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セクト色を隠しながら労組、大衆団体への介入を強める過激派



1 労働運動の強化を訴える一方で、JR東労組の対立問題等には触れなかった革マル派


  警視庁は、平成16年3月25日、東京都江東区内に所在する革マル派非公然アジト「深川アジト」を摘発し、パソコン、携帯電話等を押収しました。今回摘発したアジトには、同派の中央幹部で労働運動を指導していたとみられる非公然活動家等2人が在室していたことから、同アジトは、労働部門を担当する指導部の非公然アジトであったとみています。
 また、4月から12月にかけて、東京都千代田区内において、国労幹部宅に侵入した容疑や早稲田大学学生部長宅の電話を盗聴した容疑等で指名手配中の非公然活動家5人をそれぞれ逮捕しました。
 こうした中、同派は、16年中、過労死、自殺、早期退職等の労働問題に焦点を当て、教育、郵政、自治体等における労働運動の強化を訴え、機関紙等で政府や労働組合執行部を批判するとともに、日教組、全教、JPU(旧全逓)、自治労等の主要労働組合が主催する定期大会等に活動家を動員してビラ配布等に取り組みました。一方で、JR東労組内で14年から継続している元顧問を絶対視する執行部を支持するグループと、これに反発して中央常任委員を辞任した8人等を支持するグループの対立問題には、革マル派は一切反応を示しませんでした。
 大衆運動をめぐっては、反戦闘争のほか、反原発、反基地闘争等に積極的に取り組みました。イラク問題では、15年末の「自衛隊のイラク派遣基本計画」の閣議決定以降、「日本国軍のイラク出兵阻止」を訴え、航空自衛隊小牧基地(愛知県)、陸上自衛隊旭川駐屯地(北海道)等の現地で、独自の集会、デモ等に取り組みました。特に、16年2月15日、陸上自衛隊本隊の第一次派遣をとらえた「旭川現地闘争」には、地方での取組みとして過去最高の約500人の活動家を全国から動員するなど、盛り上がりをみせました。
 反戦闘争における同派の主張の特徴は、「イラクにおける外務省職員殺害事件」(15年11月29日)を始め、「スペイン・マドリードにおける同時多発列車爆破テロ事件」(16年3月11日)、「イラクにおける三邦人人質事件」(4月7日)等に対し、「ブッシュ大統領やCIAによる謀略」等と「権力謀略論」に基づく主張を唱えていることです。
 また、同派は、「米軍ヘリ墜落事故」(8月13日、沖縄県)等に敏感に反応し、党派色を隠して一般学生や市民等を巻き込んだ抗議行動に取り組んだほか、「神戸市須磨区小学生殺人等事件」の加害者が医療少年院から仮退院(3月10日)したことに対しては、同派が事件発生当初から訴えている「権力謀略論」に基づき、改めて「CIAによる謀略」を主張しました。
 革マル派は、17年もJRを始め教育、郵政等の基幹産業の労働組合における勢力の維持、拡大を図るため、労働運動への取組みを強化するとともに、憲法や教育基本法改正等の問題をとらえた大衆運動への介入を強める一方で、JR関係者や中核派等の対立セクト、警察に対する違法な調査活動を行うおそれがあります。

