第2節 警察活動のささえ

1 警察職員と定員

 我が国の警察組織は、都道府県の警察機関と国の警察機関から構成されている。まず、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、公共の安全と秩序の維持に当たるという警察の責務に任ずるため、都道府県を単位として、都道府県警察が置かれ、これら都道府県警察を国家的、全国的な立場から指導監督し、又は調整する国の警察機関として、警察庁が置かれている。
 警察庁及び都道府県警察に勤務する警察職員は、警察官、皇宮護衛官、事務職員、技術職員等で構成され、これらの職員が一体となって警察職務の遂行に当たっている。
 警察がその責務を全うしていくためには、現在警察で勤務している職員の高い士気を維持するとともに、今後の警察を担っていく優秀な人材を確保する必要がある。そのため、職員の待遇改善、勤務環境の整備等に努めているところであり、現在の職員だけでなく、将来警察で勤務する者にとっても、更に魅力のある職場づくりを積極的に推進しているところである。
(1) 定員
 平成9年度の警察職員の定員は、総数26万3,580人で、その内訳は、表9-1のとおりである。都道府県警察の地方警察職員たる警察官の定員については、9年度には、我が国の金融秩序の安定性、信頼性を脅かす金融犯罪や、悪質化、組織化する来日外国人犯罪の続発等、治安情勢の急激な変化に対処するため、1,512人の増員が行われた。

表9-1 警察職員の定員(平成9年)

(2) 教育訓練
 警察官には、逮捕、武器使用等の実力行使の権限が与えられており、また、自らの判断と責任で緊急に処理しなければならない事案も多いことから、適正に職務を執行するための良識と高度な実務能力が必要とされる。このため、警察では、警察学校と職場において、あらゆる機会を通じて現場に即した教育訓練を行い、プロとしての実務能力と資質の向上に努めている。また、柔道、剣道、逮捕術、けん銃操法等の術科訓練においては、最近の犯罪情勢にかんがみ、凶悪犯罪、特に銃器使用犯罪に的確に対処するための実戦的な訓練に力を入れている。
 警察学校においては、新たに採用した警察官に対して、警察官として必要な基礎的知識や技能を修得させる採用時の教育訓練、各階級昇任者に対して、幹部として必要な知識と技能を修得させる昇任時の教育訓練、特定の分野に関して高度の専門的な知識と技能を修得させる各種の教育訓練等を実施している。また、その教育効果を高めるため、ゆとりのあるカリキュラムの設定やクラブ活動の導入、学生のプライバシーに十分配慮した学生寮の改善等の教育環境の整備を行っている。
 職場においては、警察官の能力開発の基本的な手法として、上司等による日常の勤務を通じての個人指導(OJT)をはじめ、各種の研修会・講習会の開催、小集団活動の推進等の多角的な教育訓練を積極的に行うとともに、各種資格取得奨励制度等の自己啓発を支援するシステムの拡充に努めている。
 なお、極めて卓越した専門的技能や知識を有する職員を「警察庁指定広域技能指導官」に指定するなどして、職員に対する専門的な技術指導に当たらせている。
 さらに、国際化に的確に対応するため、各種語学教育を積極的に推進するとともに、職員を外国の語学学校や警察機関等に派遣し、語学力に優れ、かつ、実務能力の高い職員の育成を図っている。
 また、警察官に求められる職業倫理の確立と使命感の醸成を図るため、その指針として設けた「警察職員の信条」を中心とする職業倫理教育に力を入れているほか、市民の立場から親切かつ適切に職務を行うため、民間企業への派遣研修、部外講師による応接マナー講習会、応接指導者研修等を行っている。
(3) 勤務
ア 警察職員の勤務
 警察では、その責務を果たすため、24時間警戒体制を確保している。そこで、地域警察官をはじめ、全警察官のおおむね4割は、交替制勤務で3日ないし4日に1度の夜間勤務を行っている。交替制勤務者以外でも、警察署に勤務する警察官の多くは、1週間に1度程度の割合で夜間勤務に従事している。また、突発事件、事故、災害への対応のため、勤務時間外に呼び出されることもある。
 このような警察職員の勤務の特殊性にかんがみ、これまで、駐在所勤務員の複数化、交番等の勤務環境の改善、階級別定数の見直し、巡査長制度の見直し、完全週休二日制導入に伴う勤務制度の改善等を図ってきたが、今後とも職員の待遇の改善を積極的に推進することとしている。
 勤務時間については、警察庁及び都道府県警察のいずれにおいても完全週休二日制が導入されている。さらに、夏季等における休暇の連続取得の普及や年次休暇の計画的取得の促進を図るなど、職員が休暇を取得しやすい環境づくりも積極的に推進しているところである。
イ 警察官の殉職、受傷
 警察官は、個人の生命、身体及び財産を保護し、公共の安全と秩序の維持に当たるため、自らの身の危険を顧みず職務を遂行し、その結果、不幸にして職に殉じたり受傷したりする場合がある。平成8年においては、高速道路上においてスピード違反車両を誘導中の警察官が、逃走を図った違反車両に跳ねられ殉職する事案、窃盗容疑者をパトカーで警察署に同行中の警察官が、ナイフで刺されて殉職する事案等が発生した。
 このように、職に殉じたり受傷した警察官又はその家族に対しては、公務災害補償制度による公的補償のほか、警察関係厚生団体による子弟に対する奨学金等、各種の手厚い保護の措置が採られている。
〔事例〕 10月21日午後10時30分ころ、A巡査(33)は、110番通報により急行した器物損壊事件の現場から、同僚とともに容疑者をパトカーで警察署に同行中、車内で容疑者にナイフで刺され殉職した。同人の遺族に対しては、公務災害として法律に基づく給付金が支給されたほか、同人の果敢な職務執行をたたえるために賞じゅつ金等が支払われた(千葉)。
(4) 女性警察職員
 平成9年4月1日現在、全国の都道府県警察には、警察官約7,800人のほか、交通巡視員、少年補導職員等の一般職員約1万2,500人の女性が勤務しており、それぞれの分野で活躍している。女性警察職員の働く分野も次第に拡大され、交通指導取締り、少年補導、女性の留置、

