第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

2 国民の財産を狙う事犯への対策

(1)財産犯の被害額の罪種別状況

財産犯(注)の被害額の推移は、図表2-14のとおりであり、その被害総額は平成14年以降、減少傾向にある。

財産犯の被害額の罪種別状況は、25年までは窃盗の被害額が最も多かったが、26年は詐欺の被害額が最多となった。しかし、27年は図表2-15のとおり、再び窃盗の被害額が最も多くなり、約766億5,900万円(47.5%)となった。

注:強盗、恐喝、窃盗、詐欺、横領及び占有離脱物横領
 
図表2-14 財産犯の被害額の推移(平成18~27年)
図表2-14 財産犯の被害額の推移(平成18~27年)
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図表2-15 財産犯の被害額の罪種別被害状況(平成27年)
図表2-15 財産犯の被害額の罪種別被害状況(平成27年)
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(2)侵入窃盗対策

侵入窃盗の認知・検挙状況の推移は、図表2-16のとおりである。ピーク時である平成14年(33万8,294件)以降減少傾向にあり、同年から27年にかけて、侵入窃盗の認知件数は25万1,921件(74.5%)減少した。

警察庁、経済産業省、国土交通省及び建物部品関連の民間団体から成る「防犯性能の高い建物部品の開発・普及に関する官民合同会議」では、16年4月から、侵入までに5分以上の時間を要するなど一定の防犯性能があると評価した建物部品(CP部品)を掲載した「防犯性能の高い建物部品目録」をウェブサイトで公表するなどして、CP部品の普及に努めており、目録には28年3月末現在で17種類3,291品目が掲載されている。さらに、警察庁のウェブサイトに「住まいる防犯110番」(注)を開設し、侵入犯罪対策の広報を推進している。

注:http://www.npa.go.jp/safetylife/seianki26/index.html
 
CPマークCP部品だけが表示できる共通標章でCrime Prevention(防犯)の頭文字を図案化したもの
CPマーク
CP部品だけが表示できる共通標章でCrime Prevention(防犯)の頭文字を図案化したもの
 
図表2-16 侵入窃盗の認知・検挙状況の推移(平成18~27年)
図表2-16 侵入窃盗の認知・検挙状況の推移(平成18~27年)
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コラム 平成27年9月関東・東北豪雨の被災地における防犯対策

茨城県警察は、平成27年9月関東・東北豪雨により被災した茨城県常総市において、救出救助活動等を実施するとともに、空き巣等の被害を防止するため、パトカー等による24時間体制の警戒・警ら活動や、住民に対する地域安全情報の提供、避難所の巡回等を実施した。また、警備業者や消防団による自主的な防犯活動も行われた。

 
パトロールの状況
パトロールの状況

(3)侵入強盗対策

侵入強盗の認知・検挙状況の推移は、図表2-17のとおりである。平成21年にコンビニ強盗の認知件数が前年比で大きく増加したことなどから、同年には侵入強盗の認知件数が増加に転じたものの、ピーク時である15年(2,865件)以降、減少傾向にある。

警察では、コンビニエンスストアや金融機関等を対象とした強盗対策として、防犯体制、現金管理の方法、店舗等の構造、防犯設備等について基準を定め、警察官の巡回や機会を捉えた防犯訓練等を実施している。

 
図表2-17 侵入強盗の認知・検挙状況の推移(平成18~27年)
図表2-17 侵入強盗の認知・検挙状況の推移(平成18~27年)
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(4)自動車盗対策

自動車盗の認知・検挙状況の推移は、図表2-18のとおりである。ピーク時である平成15年(6万4,223件)以降、自動車盗の認知件数は減少傾向にあるが、車両別被害件数をみると、近年、乗用自動車の占める割合が減少傾向にある一方で、貨物自動車(トラック、ライトバン等)の占める割合が上昇傾向にある。

警察庁、財務省、経済産業省、国土交通省及び民間19団体から成る「自動車盗難等の防止に関する官民合同プロジェクトチーム」では、「自動車盗難等防止行動計画」(14年1月策定、25年12月改定)に基づき、イモビライザ(注)等の盗難防止機器の普及促進、自動車の使用者に対する防犯指導、広報啓発等を推進している。

