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トピックスIII インターネットバンキングに係る不正送金事犯への対策

近年、インターネットバンキングに係る不正送金事犯が急増しており、警察では、徹底した取締りや、被害防止のための広報啓発活動等に取り組んでいます。

インターネットバンキングのID・パスワード等を不正に入手し、これを用いて他人の口座へ不正送金を行う事犯が急増しています。こうした状況は、インターネットバンキングの安全を損ない、その信頼を揺るがしかねないことから、警察では、取締りの徹底、金融機関等と連携した予防活動、利用者への広報啓発に取り組んでいます。

(1)インターネットバンキングに係る不正送金事犯の発生状況

① 発生件数の急増

平成23年に約3億800万円を記録した不正送金事犯の被害額は、24年に約4,800万円と減少したものの、25年に入り被害が急増し、被害額は約14億600万円と大幅に増加しました。特に同年6月以降は、毎月100件以上の被害が発生し、深刻な状況にあります。

 
図表III-1 インターネットバンキングに係る不正送金事犯の月別発生件数の推移(平成23~25年)
図表III-1 インターネットバンキングに係る不正送金事犯の月別発生件数の推移(平成23~25年)
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② ID・パスワード等の識別符号を不正に入手する手口

他人のID・パスワード等の識別符号を不正入手する手口としては、フィッシングサイト(注1)やコンピュータ・ウイルスを悪用するものがみられます。コンピュータ・ウイルスを悪用するものについては、24年10月頃から、正規のインターネットバンキングサイトへの接続時にID・パスワードを不正に入手するコンピュータ・ウイルスのみならず、取引等の認証に必要となる乱数表への入力等を求める不正な画面表示を行うコンピュータ・ウイルスによる被害が発生し、25年に急増しました。こうしたコンピュータ・ウイルスの中には、メールアカウントのID・パスワードも不正に入手する機能が備わっているものもあり、メールに記載されたワンタイムパスワード(注2)が入手される被害も発生しました。

注1:金融機関と誤認させてインターネットバンキングの利用者にID・パスワード等の入力を求めるウェブサイト。同サイトへのリンクを記載したメールを送付するなどして利用者を誘導する。

注2:インターネットバンキング等における認証用のパスワードであって、認証のたびにそれを構成する文字列が変わるもの。これを導入することにより、識別符号を盗まれても次回の利用時に使用できないこととなる。

 
図表III-2 コンピュータ・ウイルスにより不正に表示された画面(イメージ)
図表III-2 コンピュータ・ウイルスにより不正に表示された画面(イメージ)

③ 不正送金された資金の流れ

不正送金先の口座の名義人は、約7割が中国人、約2割が日本人となっています。また、不正送金された資金については、不正送金先の口座の名義人とは異なる者により出金される事例や、不正送金先口座の名義人自らにより出金された上で、資金移動業者(注)を介して国外へ送金されたりする事例が全体の約7割を占めています。

注:銀行等以外の一般事業者であって、為替取引(1回当たりの送金額が100万円以下のものに限る。)を業として営むことについて資金決済に関する法律第37条の登録を受けた者

事例①

中国人の男(32)らは、23年9月、不正に入手した他人のID・パスワードを用いて自らの預金口座に500万円を不正に送金した。24年10月までに、同男ら2人を電子計算機使用詐欺罪、不正アクセス禁止法(注)違反等で逮捕した(埼玉)。

注:不正アクセス行為の禁止等に関する法律

事例②

フィリピン人の男(32)は、25年10月、自己の預金口座に不正に送金された現金について、資金移動業者を介して行った国外への送金の受け取りに必要な情報を有償で提供した。26年1月、同男を犯罪収益移転防止法違反(為替取引カード等の有償譲渡)で逮捕した(愛知)。

(2)インターネットバンキングに係る不正送金事犯に対処するための取組

① 不正送金事犯に関与した者の検挙

警察では、平成25年中、不正送金事犯に関連して、他人に利用させる意図を隠して口座を開設した者や口座を売買した者、不正に送金された資金を引き出した者、現金を回収した者、これらを指示した者計68人を検挙しています。

② 都道府県警察の協働による迅速な捜査

不正送金事犯については、送金元や送金先の口座名義人所在地、現金引出場所等が複数の都道府県警察の管轄にわたるものが多いことから、効率的な捜査を行うため、認知当初から、被害情報等を都道府県警察間で共有し、協働して捜査する必要があります。そこで、警察庁では、都道府県警察間の合同・共同捜査を積極的に推進しています。25年7月には、金融機関本店が集中する東京都内での捜査結果を関係道府県警察に提供するサイバー犯罪特別対処班を警視庁に設置して、初期捜査の迅速化を図ることとしました。

③ セキュリティ機能強化等に関する金融機関等への働き掛け

警察では、金融機関に対して、インターネットバンキングのセキュリティ機能強化のための注意喚起、不正送金に悪用される口座を凍結するための口座情報や凍結口座名義人情報の提供、資金移動業者への国外送金の審査強化に関する働き掛け等を行っています。こうした働き掛けにより、一部の金融機関で可変式パスワード生成器(トークン)を用いることで、メールを介さなくてもワンタイムパスワードを利用することが可能になるなど、セキュリティ機能の強化が図られました。

また、ウイルス対策ソフト提供事業者との情報交換を通じて、不正送金事犯に悪用されているボットネット(注1)を把握し、当該ボットネットに組み込まれたコンピュータ等の利用者に対して、通信事業者等と連携して注意喚起を行うなどの対策を行っています。(注2)

注1:攻撃者の命令に基づき動作するコンピュータ・ウイルス(ボット)に感染したコンピュータ及びこれらのコンピュータに攻撃者の命令を送信する指令サーバから成るネットワーク

注2:119頁参照

 
図表III-3 可変式パスワード生成器(トークン)(イメージ)
図表III-3 可変式パスワード生成器(トークン)(イメージ)

④ 事業者等と連携した広報啓発

警察では、金融機関と連携し、ID・パスワード等の識別符号を不正に入手する各種手口について、利用者に対する注意喚起や知識の啓発に努めています。

また、留学生や技能実習生が不正送金に悪用される口座の売買や資金の引き出しに関わる事案がみられることから、その受け入れ大学、事業者等と連携した啓発を行っています。


 トピックスIII インターネットバンキングに係る不正送金事犯への対策

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