保護、広報等の分野のみならず、犯罪捜査、鑑識活動、警衛、警護、警備、レスキュー、情報分析、ヘリコプター操縦等の様々な分野に及んでいる。また、警察本部の課長や警察署長をはじめ上級幹部への登用も進められている。
 なお、民間企業と契約した「ベビーシッター制度」等、女性が働きやすい職場環境の整備も積極的に進められており、今後は、警察庁を含めた各警察組織において、更に多くの女性警察職員が幅広い職域で活躍することが期待されている。
(5) 採用への総合的な取組み
 平成8年度に都道府県警察の警察官採用試験を受験した者は約13万3,000人、合格した者は約8,300人(うち大学卒業者は約5,100人)であり、競争率は16.0倍であった。
 警察官としてふさわしい能力と適性を有する人材を確保することは、警察力の基盤強化を図る上で極めて重要な意義を有しており、このため警察ではこれまでも人材の確保に努めてきた。しかし、今後、警察官の採用必要数が増加していくことが見込まれる反面、若年人口は減少していくことなどから、警察官の採用をめぐる情勢についても、厳しさを増すことが予想される。このような情勢を踏まえ、今後とも優秀な人材の確保を図るため、中途採用、受験年齢の引上げ等採用の複線化を行うとともに、勤務環境を改善し、快適な独身寮の整備、拡充等をはじめとする各種施設の整備を図るなど、魅力ある職場づくりのための施策を積極的に推進している。
 なお、中途採用については、悪質、巧妙化する知能犯や化学物質を悪用した犯罪、多発する来日外国人犯罪等に対処するため、財務、化学物質等に関する専門的知識、能力を有する者や外国語による取調べ、折衝能力を有する者等の警察官としての採用を推進しており、9年4月1日現在、21都道府県警察で合計23人の財務捜査官、33人の国際捜査官等、11人のコンピュータ犯罪捜査官、11人の科学捜査官等を採用し、効果的に運用している。
(6) 適切な業務運営
 警察運営を国民の期待と信頼にこたえるものとしていくためには、すべての警察職員が職責を自覚し、そのもてる能力を十分に発揮して、職務に精励することが大切である。このため、警察庁及び都道府県警察は、「業務適正化委員会」を設置し、警察各部門における業務運営や服務に関する問題点を抽出、検討して、現場活動の充実、強化等の具体的かつ効果的な業務改善方策等を講じている。

