特集:変容する捜査環境と警察の取組 

5 構造的な不正事案の情勢と捜査上の課題

(1)政治・行政をめぐる不正事案

国や地方公共団体の職員等による贈収賄事件、公契約関係競売等妨害事件、買収等の公職選挙法違反事件等の政治・行政をめぐる不正は依然として後を絶たない。

しかし、この種事案は、直接の被害者がおらず、金品の受渡し等は密室で行われることが多いことから、被害申告や目撃者の証言等が通常は期待できず、端緒情報の把握や犯罪事実の立証は容易ではない。

警察では、この種事案に対し、端緒情報の把握に努めるとともに、不正の実態に応じて様々な刑罰法令を適用するなどして、事案の解明を進めている。第23回参議院議員通常選挙(平成25年7月21日施行)における選挙期日後90日現在(25年10月19日現在)の公職選挙法違反の検挙件数は133件、検挙人員は170人(うち逮捕者は52人)であった。

 
図表-28 政治・行政をめぐる不正事案の検挙事件数の推移(平成16~25年)
図表-28 政治・行政をめぐる不正事案の検挙事件数の推移(平成16~25年)
Excel形式のファイルはこちら

事例①

元三原市議会議長(64)は、23年11月中旬頃、自己の支援者から、同支援者の子が職員採用試験の成績に関係なく採用されるよう同市職員に対して働き掛けてほしいとの請託を受け、同市幹部職員に対し、同支援者の子の採用をあっせんし、同年12月下旬頃、同支援者から謝礼として現金300万円の交付を受けた。25年8月、同議長を、公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律違反(公職者あっせん利得)で逮捕した(広島)。

愛知(えち)郡広域行政組合係長(38)は、22年11月初旬頃、土木建築等を業とする会社従業員から、同組合が発注する上水道工事の受注に関して、職務上不正な行為をしたことの謝礼として、大型自動二輪車1台(時価85万円相当)を収受した。25年3月、同係長を収賄罪で逮捕した(滋賀)。

コラム① インターネット等を利用した選挙運動の解禁

平成25年4月、公職選挙法の一部を改正する法律が成立し、インターネット等を利用した選挙運動が解禁されることとなり、第23回参議院議員通常選挙の公示日である同年7月4日から適用された。

インターネット等を利用した選挙運動の解禁に伴い、インターネット上での悪質な誹謗中傷、候補者へのなりすまし等の発生が懸念されたことから、警察では、選挙違反の取締り担当部門、サイバー犯罪捜査担当部門及び情報通信部門の連携を強化するとともに、各都道府県警察に電子メールによる選挙違反情報通報窓口を設置して違反取締りを推進した。

第23回参議院議員通常選挙期日後90日現在、インターネット等を利用した違法な選挙運動に対する検挙はなかったものの、25件の警告を行った。

(2)経済をめぐる不正事案

企業の役職員らが企業の内部統制を逸脱したことによる違法事犯のほか、最近の経済状況を背景として、金融機関からの各種融資をめぐる詐欺事犯、証券市場を舞台とした証券の発行や取引に関連した事犯が後を絶たない状況にある。また、国の補助金や生活保護費等の不正受給事犯も相次いで発生している。

警察では、これら企業の経営等に係る違法事犯、証券取引事犯、金融事犯及びその他国民の経済活動の健全性又は信頼性に重大な影響を及ぼすおそれのある犯罪の取締りを推進している。また、様々な投資名目で消費者等が被害に遭う詐欺事件等においては、被害者が多数・広域に及ぶ場合があることから、関係する都道府県警察が連携を図っている。

これらの不正の背景には、企業や業界を取り巻く利権に絡む構造的な不正や反社会的勢力等の介在もみられることから、その摘発を図ることが課題となっている。

このような犯罪の捜査では、対象となる企業等の財務実態の解明が不可欠であることから、都道府県警察において、公認会計士や税理士等の専門的な知識を有する者を財務捜査官として採用し、その高度な技能を活用して事案の早期解明を図っている。

事例①

和牛の預託等取引業を行う畜産会社の代表取締役(69)らは、繁殖牛の売買・飼養委託契約の締結について勧誘するに当たり、顧客に割り当てる繁殖牛が存在しないにもかかわらず、平成22年9月頃から23年7月頃にかけて、実在しない繁殖牛の耳番号を記載した契約書等を顧客に送付するなどし、繁殖牛の保有の状況につき事実と異なることを告げた。25年6月、取締役ら3人を特定商品等の預託等取引契約に関する法律違反(不実の告知)で逮捕した(警視庁、栃木)。

事例②

会社代表取締役(45)らは、東日本大震災に伴う原発事故の損害賠償金名目で電力会社から現金をだまし取ろうと企て、同人らが事故当時から飲食店等を営業していた事実がないにもかかわらず、当該事実があるように装い、同事故によって来客数が減少し、営業損害を被った旨の内容虚偽の賠償金の請求書を同電力会社に送付し、24年8月頃から同年10月頃にかけて、賠償金として現金合計約4,300万円をだまし取った。25年9月、取締役ら7人を詐欺罪で逮捕した(福島)。


 第1節 犯罪情勢と捜査上の課題

前の項目に戻る     次の項目に進む