に関する情報の交換等を通じて徐々に連携し,犯行の規模を拡大していったことが判明している。 被害総額は約4,400万円(うち現金被害約2,600万円)に及んでおり,14年7月までに,支払用カード電磁的記録不正作出,窃盗等で,首領の男を含む上海出身の中国人12人,住吉会傘下組織組長を含む日本人11人の計23人を検挙した(埼玉)。 |
事例
三弟と呼ばれる首領を頂点とする福建グループは,首領の強い統制力の下,数十人の構成員により,偽造クレジットカードによる詐欺,錠剤型薬物の密売等を資金源として活動し,福建グループの中でも最大勢力の一つとみられたものである。 組織化が進展した背景には,首領に福建省で犯罪組織を形成する親族がいることから,恐喝等の被害を受けた同国人の被害者は泣き寝入りし,配下の構成員は警察に検挙された際に首領の名前を供述しないなどの状況があった。 首領は,偽名旅券を使用して来日し,外国人登録を行っていたほか,自身は犯行に直接加担せず,住居を転々とするなど,警察による取締りを強く警戒していた。配下からの上納金は,多い時には月に数千万円にも及んだとみられる。 我が国の暴力団との関係も明らかとなっており,暴力団員が盗品の処分,同グループ構成員が起こしたトラブルの仲裁等を行っていた。 14年1月,入管法違反で首領を含む10人を一斉検挙し,5月までに更に5人を検挙した(警視庁)。 |
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