2 予算

 警察予算は、国の予算に計上される警察庁予算と各都道府県の予算に計上される都道府県警察予算とで構成される。警察庁予算には、警察庁、管区警察局等国の機関に必要な経費のみならず、都道府県警察が使用する警察用車両やヘリコプターの購入費、警察学校等の増改築費、特定の重要犯罪の捜査費等の都道府県警察に要する経費や都道府県警察への補助金が含まれている。
 平成8年度当初の国の予算編成においては、厳しい財政状況の下においても、現在の治安水準を維持するための銃器対策の強化、交通安全対策の強化、科学捜査力の強化、暴力団対策の強化、国際化対策の強化、生活安全対策の強化、警察基盤の充実強化等について重点的に予算措置している。
 8年度の警察庁当初予算は、総額2,441億9,266万円で、前年度に比べ、18億9,473万円(0.8%)の減少であり、国の一般会計予算総額の0.3%を占めている。
 なお、8年度の国の予算においては、補正予算が組まれたが、警察庁においては、緊急防災対策、緊急経済構造改革対策の経費として、合計67億1,781万円に上る予算を措置した。最終補正後の警察庁予算の内容は、図9-1のとおりである。
 8年度の都道府県警察予算は、各都道府県において、それぞれの財政事情、犯罪情勢等を勘案しながら編成されているが、その総額は、3兆3,702億2,100万円で、前年度に比べ、739億9,000万円(2.2%)増加し、都道府県予算総額の6.4%を占めている。その内容は、図9-2のとおりである。
 警察庁予算と都道府県警察予算の合計額(重複する補助金額を控除した額)を国の人口で割ると、8年度の国民一人当たりの警察予算額は約2万8,000円となる。

図9-1 警察庁予算(平成8年度最終補正後)

図9-2 都道府県警察予算(平成8年度最終補正後)

3 装備

(1) 機動装備隊の活動
 機動装備隊は、事件・事故、災害等が発生したときに、現場における装備面からの支援をこれまでよりも更に充実・強化する目的から、平成8年に新しく全国的に設置された警察装備に関する特別チームである。
 日常的には、資機材を維持・管理し、その操作練度を向上させることを任務とし、事件・事故等に際しては、必要な資機材を現場に搬送して操作するなどの各種支援活動に取り組むこととしている。
〔事例〕 12月6日に発生した蒲原沢土石流災害に際して、長野・新潟両県警察の機動装備隊は、緊急に必要な装備資機材を現場へ搬送するとともに、現地指揮本部用の仮設プレハブの建設、簡易トイレの設置等を行った。
(2) 車両、船舶、航空機
ア 車両
 警察用車両には、捜査用車、鑑識車等の刑事警察活動用車両、交通パトカー、白バイ等の交通警察活動用車両、警らパトカー、移動交番車等の地域警察活動用車両等がある。現有警察用車両の用途別構成は、図9-3のとおりである。
 平成8年度は、銃器対策用車両のほか、暴力団対策用車両、交通安全対策用車両、交番・駐在所用の小型警らパトカー等を増強整備した。
 今後も、警察事象の広域化、複雑化に的確に対応して、国民の負託にこたえていくため、警察機動力のかなめである警察用車両の整備、充実を一層図っていく必要がある。

図9-3 警察用車両の用途別構成(平成8年度)

イ 船舶
 警察用船舶は、全長3メートル級から23メートル級のものまで全国で合計230隻あり、港湾、離島、湖沼等に配備され、多様化する水上レジャーの安全指導、水難救助、けん銃、覚せい剤等の密輸事犯の取締り等の水上警察活動に活用されている。
 今後の警察用船舶の整備に当たっては、水上警察事象の広域化、高速化に対応するため、大型化、高速化、高性能化を更に図っていく必要がある。

 なお、水上警察活動については、第3章第1節2(2)ア参照。
ウ 航空機
 警察用航空機は、空からのパトロール、犯人の捜索や追跡等の捜査活動、交通指導取締り、災害時等の救難救助や情報収集等警察活動全般にわたる幅広い分野で活動している。現在、警察用航空機の配備数は、47都道府県警察で合計70機(すべてヘリコプターである。)となっている。
 今後とも、災害対策を含む警察活動全般をより効果的に遂行するため、引き続き警察用航空機の整備、充実を図っていく必要がある。