革マル派非公然アジト(3月、東京)
革マル派非公然アジト(3月、東京)
2 青年労働者の獲得を柱に労働運動への介入を強め、「国際連帯」にも取り組んだ中核派


  中核派は、国内最大のテロ組織です。同派は、規約に「軍事委員会」を明記し、非公然組織を有していますが、2年の「90年天皇・三里塚決戦」(124件の「テロ、ゲリラ」事件を敢行)以後、武装闘争一辺倒では革命に向けて限界があるとしてテロ、ゲリラを控えています。しかし、同派の方針は、将来の武装闘争に備えて「テロ、ゲリラ」戦術を堅持しつつ、一時的に組織拡大のため労働運動中心の活動に重点を置く(3年「5月テーゼ」等)とするものでテロ、ゲリラを放棄したものではありません。
 中核派は、15年夏の政治集会で「新たな指導方針」の名の下に「労働運動強化」路線を打ち出し、特に、青年労働者の獲得をねらって、12月には「マルクス主義青年労働者同盟」の再建大会を開催しました。16年の機関紙「前進」の年頭アピールにおいても労働運動の強化を訴えて「マル青労同」の1,000人建設や「四大産別」(注:同派は、自治体、郵政、教育、JRの産業別労組を「四大産別」と呼称している。)に対するオルグを重点に取り組む方針を示しました。
 同派が最も重視した「11月労働者集会」(11月7日、東京都)では、「万余の結集」を目標に掲げて強力に取り組み、米国の「国際港湾倉庫労働組合」、韓国の「韓国民主労働組合総同盟」関係者を招請するとともに、 幅広く労組等に参加を呼び掛けた結果、同集会としては過去最高の約2,350人を集めましたが、同派が掲げる目標には大きく及びませんでした。一方、大衆運動では、同派がイニシアチブを取る「百万人署名運動」が中心となって反戦運動を重点に取り組むとともに、「イラク開戦一周年」の3月20日には、米国反戦団体「A・N・S・W・E・R」が提唱した「国際反戦共同行動デー」に合わせて、超党派の「陸・海・空・港湾労組20団体」が主催した集会(東京都、全体約1万人)に約2,100人を動員しました。しかし、これらの闘争は、「百万人署名運動」が「成立阻止」を掲げていた有事関連7法が6月14日に成立し、主要闘争課題を失ったことや、イラクへの自衛隊派遣が数次にわたり、反対世論の盛り上がりも薄れてきたことなどにより衰退しました。
 それに代わって9月の「百万人署名運動」全国集会では「日の丸・君が代」問題と「教育基本法改正」問題を主要な闘争課題に据えることとなり、その後、両問題を通じた組織拡大をねらって、超党派の教職員関係者が主催する「教育基本法の改悪をとめよう!11・6全国集会」に約270人を動員するなど、大衆運動への介入を強めました。
 同派は、17年も引き続き「労働運動強化」路線の下、青年労働者の獲得を最重点に教育、自治体等の労働組合に対するオルグ活動を強め、組織拡大を目指すものとみられます。同時に「百万人署名運動」を中心に、党派色を極力隠して「教育基本法改正」問題等の闘争課題に対する取組みを強めながら、大衆運動の盛り上げを図るものとみられます。また、同派は、東京都議会議員選挙に唯一当選経験のある候補者を擁立する方針を決めたことから、17年の上半期は、選挙での支持拡大等に組織を挙げて取り組むものとみられます。

中核派系デモ(11月、東京)
中核派系デモ(11月、東京)

