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2 北朝鮮の対日工作活動


1 北朝鮮による対日工作活動の概要

 我が国は、朝鮮半島と地理的に近接しており、また、歴史的経緯から60万人を超える韓国・朝鮮人が居住していることから、北朝鮮は我が国をスパイ活動の重要拠点ととらえ、これまで、様々な形で対日工作活動を行ってきました。
 特に、北朝鮮工作船の活動に関しては、1991年(3年)に発生した「美浜事件」や2001年(13年)に発生した「九州南西海域工作船事件」において、船体、船内から発見された多数の証拠品等により、当該船舶を北朝鮮工作船と特定するに至っていますが、これ以外にも、相当数の北朝鮮工作船が我が国の領海内に侵入してきているものと思われます。
 また、これまでの検挙事例やその他の情報を総合的に判断して、北朝鮮工作船は、工作員の潜入・脱出、日本人拉致等を目的として活動しているものとみられます。
 北朝鮮工作船については、朝鮮半島情勢の緊迫化を反映して、今後も、我が国周辺海域において違法活動を敢行することが十分予想されます。

2 過去の主な工作船関連事件・事案

(1)美浜事件
 1990年(2年)10月、福井県三方郡美浜町の松原海岸に船籍及び船名不明の小船が漂着しました。
 この漂着船は、その形状、装備品、乱数表、換字表等の遺留品の状況から、北朝鮮工作員が潜入・脱出のために使用される北朝鮮工作船の子船であることが判明しました。
 本件は、複数の北朝鮮工作員による組織的かつ計画的な不法出入国事件と判断され、北朝鮮が依然として、このような非公然、非合法的な手段を用いて工作員の送り込みを行っていることが明らかとなりました。
 また、本件では、水中スクーター様の物体が発見されていますが、2001年(13年)3月に富山県黒部市の黒部川河口付近でも同物体と極めて酷似した物が発見されており、北朝鮮工作員がこれを使用して我が国に潜入した可能性が高いとみられています。

福井県三方郡美浜町松原海岸に漂着した北朝鮮工作船
福井県美浜町松原海岸に漂着した北朝鮮工作船
発見された水中スクーター様の物体
発見された水中スクーター様の物体

(2) 能登半島沖不審船事案
 1999年(11年)3月、2隻の不審船が能登半島沖の我が国領海内で発見され、これに対し、海上保安庁及び海上警備行動の発令を受けた海上自衛隊は、停船命令、威嚇射撃等を行いましたが、これを無視して2隻の不審船は高速で逃走しました。
 この不審船は、既に漁船原簿から抹消された日本漁船名や別の海域で操業中の日本漁船名を使用するなど、巧妙に日本漁船に偽装したものであり、逃走後、北朝鮮北部の港湾に到達したとされ、このような状況の総合的な分析から、北朝鮮の工作船であったと判断されました。
 この不審船事案は、北朝鮮による工作船活動の脅威を目に見える形で我が国に強く印象付けました。

(3)九州南西海域工作船事件
 2001年(13年)12月、九州南西海域において不審船が発見され、海上保安庁の巡視船等が追跡、停船命令及び威嚇射撃を行いましたが、同不審船は逃走を続けた上、自動小銃及びロケットランチャー様のもので巡視船に攻撃を加えてきました。
 これに対し、巡視船が正当防衛のための射撃を実施し、その後この不審船は沈没しました。
 この船舶は、2002年(14年)9月に引き上げられ、その船体から、北朝鮮工作員が潜入・脱出に使用するための道具や極めて殺傷力、破壊力の強い武器が多数発見されました。
 海上保安庁では、この船舶を北朝鮮工作船と特定するとともに、2003年(15年)3月、乗組員10人を殺人未遂等の容疑で検察庁に送検しました。
 本事件により、北朝鮮工作船の重武装化の実態が明らかになるとともに、我が国周辺海域における工作船活動が、我が国の安全に甚大な脅威を与えるものであることが改めて明らかになりました。

九州南西海域工作船事件
九州南西海域工作船事件
(海上保安庁提供)
九州南西海域工作船事件の武器
九州南西海域工作船事件の武器
(海上保安庁提供)

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