特集:変容する捜査環境と警察の取組 

第2節 警察捜査を取り巻く環境の変容

刑法犯の認知件数は平成14年をピークに一貫して減少しているものの、警察捜査を取り巻く環境の変容により、犯人の追跡が困難になるとともに、警察捜査の在り方も変革を迫られている。本節では、こうした警察捜査に影響を与える社会情勢の変化や制度の変革に焦点を当てる。

1 社会情勢の変化

(1)地域社会における人間関係の希薄化

我が国では、従来、近隣関係を中心とする地域社会において、強固な連帯意識や帰属意識が形成されていたが、高齢化の進展や地方から都市部への人口流入に伴い、単身独居世帯が増加する中、地域社会において、人間関係の希薄化が進んでいる。

こうした状況は、警察捜査に関する意識調査の結果においても表れている。図表-29のとおり、地域の住民組織である自治会等へ加入しており、行事に毎回又は時々参加している者は、全体の28.8%にとどまっている。

 
図表-29 自治会等への加入状況・行事への参加状況
図表-29 自治会等への加入状況・行事への参加状況
Excel形式のファイルはこちら

また、自身が居住している地区に「付き合いのある友人」が何人くらいいるかについては、図表-30のとおり、「全くいない」と回答した者が35.7%、「1.2人」と回答した者が32.2%であり、これらが全体の約7割を占めた。また、「付き合いはないが顔見知りの知人」の人数については、「全くいない」と回答した者が23.1%、「1.2人」と回答した者が20.0%であり、これらが全体の約4割を占めた。

 
図表-30 付き合いのある友人、顔見知りの知人の人数
図表-30 付き合いのある友人、顔見知りの知人の人数
Excel形式のファイルはこちら

さらに、平日の昼間における留守の状況については、図表-31のとおり、「週3日以上」と回答した者が、全体の約4割を占めた。

 
図表-31 平日の昼間における留守の状況
図表-31 平日の昼間における留守の状況
Excel形式のファイルはこちら

このように、警察が聞き込み捜査のような伝統的な捜査手法によって有力な情報を得ることが難しい状況となっており、図表-32のとおり、聞き込み捜査を被疑者検挙の端緒とした刑法犯の検挙件数は大きく減少している。

 
図表-32 聞き込み捜査を被疑者検挙の端緒とした刑法犯の検挙件数の推移(平成5~25年)
図表-32 聞き込み捜査を被疑者検挙の端緒とした刑法犯の検挙件数の推移(平成5~25年)
Excel形式のファイルはこちら

一方、近年では、防犯カメラが、駅の構内、コンビニエンスストア等の不特定多数の者が利用する場所に設置されるようになってきており、公共の安全を確保するために重要な役割を果たすようになっている。

(2)犯罪の痕跡を残さないための手段として悪用される各種サービス

通信、金融、運輸等の様々な分野における各種サービスが高度化し、国民生活や経済活動の利便性向上に大きく寄与している一方で、こうしたサービスの中には、犯罪の痕跡を残さないための手段として悪用されて捜査を困難にしているものがある。

① 携帯電話

携帯電話が急速に普及し、加入者数は増加の一途をたどっており、今や国民一人につき1台という時代になった。

 
図表-33 携帯電話加入契約数の推移(平成21~25年度)
図表-33 携帯電話加入契約数の推移(平成21~25年度)
Excel形式のファイルはこちら

携帯電話については、その契約の際に、偽造の身分証明書の使用、偽装養子縁組による氏名の変更、架空会社名義の使用等により不正な契約をする事案や、レンタル携帯電話事業者による利用者の本人確認が徹底されていない事案等があり、契約者・利用者の特定が困難となっている。

こうした中、携帯電話が、犯罪の痕跡を残さないための手段として犯罪に悪用される事案が多発している。例えば、警察庁において、平成25年5月1日から同月31日までの間、全国の都道府県警察で検挙した特殊詐欺事件の犯行グループの被疑者が所持していた携帯電話の名義について調査した結果、図表-34のとおり、約6割が他人名義の携帯電話であった。

 
図表-34 特殊詐欺事件の犯行グループの被疑者が所持していた携帯電話の名義(平成25年5月)
図表-34 特殊詐欺事件の犯行グループの被疑者が所持していた携帯電話の名義(平成25年5月)
Excel形式のファイルはこちら
② インターネット

インターネット利用者数が増加を続ける中、インターネットの匿名性についても、犯罪に悪用されている。

 
図表-35 インターネットの利用者数及び人口普及率の推移(平成16~25年)
図表-35 インターネットの利用者数及び人口普及率の推移(平成16~25年)
Excel形式のファイルはこちら

事例

サイト運営会社の代表取締役(40)らは、24年4月から同年5月にかけて、同人らが運営する出会い系サイトにおいて、芸能人等を装った従業員から、同サイトに会員登録した男へメールを送信させるなどし、同男から同サイトの利用料金として合計約137万円をだまし取った。25年7月までに、同人ら10人を詐欺罪で逮捕した(警視庁)。

③ その他のサービス

現金を預貯金口座に振り込ませる手口の特殊詐欺が依然として多発している。預貯金口座は、携帯電話と同様に、架空の人物や第三者になりすました者により開設されたり、正規に開設されたものが売買されたりして、犯罪収益の集金・送金手段として悪用されている。また、近年、私設私書箱と呼ばれる郵便物受取サービスが普及し、詐欺の被害金の送付先や不正に売買等された預貯金口座の通帳等の受取場所としても悪用されている実態がみられる。


 第2節 警察捜査を取り巻く環境の変容

前の項目に戻る     次の項目に進む