 なお、警察用航空機の活動については、第3章第1節2(2)ウ参照。
(3) 警察装備資機材の開発改善・整備
 警察では、警察活動の基盤となる装備資機材に、最先端科学技術を導入することによって、警察業務の効率化と高度化に努めている。
 平成8年度においては、第一線警察からのニーズが高い銃器対策用資機材等の開発改善及び整備に努めた。

4 警察活動と情報通信

 警察活動を行う上で、情報通信の確保は必要不可欠なものである。このため、警察では、災害等の緊急時にも対応することができるよう、独自の情報通信システムを整備運用するとともに、その一層の高度化に努めている。
(1) 情報通信システムの充実・強化
 警察の情報通信基盤は、警察自営の無線多重回線(マイクロ回線)、無線中継所、電話交換機及び日本電信電話株式会社等から借用した専用回線、衛星通信回線等によって構成されている。これらを活用して、警察電話、無線通信、データ通信等の各種情報通信システムを構築している。
ア 無線多重回線
 警察が独自に整備運用している無線多重回線は、警察庁と各管区警察局等を結ぶ管区間系無線多重回線及び管区警察局とその管轄区域内の各府県警察本部等を結ぶ管区内系無線多重回線等から構成されている。この無線多重回線については、伝送路の2ルート化を行うとともに、回線の監視や自動切替えを行うことができる基幹通信網管理システムを導入することにより、災害時でも通信が途絶しないようにしている。
イ 衛星通信回線
 警察では、大規模な事故や災害に際して、現場の状況を判断して的確な指示を行うため、ヘリコプターテレビシステム等で撮影した映像等の伝送に衛星通信を活用している。衛星通信は、広域性、同報性という特性があるほか、地形や立地条件に左右されずに回線を設定することができる。警察では、平成7年度末までに、全国の警察本部等に固定設備を、各管区警察局には衛星通信車を整備している。

ウ 警察移動無線
 警察移動無線には、パトカー、白バイ、船舶、ヘリコプター、警察署等の警察官が相互に通信するための車載無線、パトロール中の警察官が他の警察官や所属警察署と通信するための署活系無線、捜査員、機動隊員等が相互に通信するための携帯無線等がある。
 これら警察移動無線については、音声だけでなくデータ等の多様な情報の伝達にも効率的に対応でき、傍受、妨害に強いデジタル通信方式を開発、導入している。これまでに車載無線通信系、携帯無線通信系のデジタル化は完了し、引き続き署活系のデジタル化を推進している。
エ WIDE通信システム
 WIDE通信システム(WIDE:Wireless Integrated Digital Equipment)は、複数の都道府県にまたがった広域の通信系を構成することができる警察独自のデジタル無線通信システムである。