注:エンジンキーに埋め込まれた送信機から発するIDコードと、車両本体の電子制御装置にあらかじめ登録されたIDコードが一致しなければ、エンジンが始動しない電子式盗難防止装置
 
自動車盗難防止の広報ポスター
自動車盗難防止の広報ポスター
 
図表2-18 自動車盗の認知・検挙状況の推移(平成18~27年)
図表2-18 自動車盗の認知・検挙状況の推移(平成18~27年)
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(5)万引き対策

万引きの認知・検挙状況の推移は、図表2-19のとおりである。万引きの認知件数は、平成22年以降減少傾向にあるものの、刑法犯認知件数に占める万引きの認知件数の割合は上昇傾向にあり、27年中は10.7%に達している。また、万引きの検挙人員全体に占める高齢者(注)の割合が上昇傾向にあり、27年中は36.7%であった。

警察では、万引きを許さない社会気運の醸成や規範意識の向上を図るため、関係機関・団体等と連携した広報啓発活動を行うなど、社会を挙げた万引き防止に向けた取組を推進している。

注:65歳以上の者
 
図表2-19 万引きの認知・検挙状況の推移(平成18~27年)
図表2-19 万引きの認知・検挙状況の推移(平成18~27年)
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(6)ひったくり対策

ひったくりの認知・検挙状況の推移は、図表2-20のとおりである。ひったくりの認知件数は、平成14年(5万2,919件)をピークに13年連続で減少しており、27年中は4,142件と、ピーク時の12分の1以下にまで減少した。

警察では、ひったくり事件の発生状況や手口を分析して、ひったくりの被害防止に効果のあるかばんの携行方法や通行方法等について啓発を行っているほか、関係機関・団体等と協力し、自転車用のひったくり防止カバー等の普及を促進するなどしている。

 
図表2-20 ひったくりの認知・検挙状況の推移(平成18~27年)
図表2-20 ひったくりの認知・検挙状況の推移(平成18~27年)
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(7)通貨偽造犯罪対策

① 発見状況

過去10年間の偽造日本銀行券の発見枚数(注)の推移は図表2-21のとおりであり、平成27年中は、前年より減少した。

注:届出等により警察が押収した枚数
 
図表2-21 偽造日本銀行券の発見枚数の推移(平成18~27年)
図表2-21 偽造日本銀行券の発見枚数の推移(平成18~27年)
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② 特徴的傾向と対策

最近の偽造日本銀行券の中には、精巧に偽造されたものが発見されている。これは、高性能のプリンタ等が一般に普及したためと考えられる。

警察庁では、財務省、日本銀行等と連携して、ポスターやウェブサイトで偽造日本銀行券が行使された事例や偽造通貨を見破る方法を紹介するなどして、国民の注意を喚起している。

事例

会社役員の男(76)らは、25年6月頃、偽造一万円券約100枚を手荷物に入れて中国から日本国内に持ち込み、輸入した。27年1月、同男ら2人を偽造通貨輸入罪で逮捕した(大阪、新潟、兵庫)。

(8)カード犯罪対策

過去10年間のカード犯罪(注)の認知・検挙状況の推移は図表2-22のとおりであり、認知件数、検挙件数及び検挙人員は平成19年以降減少傾向にある。

警察では、早期検挙のため捜査を徹底するほか、口座名義人からキャッシュカード等の盗難・紛失の届出があった場合にカードの利用停止を促すなど、被害の拡大防止に努めている。

注:クレジットカード、キャッシュカード、プリペイドカード及び消費者金融カードを悪用した犯罪
 
図表2-22 カード犯罪の認知・検挙状況の推移(平成18~27年)
図表2-22 カード犯罪の認知・検挙状況の推移(平成18~27年)
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(9)悪質商法事犯対策

