トピックス

トピックスV 国際テロの脅威と警察の取組

(1)我が国に波及する国際テロの脅威

最近の国際テロ情勢は、イラクとシリアにまたがる地域で活動するISIL(注)の台頭に伴い、大きく変容している。ISILは、制圧した油田等から得る莫大な資金や巧妙なメディア戦術等を背景に、世界各地から多くの外国人戦闘員を誘引しており、こうした外国人戦闘員が、母国に帰還した後にテロを敢行する危険性が指摘されている。我が国でも、ISILに戦闘員として加わるため、シリアへの渡航を企てた疑いのある者について、警視庁が私戦予備陰謀被疑事件として捜査を行っており、外国人戦闘員問題は決して対岸の火事ではない。

注:Islamic State of Iraq and the Levant(いわゆる「イスラム国」)の略
 
ISILの戦闘員(Abaca/アフロ)
ISILの戦闘員(Abaca/アフロ)

また、平成27年2月に発生したデンマークにおける連続テロ事件等欧米諸国でテロ組織と関わりのない個人が過激化して引き起こすテロ(ローン・ウルフ(一匹おおかみ)型のテロ)とみられる事件が発生している。さらに、ISILやAQ(注)関連組織等は、インターネットを活用して過激思想を広めており、こうした活動は、ローン・ウルフ型のテロにも影響を与えている。

このような情勢の中で、平成27年1月及び2月、シリアにおける邦人殺害テロ事件が発生し、国内外に大きな衝撃を与えた。同年2月1日にISILによって配信されたとみられる動画には、日本政府を名指しして、今後も邦人をテロの標的とすることを示唆するメッセージが含まれており、我が国においてもテロの脅威が現実のものとなっている。

注:Al-Qaeda(アル・カーイダ)の略
 
邦人の殺害を予告するISILの戦闘員(写真提供:共同通信社動画投稿サイト「ユーチューブ」より)
邦人の殺害を予告するISILの戦闘員(写真提供:共同通信社動画投稿サイト「ユーチューブ」より)

(2)大規模イベントを狙ったテロ事件

このような厳しい国際テロ情勢の中、我が国においては、平成28年に主要国首脳会議(サミット)が、32年に2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催が、それぞれ予定されている。こうした大規模な国際会議や国際スポーツ大会等は、世界的に大きな注目を集めることから、テロの格好の攻撃対象となり得る。特に、オリンピック・パラリンピックは、世界中から多数の要人、選手団、観客等が集まり、国際的な注目度も極めて高い行事であるため、我が国がテロの標的となる可能性は否定できない。

実際、過去には、昭和47年のドイツ・ミュンヘンオリンピックにおけるイスラエル選手団襲撃事件、平成8年の米国・アトランタオリンピックにおけるオリンピック百年記念公園爆弾テロ事件が発生している。また、近年では、17年7月、英国・グレンイーグルズにおけるサミットの開催中に、ロンドン中心部で、地下鉄等に対する爆弾テロ事件が発生し、56人が死亡したほか、25年4月には、米国・ボストンにおいて開催されていたマラソン大会のゴール付近で、爆弾テロ事件が発生し、3人が死亡した。さらに、オリンピック開催を控えたロシア・ソチの北東約680キロメートル離れた都市ボルゴグラードにおいて、25年10月から同年12月の間に3件の自爆テロ事件が発生し、合計40人が死亡するなど、世界各国では、大規模イベントを狙ったテロ事件により、多数の犠牲者が出ている。

 
ロシア・ボルゴグラードにおける自爆テロ事件で破壊されたトロリーバス(AFP=時事)
ロシア・ボルゴグラードにおける自爆テロ事件で破壊されたトロリーバス(AFP=時事)

(3)警察の取組

警察では、我が国における大規模イベントの開催を見据え、各種テロ対策を推進している。

① 情報の収集・分析の強化

テロを未然に防止するためには、幅広い情報を収集して的確に分析することが不可欠である。また、テロは極めて秘匿性の高い行為であり、収集される関連情報のほとんどは断片的なものであることから、情報の蓄積と総合的な分析が求められる。警察では、外国治安情報機関等との連携を一層緊密化するなど、情報の収集・分析を強化している。

② 違法行為の取締りの徹底

情報の収集・分析の結果、テロの実行に向けた動向を把握した場合等、違法行為を認知した場合には、法と証拠に基づき厳正に対処することとしている。

③ 警戒警備の強化

警察では、近年の厳しい国際テロ情勢等を踏まえ、首相官邸、空港、原子力関連施設、米国関係施設等の重要施設や鉄道等の公共交通機関の警戒警備を強化している。

 
国会議事堂における警戒
国会議事堂における警戒
 
空港における警戒
空港における警戒
④ 水際対策の強化

周囲を海に囲まれた我が国においてテロリスト等の入国を防ぐためには、国際空港・港湾において、出入国審査、輸出入貨物の検査等の水際対策を的確に推進することが重要である。政府は、内閣官房に空港・港湾水際危機管理チームを設置して、関係機関が行う水際対策の強化の調整を図っている。また、国際空港・港湾には、空港・港湾危機管理(担当)官が置かれ、関係機関の連携の下、具体的な事案を想定した訓練を実施しているほか、施設警備の改善を図るなどの取組を行っている。

 
空港におけるテロ対策合同訓練
空港におけるテロ対策合同訓練
 
図表V-1 空港・港湾における水際対策・危機管理体制
図表V-1 空港・港湾における水際対策・危機管理体制
⑤ テロへの対処体制の強化

万が一テロが発生した場合には、犯人を追跡し、制圧・検挙することにより続発防止を図るとともに、危険物質の除去、避難誘導、救出救助等の実施により被害を最小化することが重要であり、警察では、そのために必要なテロへの対処体制の強化を進めている。



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