 このシステムは、車載無線機と同様のプレストーク方式による一斉指令通信機能(広域事件等が発生した場合、都道府県境を越えた専用の通信系を構成する機能)と警察電話としての通話機能を併せ持ち、ホットライン(ダイヤルすることなく送受話器を上げるだけで、あらかじめ設定された端末等に接続する機能)の設定等も可能である。
 7年度からは、携帯機の導入も進めている。
オ 警察統合情報通信ネットワークシステム
 警察統合情報通信ネットワークシステムは、警察庁及び各都道府県警察に設置されるLAN(ローカルエリアネットワーク)を相互に接続し、情報流通の高度化・円滑化を図ることにより、全国的な情報の共有化を可能とするもので、8年度から運用を開始した。
 全国に即時に情報を伝達できる手段である電子メール及び電子掲示板の機能のほか、多部門間での情報検索を可能にするデータベース、全文検索等の機能が利用可能である。
力 通信指令システム
 各都道府県警察の警察本部及び主要警察署には、市民からの110番通報を受け付け、必要な手配や指令を迅速かつ的確に行うため、通信技術・情報処理技術を駆使した通信指令システムを整備している。
 また、パトカーの位置とその活動状況を自動的に表示するカーロケータ・システムや事件発生現場周辺の地図を瞬時に表示する地理情報システム、事件現場からの犯人の逃走手段を考慮して逃走可能範囲等を画面上に表示する緊急配備支援システム等、通信指令業務の効率化を行う各種支援システムの導入も進めている。
キ 自動車ナンバー自動読取システム
 警察では、自動車ナンバー自動読取システムの開発、導入により、手配車両の早期発見等、犯罪捜査の効率化を図っている(第4章第1節3(3)イ(ア)参照)。
(2) 警察行政の効率化
 平成7年に情報システムの整備、情報化に対応した制度、慣行の改善等を内容とする「警察情報化推進計画」(同年度を初年度とする五箇年計画)を策定し、各種情報管理システムの整備等を実施することにより警察行政の情報化を推進するとともに、警察内における各種情報の共有化を推進することにより、業務の効率化、合理化及び市民サービスの向上に努めている。
ア 運転者管理業務の効率化
 8年末現在、日本での運転免許保有者数は、約7,000万人を数える。警察では、免許証の迅速な交付、免許証の二重取得の防止等を図るため、運転免許保有者に関するデータを警察庁の大型コンピュータで管理するとともに、交通違反に関するデータを管理することにより、免許の取消し、停止等の行政処分の業務の効率化を図っている。
イ 窓口業務の効率化
 市民サービスの向上のため、警察署における遺失拾得物の受理、遺失者への返還等の窓口業務や自転車防犯登録業務等にコンピュータを活用して、業務の効率化を図っている。
ウ 犯罪捜査のための照会業務の効率化
 警察庁では、都道府県警察から手配された「人(家出人等)」、「車(盗難車等)」、「物(盗難品等)」に関するデータを大型コンピュータで管理し、第一線の警察官からの照会に対して回答する業務を24時間体制で運用している。これらの照会は、パトカーに搭載されている照会指令システムの端末装置等により、速やかに行うことが可能である。
 また、都道府県警察で保管している被疑者写真や犯罪手口原紙等の画像情報を警察庁の光ディスクに登録し、各都道府県警察からオンラインで検索できる画像情報検索システムや、被疑者指紋を自動登録し、被疑者の遺留指紋と登録された指紋との照合等を行うことができる指紋自動識別システムを整備し、被疑者の割り出し等犯罪捜査の効率化を図っている。
エ コンピュータのネットワーク化
 警察庁では、各都道府県警察の警察本部等のコンピュータと警察庁の大型コンピュータを接続して広範囲なコンピュータ・ネットワークを構築するとともに、各都道府県警察においても、警察本部のコンピュータと警察署、交番に設置する端末装置からなるネットワークを構築し、業務の迅速化、効率化を図っている。
 また、ダウンサイジングされたネットワークシステムを用いて、各都道府県警察相互間やその内部において、情報の共有化を推進している。
(3) 情報通信に関する技術的研究
 警察では、警察活動の効率化を推進するため、各種の情報処理システムの開発を推進している。平成8年度は、携帯情報端末と警察無線通信網のオンライン接続、掌紋自動識別システム等に関する調査研究を実施した。
(4) 機動警察通信隊の活動
 大規模な災害、事故、事件等が発生した際に、現場の警察官から警察本部への報告や連絡、警察本部等からの現場の警察官への指揮や命令等が円滑に行われるように、機動警察通信隊が出動して、現場と警察本部等との間に通信回線を確保している。
 警察では、機動警察通信隊を各都道府県ごとに編成し、事案に即応した臨時の情報通信システムの設置、維持及び通信運用を行っている。

 機動警察通信隊が臨時に確保する通信回線には、無線及び有線の双方があり、そこで伝送される情報も、電話による音声情報やファクシミリのような文字情報、さらにヘリコプターテレビ等による映像情報など多岐にわたっている。
 機動警察通信隊は、平成8年2月に発生した北海道古平町豊浜トンネル崩落事故、同年6月に発生した福岡空港ガルーダ・インドネシア航空機炎上事故、同年12月に発生した蒲原沢土石流災害等においても、ヘリコプターテレビや、地上のテレビカメラで撮影した現場の映像を、衛星通信車を利用して警察本部等に伝送した。
 また、臨時の無線中継所の開設や臨時電話の設置等を行い、応急通信回線の確保に活躍した。

