第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

3 構造的な不正事案への対策

(1)政治・行政をめぐる不正事案

国又は地方公共団体の幹部職員等による贈収賄事件、入札談合等関与行為防止法(注)違反事件、公契約関係競売等妨害事件、買収等の公職選挙法違反事件等の政治・行政をめぐる不正は依然として後を絶たない。

しかし、このような事案は、直接の被害者がおらず、金品の受渡し等は密室で行われることが多いことから、被害申告や目撃者の証言等が通常は期待できず、端緒情報の把握や犯罪事実の立証は容易ではない。

警察では、このような事案に対し、端緒情報の把握に努めるとともに、不正の実態に応じて様々な刑罰法令を適用するなどして、事案の解明を進めている。第18回統一地方選挙(平成27年4月12日及び同月26日施行)における選挙期日後90日現在(27年7月11日及び同月25日現在)の公職選挙法違反の検挙件数は406件、検挙人員は673人(うち逮捕者は104人)であった。

注:入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律
 
図表2-30 政治・行政をめぐる不正事案の検挙事件数の推移(平成18~27年)
図表2-30 政治・行政をめぐる不正事案の検挙事件数の推移(平成18~27年)
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事例

厚生労働省政策統括官付社会保障担当参事官室室長補佐(45)は、23年11月頃、ITコンサルティング等を業とする会社社長から、社会保障分野における情報連携基盤整備事業の企画競争方式による調達に関し、有利な取り計らいをしたことの謝礼等として、現金100万円を収受した。27年10月、同室長補佐を収賄罪で逮捕した(警視庁)。

事例

北海道福島町長(53)は、24年8月頃、同町長選挙に立候補する際、コンピューターソフト製造販売等を業とする会社役員から、同町長に就任した後、同社が各種助成を受けることを容易にする条例案を同町議会に提出するなど有利な取り計らいをするよう依頼を受け、その報酬として、現金100万円を収受した。27年7月、同町長を事前収賄罪で逮捕した(北海道)。

事例

住吉会会長(69)らは、27年3月頃、選挙人十数名に対し、県議会議員選挙の立候補者のための投票及び選挙運動の報酬として、供応接待をした。同年6月、同会長ら3人を公職選挙法違反(買収)で逮捕した(千葉)。

(2)経済をめぐる不正事案

金融機関等の企業の役職員らが組織の内部統制を逸脱したことによる背任、詐欺等の違法事犯のほか、証券市場等における取引に関連した違法事犯が後を絶たない状況にある。また、国の補助金や生活保護費等の不正受給事犯も相次いで発生している。

警察では、これらの金融・不良債権関連事犯、企業の経営等に係る違法事犯、証券取引事犯、財政侵害事犯及びその他国民の経済活動の健全性又は信頼性に重大な影響を及ぼすおそれのある犯罪の取締りを推進している。また、様々な投資名目で消費者等が被害に遭う詐欺事件等においては、被害者が多数・広域に及ぶ場合があることから、関係する都道府県警察が連携を図っている。

これらの不正の背景には、企業や業界を取り巻く利権に絡む構造的な不正や反社会的勢力等の介在も見られることから、その摘発を図ることが課題となっている。

このような事案に対しては、対象となる企業等の財務実態の解明が不可欠であることから、都道府県警察においては、公認会計士や税理士等の専門的な知識を有する者を財務捜査官として採用し、その高度な技能を活用して事案の早期解明を図っている。

 
図表2-31 金融・不良債権関連事犯の検挙事件数の推移(平成18~27年)
図表2-31 金融・不良債権関連事犯の検挙事件数の推移(平成18~27年)
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事例

大手都市銀行の元審査役(51)らは、架空の投資話を仕立ててその資金調達名目に現金をだまし取ろうと企て、顧客に対し、「現金を交付すればその現金が投資に充てられて一定期間継続的に配当金が支払われる」「その期間終了時には交付した現金相当額も返還される」などと虚偽の内容の話を持ちかけ、平成23年5月頃から24年6月頃にかけて、投資金として合計2億1,500万円をだまし取った。27年3月、同元審査役ら3人を詐欺罪で逮捕した(警視庁)。

事例

不動産会社の元代表取締役(69)らは、同人らが経営する石油製品販売会社の資産が強制執行を受けるおそれがあることを察知するや、同資産を隠匿し、強制執行を妨害する目的で、25年2月頃から同年11月頃にかけて、同社名義の銀行口座から海外の銀行口座に、貸付金等の名目で合計約41億6,200万円を送金した。27年10月、同元代表取締役ら6人を強制執行妨害目的財産損壊等罪で逮捕した(京都)。

事例

仮想通貨であるビットコインの売買取引仲介サイトを運営していた会社の代表取締役(30)は、自己が使用する物品の購入費用やコンピュータソフトウェア関連事業を譲り受ける対価の支払等に充てる目的で、25年9月頃から12月頃にかけて、顧客から送金されたビットコインの売買のための資金のうち、合計約3億4,100万円を横領した。27年8月、同代表取締役を業務上横領罪で逮捕した(警視庁)。



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