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北朝鮮による日本人拉致容疑事案については、その目的は必ずしも明らかではありませんが、諸情報を総合すると、北朝鮮工作員が日本人のように振る舞えるようにするための教育を行わせることや、北朝鮮工作員が日本に潜入して、拉致した者になりすまして活動できるようにすることなどが、その主要な目的とみられています。なお、金正日国防委員長は、日朝首脳会談の席上、日本人拉致の目的について、「一つ目は特殊機関で日本語の学習ができるようにするため、二つ目は他人の身分を利用して南(韓国)に入るためである」と説明しました。 また、「よど号」犯人の元妻は、金日成(キム・イルソン)主席から「革命のためには、日本で指導的な役割を果たす党を創建せよ。党の創建には、革命の中核となる日本人を発掘、獲得、育成しなければならない」との教示を受けた田宮高麿から日本人獲得を指示された旨証言しており、日本人拉致の背景には、金日成主義に基づく日本革命を行うための人材獲得という目的もあったものとみられています。 3 拉致容疑事案(11件16人)の概要 警察は、北朝鮮による日本人拉致容疑事案について、被害者の所在が不明であり、事案発生の時点で目撃者もおらず、証拠もほとんど残されていない状況の下、これまで懸命の捜査を進めてきました。 具体的には、警察は、関係者からの事情聴取、付近の聞き込み等の裏付け捜査、国内外の関係機関との情報交換等、鋭意関連情報の収集と証拠の積み上げに努め、長期間にわたる地道な捜査を行ってきました。この結果、最近では、2005年(17年)4月に、神戸市内で行方不明となった田中実さんの事案を新たに拉致容疑事案と判断し、これにより、北朝鮮による拉致容疑事案は合計で11件16人となっています。 各事案の概要は次のとおりです。 北朝鮮による日本人拉致容疑事案の概要
4 拉致容疑事案の捜査状況等 警察は、原敕晁(ただあき)さん拉致の実行犯である北朝鮮工作員・辛光洙(シン・グァンス)、有本恵子さん拉致の実行犯である「よど号」犯人・魚本(旧姓・安部)公博、宇出津(うしつ)事件の主犯格である北朝鮮工作員・金世鎬(キム・セホ)について、逮捕状の発付を得て、国際手配を行うとともに、外務省を通じて、北朝鮮に対し、身柄の引渡しを要求しています。 また、11件16人以外にも、北朝鮮による拉致の可能性を排除できない事案があることから、所要の捜査や調査を進めています。 2004年(16年)11月に開催された第3回日朝実務者協議では、日本政府代表団に警察庁の職員が新たに参加しました。協議において、北朝鮮側より日本政府代表団に提出された、横田めぐみさんの「遺骨」であるとされたものについては、その中から、DNA鑑定の知見を有する専門家が、DNAを検出できる可能性のある骨片10片を慎重に選定し、関係警察より、国内最高水準の研究機関(帝京大学及び科学警察研究所)にDNA鑑定を嘱託しました。そのうち、帝京大学に鑑定を嘱託した骨片5個中4個から同一のDNAが、また、他の1個から別のDNAが検出されましたが、いずれのDNAも横田めぐみさんのDNAとは異なっているとの鑑定結果を得ました。また、北朝鮮側から提出された、松木薫さんの「遺骨」である可能性があるとされたものについては、前回の日本政府代表団の訪朝時(2002年(14年)9月)に日本側に提出した骨と同じ場所に保管されていたものであるとの説明がなされたことから、当初より、これが松木薫さん本人の「遺骨」である可能性は低いと考えられていましたが、念のため、そのうちの一部を選定した上で鑑定を行った結果、関係警察より鑑定嘱託を受けた帝京大学より、松木薫さんのものとは異なるDNAが検出されたとの鑑定結果を得ました。 なお、警察は、既に1988年(昭和63年)の段階で、6件9人の失踪事案につき、北朝鮮による日本人拉致容疑事案であると判断しています。国会においても、同年2月に1件1人、同年3月に5件8人、同年4月に6件9人の事案につき、北朝鮮による拉致容疑事案である旨答弁し、北朝鮮が、我が国に対し、こうした主権侵害行為を敢行している疑いがあることを明らかにしていたところです。 その後、警察は、1997年(平成9年)5月に、拉致容疑事案は7件10人と判断し、2002年(14年)3月には8件11人と判断して、それぞれ公表してきましたが、同年9月に開催された日朝首脳会談においては、金正日国防委員長が日本人拉致を認めるとともに、北朝鮮側から、拉致被害者の安否が伝えられました。 このような状況を勘案し、警察は、同年10月、拉致容疑事案は10件15人と判断しました。 また、これ以外にも拉致の可能性を排除できない事案があることから、引き続き、鋭意所要の捜査や調査を進めてきたところ、2005年(17年)4月、田中実さんの事案を新たに拉致容疑事案と判断しました。本事案については、近年の捜査を取り巻く諸情勢の変化を背景とした再捜査により、複数の証人等から具体的な証拠を新たに入手するに至ったものです。 警察は、引き続き、事案の全容解明に向け、警察の総合力を発揮して捜査を推進していきます。
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