5 留置業務の管理運営

 平成8年末現在、全国の留置場の設置数は1,277箇所で、年間延べ約270万人(1日平均約7,500人)の被逮捕者、被勾留者等が留置されている。
 警察では、捜査を担当しない総務部門又は警務部門が留置業務を担当し、捜査と留置の分離の徹底を図っている。
 留置場施設については、被留置者の人権に配意しつつ、その改善、整備に努めている。例えば、被留置者のプライバシーを保護し、その生活環境の改善を図るため、留置室を横一列の「くし型」に配置し、その前面にはしゃへい板を設置することとしているほか、留置室内トイレの構造の改善、留置場内の冷暖房化等の施設改善や、感染症対策資器材の設置、ラジオ、日刊新聞紙の備付け、食事内容の改善を進めている。また、急増する外国人被留置者の処遇の適正を図るため、洋式便器やシャワー装置を設置したり、被留置者の母国語の音声と文字によって留置場における処遇等を教示できる機器の整備に努めている。さらに、女性の被留置者についても、従来から女性の特性に十分に配慮した処遇を行っているが、その処遇全般を女性の警察官が行う女性専用留置場の設置も推進している。
 警察庁では、以上のような、留置業務の運用面、施設面での適正を確保しつつ、被留置者の処遇の全国的斉一を図るため、全国の留置場について計画的に巡回視察を実施している。

 ところで、警察の留置場については、被留置者の処遇の内容、設置の根拠等が法律上は必ずしも明確でない。そこで、監獄法の改正が行われるのを機会に、法制審議会の答申の趣旨に沿って、被留置者の処遇の内容を定め、警察の留置場に留置される被勾留者等と拘置所に収容される者との処遇の平等を保障するとともに、捜査と留置の分離を法律上の制度として明確にするため、刑事施設法案と一体のものとして留置施設法案を策定した。この法律案は、3年4月、第120回国会に上程され、5年6月、衆議院の解散に伴い、審査未了となった。

6 警察官の職務に協力援助した者等に対する救済

 市民が社会公共のため現行犯人の逮捕、人命救助等警察官の職務に協力援助して、負傷し、疾病にかかり、障害を負い、又は死亡した場合は、本人やその家族の生活の安定を図るため、その程度に応じて国又は都道府県が救済を行っている。
 平成8年に、警察官の職務に協力援助して死亡し、又は受傷した市民は、死者2人、受傷者19人で、前年に比べ死者は7人減少し、受傷者は同人数であった。
〔事例〕 大学生のパーティーが富士山の6合目半付近で雪上訓練を行っていたところ、他のパーティーの1人(46)が7合目付近から約300メートル滑落する事故を目撃した。このため、大学生パーティーは直ちに訓練を中止し救助に向かったが、遭難現場上方に到達したところで、先頭を歩いていた援助者(22)が同じくアイスバーンで足を滑らせ約700メートル滑落して死亡したものである。この事案については、葬祭給付と遺族給付が支給された(山梨)。