① 利殖勧誘事犯

利殖勧誘事犯(注1)の検挙状況の推移は、図表2-23のとおりである。平成27年中は、ファンドに関連した事犯(注2)の検挙が目立った。

利殖勧誘事犯では、被害者が被害に遭ってから気付くまでに時間を要する場合が多いことから、警察では、同事犯の被害拡大防止のため、早期の事件化を図るとともに、犯罪に利用された預貯金口座を凍結するための金融機関への情報提供等を推進しており、27年中の同事犯に関する情報提供件数は489件であった。

注1:出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)、金融商品取引法、無限連鎖講の防止に関する法律等の違反に係る事犯
注2:出資者から集めた資金を有価証券や事業への投資などで運用し、生じる利益を配分する仕組みを商材とする事犯
 
図表2-23 利殖勧誘事犯の検挙状況の推移(平成18~27年)
図表2-23 利殖勧誘事犯の検挙状況の推移(平成18~27年)
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図表2-24 利殖勧誘事犯の類型別検挙状況(平成27年)
図表2-24 利殖勧誘事犯の類型別検挙状況(平成27年)
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事例

会社役員の男(59)らは、23年1月から26年1月にかけて、高齢者を中心に「年金の不足分を補える」などとして有価証券を運用するファンドへの出資の勧誘を行い、1都4県の延べ約400人から約15億8,000万円の出資金を集め、無登録で第二種金融商品取引業を営んだ。27年8月、同会社役員ら5人を金融商品取引法違反(無登録営業)で逮捕した(愛知)。

② 特定商取引等事犯

特定商取引等事犯(注)の検挙状況の推移は、図表2-25のとおりである。27年の検挙事件を類型別にみると、訪問販売に関連した事犯の検挙が目立った。

特定商取引等事犯では、被害者が被害に遭っていることに気付いても警察への届出までに時間を要する場合もみられることから、警察では、ウェブサイト等を通じて早期の相談を呼び掛けている。

注:訪問販売、電話勧誘販売等で事実と異なることを告げるなどして商品の販売や役務の提供を行う悪質商法。具体的には、訪問販売等の特定商取引を規制する特定商取引に関する法律違反及び特定商取引に関連する詐欺、恐喝等に係る事犯
 
図表2-25 特定商取引等事犯の検挙状況の推移(平成18~27年)
図表2-25 特定商取引等事犯の検挙状況の推移(平成18~27年)
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図表2-26 特定商取引等事犯の類型別検挙状況(平成27年)
図表2-26 特定商取引等事犯の類型別検挙状況(平成27年)
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事例

会社役員の男(34)らは、26年5月から27年1月にかけて、高齢者宅を訪問して、床下修理工事の必要性がないにもかかわらず、「洗面所の排水管から水が漏れている。水を吸い取るマットがある。このマットを敷いたら大丈夫」などと虚偽の内容を告げて、同工事代金名目で、2府県の20人から約2,900万円をだまし取るなどした。同年6月までに、同会社役員ら4人を詐欺罪で逮捕した(兵庫)。

 
床下に敷かれたマット
床下に敷かれたマット

(10)ヤミ金融事犯対策

ヤミ金融事犯(注1)の検挙状況の推移は、図表2-27のとおりである。ヤミ金融事犯のうち、無登録・高金利事犯の検挙事件数及び検挙人員は減少傾向にあるが、ヤミ金融関連事犯(注2)は増加傾向にある。

無登録・高金利事犯のうち、携帯電話や預貯金口座を利用して非面接で敢行されるいわゆる090金融事犯については、平成27年中は、検挙事件数の15.7%、検挙人員の34.5%を占めている。また、27年中に検挙した無登録・高金利事犯に占める暴力団が関与した割合は、21.4%であった。

警察では、ヤミ金融事犯の取締りを推進するとともに、ヤミ金融に利用された預貯金口座を凍結するための金融機関への情報提供、レンタル携帯電話等の解約についての事業者への要請等の総合的な対策を行っている。27年中の金融機関への情報提供件数は2万8,445件、レンタル携帯電話事業者への解約要請件数は3,735件であった。