3 再び主流派・半主流派の対立が激化した革労協


  革労協反主流派は、16年中に、「防衛庁に向けた飛翔弾発射事件」(2月17日)と、「陸上自衛隊朝霞駐屯地に向けた飛翔弾発射事件」(11月7日)の2件のゲリラ事件を引き起こしました。同派は両事件に対して声明で犯行を認めました。同派は、年頭に反戦闘争を最重点とする方針を示し、イラクへの自衛隊派遣について「革命軍の自衛隊イラク出兵阻止をかけたゲリラ戦闘を切っ先に、イラク―全世界労働者人民の実力・武装の闘いに国際連帯をもって応えていく自衛隊イラク出兵阻止闘争の大爆発をかちとれ」と主張していました。
 革労協は、11年の分裂以降、主流派、反主流派の激しい対立が続いており、6月2日に、都内において反主流派活動家3人が数人の男に襲撃され、うち2人が殺害される事件が発生しました。現場の状況から、主流派による内ゲバ事件とみられています。
 本件は、13年5月、千葉県内で主流派幹部が殺害された内ゲバ事件以来、ほぼ3年振りに発生したものです。両派の分裂以降、内ゲバ事件は13件発生し、死者が8人(主流派5人、反主流派3人)となっています(本件内ゲバ容疑事件を除く。)。本件に関して主流派による犯行声明はありませんが、反主流派は、機関紙で、主流派に対し「可及的速やかに、日本階級闘争から消去する」などと報復宣言をしました。また、両派は、15年10月28日、福岡市内において、日雇い労働者に対するオルグの主導権をめぐる争いから、集団暴行事件を起こし、警察は、捜査の結果、16年4月から5月にかけて、主流派活動家6人、反主流派活動家1人を逮捕しました。
 大衆闘争では、反主流派が自衛隊のイラク派遣問題を中心とする反戦闘争に重点を置いて取り組み、主流派は、成田闘争を中心に取り組み、秋の全国集会前に初めて千葉市内で独自の集会を行いました。
 17年は、相手勢力の切り崩しや大衆運動の主導権争い等対立の激化が予想され、内ゲバの報復が行われるおそれがあります。

革労協反主流派による「陸上自衛隊朝霞駐屯地に向けた飛翔弾発射事件」の発射装置(11月、埼玉)
革労協反主流派による「陸上自衛隊朝霞駐屯地に
向けた飛翔弾発射事件」の発射装置(11月、埼玉)

4 公団の民営化後、新たな展開をみせる成田闘争


  16年4月1日、新東京国際空港公団は民営化され、成田国際空港株式会社(以下「成田空港会社」という。)に移行しました。
 成田空港会社は、暫定平行滑走路の誘導路が「へ」の字型に屈曲している要因である「天神峰現闘本部」の建物収去と土地の明渡しを求め千葉地裁に提訴するなど、完成に向けた諸施策を積極的に進めました。
 このような動きに対して、反対同盟北原グループは「天神峰現闘本部裁判を支援する会」を設立しました。また、過激派は「ゲリラ戦を先頭とした実力闘争・武装闘争の大爆発で 農地強奪攻撃を打ち返し、空港廃港をかちとろう」などと反発を強めました。
 16年中、成田現地での全国規模の集会、デモは2回取り組まれ、「3・28全国総決起集会」では約510人、「10・10全国総決起集会」では約490人を動員しました。
 過激派は、「成田は反戦の砦」と位置付けており、今後も息の長い現地闘争が続くものとみられます。
 成田闘争関連の「テロ、ゲリラ」事件は、16年中は発生しませんでしたが、堂本千葉県知事が、16年4月の市町村長との懇談会の席上、千葉県収用委員会の再建に関して「慎重かつ大胆に考えている」などと発言したことをとらえ、過激派は、「許すことのできない挑戦だ。千葉県と堂本知事に断固たる反撃をたたきつけなければならない」などと主張しました。
 17年は、暫定平行滑走路の完成を目指す成田空港会社や、16年12月に機能を回復した千葉県収用委員会の動きに対し、過激派が危機感を募らせることは必至であり、千葉県、成田空港会社、国土交通省関係者等をねらった「テロ、ゲリラ」事件を引き起こすおそれがあります。

成田闘争のデモに取り組む過激派(10月、千葉)
成田闘争のデモに取り組む過激派(10月、千葉)

5 過激派対策の推進


  警察は、各種法令を適用し、過激派の潜在的違法事案を掘り起こすなど事件捜査の徹底を図るとともに、アパート、マンション等に対するローラーを継続して取り組みました。
 また、ポスター等を活用して広範な広報活動を積極的に推進しました。これらの対策を推進した結果、16年中に革マル派非公然アジト1か所を摘発するとともに、非公然活動家10人を含む52人の過激派活動家を検挙しました。
 警察では、引き続き過激派による各種違法行為の取締り及び非公然アジトの摘発、指名手配被疑者等非公然活動家の発見、検挙に努めることとしています。


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