7 シンクタンクの活動

(1) 警察政策研究センターの新設とその活動
 平成8年5月、警察に関する政策並びに学術及びその運用に関する調査研究を主要な任務とする警察政策研究センターが警察大学校の附置機関として新設された。同センターは、現下の警察が直面する課題について調査研究を進めること及び警察と学者等有識者との交流の窓口となることをその任務としている。
 8年度には、7月に中央大学総合政策学部との共催でマネー・ローンダリングに関するフォーラムを開催したほか、10月に東海大学平和戦略国際研究所、(財)公共政策調査会との共催で国際テロに関するシンポジウムを開催するなど、組織犯罪対策をはじめとする将来生じ得る治安かく乱要因とその対策等の研究課題に積極的に取り組んでいる。
(2) 警察通信研究センターにおける活動
 警察通信研究センターでは、無線通信技術、情報通信システムのセキュリティに関する技術、データ処理技術、暗号技術等について研究を行い、これらを応用した新しい警察通信機器等の開発を行っている。
 平成8年からは、警察通信に関する研究により得た技術を広く警察活動に役立てるために、捜査等の警察活動に応用する技術に関する研究を行うなど急速に進展する高度情報通信社会に対応できる研究体制の整備を図っている。
〔研究例1〕 移動通信における送信波の伝送特性の研究
 陸上移動通信における移動局無線機と基地局無線機からの送信波の相互の伝送特性の違いの有無について研究を行った。
〔研究例2〕 VTR画像の鮮明化に関する研究
 銀行、コンビニエンスストア等の防犯カメラで撮影された現場のVTR画像を鮮明化するため、通常の画像処理に加え、回転ブレ画像修正等の技術を加えたVTR画像鮮明化装置の開発について研究を行った。
(3) 科学警察研究所における活動
 科学警察研究所では、社会で問題となっている事件・事故の背景、原因等を科学的に分析し、これに基づいて政策提言を行うなど多様な研究を行っている(このほかの科学警察研究所の活動については、第4章第1節3参照)。
〔研究例1〕 性の商品化に関する女子少年の意識に関する研究
 近年、女子高校生を含む10歳代の女子少年が「援助交際」と称して、性を商品化する傾向が進んでいる。そこで、福祉犯の被害者として補導された女子少年を対象として調査を行った結果、彼女らにとり、性を商品化することに抵抗感やしゅう恥心がないことなどが明らかになった。このような性の商品化の背景には、テレホンクラブの全国的広がり等少年を取り巻く社会環境の悪化、家庭におけるしつけの問題、学校における学業のつまずき等があることが分かった。
〔研究例2〕 暴力団員の離脱と社会復帰に関する研究
 暴力団を離脱した者が社会に復帰していく過程、特に社会経済生活の基盤である就労の状況について、離脱した者と雇用主に対して調査を行った。
 調査の結果、離脱後に新たに就労をしなければならなかった者は、離脱時に収入面等生活基盤に対し高い不安感を抱いていたこと、調査時点で無職である者は、比較的高齢であり、指詰めや入れ墨をしている場合が多く、再就労が困難な状況にあることがうかがわれた。また、新たに就職した者のうち、約3分の1は転職している。転職の理由としては、仕事をこなす体力がないこと、給料等の待遇面での不満、職場での人間関係づくりの難しさを挙げる者が多いことが分かった。
 このほか、離脱した者の就労に当たっては、警察及び都道府県暴力追放運動推進センターによる援助や、就労後のアフターケアの充実が必要であることが明らかにされた。
〔研究例3〕 交通事故に関する研究
 交通事故実態調査から衝突形態と乗員の被害の関連を明らかにするとともに、実車衝突実験により、後席シートベルトの着用が事故時における後席乗員の車外放出及び車内における二次衝突の防止に寄与すること、後席シートベルト非着用の場合には衝突挙動中の後席乗員の移動により前席乗員に被害を加えることなどを明らかにし、その研究成果を交通安全広報活動のための資料として提供した。
 また、交通事故の発生状況をビデオ画像データとして自動記録する装置(TAAMS)の有効性について、交通事故捜査と交通安全広報資料への利用の両面から検討を行った。
〔研究例4〕 運転者教育等に関する研究
 平成7年4月の道路交通法の一部改正により設けられた自動二輪車の技能教習及び学科教習の時限数と内容を定めるための研究並びに自動二輪車用運転シミュレーターの型式認定基準を策定するための研究に参画した。
 また、バーチャル・リアリティ技術を用いた高齢者のための交通安全教育方法に関し、提示場面の製作及び改良を行った。
 さらに、初心運転者の運転行動の研究として、熟練運転者との比較を行った結果、市街地の狭あいな道路で、通行中の自転車等に対する注視がおろそかになる一方、店の看板等注視の必要性の低いものに固執すること、カーブにおいては内側への注視が少なく減速が遅れることなどの特徴が明らかになった。
〔研究例5〕 交通管理技術の高度化に関する研究
 交通の安全及び円滑の向上を図るため、交差点での右折時における直進車両との衝突事故防止を目的とした信号制御の方法について研究を行うとともに、高齢者の身体機能、行動特性に配慮した交通安全施設等の高度化に関する研究の一環として、高齢歩行者の道路横断特性等についての実態調査を行った。
 また、幹線道路における違法駐車や右折車両が交通流に及ぼす影響等から、渋滞の発生メカニズムについて研究を行い、自動車交通流シミュレーターを開発した。
 さらに、騒音、振動、排ガス等による交通公害の低減についての研究を行い、交通管理による交通公害防止効果を科学的に検証するためのコンピュータ・シミュレーターを開発した。


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