注1:出資法違反(高金利等)及び貸金業法違反並びに貸金業に関連した詐欺、恐喝等に係る事犯
注2:貸金業に関連した犯罪収益移転防止法違反、詐欺、携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律(以下「携帯電話不正利用防止法」という。)違反等に係る事犯
 
図表2-27 ヤミ金融事犯の検挙状況の推移(平成18~27年)
図表2-27 ヤミ金融事犯の検挙状況の推移(平成18~27年)
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事例

工藤會傘下組織幹部の男(39)らは、25年4月から27年5月にかけて、電話により顧客を勧誘し、融資を申し込んできた全国の顧客約4,000人に対し、その銀行口座に振込送金する方法により、法定利息の約31倍から約202倍で金銭を貸し付けるとともに、他人名義の口座へ振込送金させる方法により、元利金約5億6,000万円を受領した。同年7月までに、同幹部ら11人を貸金業法違反(無登録営業)及び出資法違反(超高金利)で検挙した(福岡)。

(11)知的財産権侵害事犯対策

① 商標権侵害事犯及び著作権侵害事犯

偽ブランド事犯等の商標権侵害事犯(注1)、海賊版事犯等の著作権侵害事犯(注2)においては、インターネットを利用して侵害行為が行われる場合が多いことから、警察では、サイバーパトロール等による端緒情報の把握に努めている。

また、不正商品対策協議会(注3)の活動への参加を始め、権利者等と連携した知的財産権の保護及び不正商品の排除に向けた広報啓発活動を推進している。

注1:商標法違反に係る事犯
注2:著作権法違反に係る事犯
注3:昭和61年、不正商品の排除及び知的財産権の保護を目的として、知的財産権侵害に悩む各種業界団体により設立された任意団体。警察庁等の関係機関と連携し、シンポジウムの主催や各種催物への参加を通じて、広報啓発活動、海外における不正商品販売の実態調査、海外の捜査機関や税関等に対する働き掛け等を行っている。
 
図表2-28 知的財産権侵害事犯の検挙状況の推移(平成23~27年)
図表2-28 知的財産権侵害事犯の検挙状況の推移(平成23~27年)
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図表2-29 押収した偽ブランド品のうち、仕出国・地域が判明したものの国・地域別押収状況の推移(平成18~27年)
図表2-29 押収した偽ブランド品のうち、仕出国・地域が判明したものの国・地域別押収状況の推移(平成18~27年)
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② 営業秘密侵害事犯

平成27年中は、企業の保有する技術情報等が、同業他社に転職した元社員によって持ち出され、転職先の業務に使用される事犯や、遠隔操作等ソフトを利用して経営戦略情報が持ち出された事犯等、社会の関心を呼ぶ営業秘密侵害事犯(注)がみられた。

注:不正競争防止法第21条第1項に係る事犯

事例

包装機械製造・販売等会社(A社)の元従業員の男(47)らは、不正の利益を得る目的で、同業他社(B社)に転職する直前の25年9月頃から10月頃までの間、6回にわたり、A社のサーバコンピュータにアクセスし、A社の営業秘密である包装機械の設計図面データ6件を自己所有のハードディスクに複製して領得し、B社従業員に開示するなどした。B社従業員らは、同社の業務に関し、26年3月頃から9月頃までの間、当該図面を複写し貼り付けるなどし、新たに包装機械の設計図面を作成して、A社の営業秘密を使用した。27年6月までに、同男ら1法人4人を不正競争防止法違反(営業秘密の領得・開示・使用)で検挙した(神奈川)。

コラム 不正競争防止法改正を受けた警察の取組

営業秘密漏えいに対する抑止力の向上等を図るため、罰金刑の上限の引上げ、営業秘密侵害罪の非親告罪化等を内容とする不正競争防止法の一部を改正する法律が、平成27年7月、第189回国会において成立し、28年1月に施行された。警察では、各都道府県警察で指定された営業秘密保護対策官が、警察署における営業秘密侵害事犯の相談対応について指導を行うことなどにより捜査能力の一層の向上を図っているほか、被害の早期届出の必要性についての企業に対する啓発等を強化している。



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