特集:変容する捜査環境と警察の取組 

4 組織犯罪の捜査が抱える課題

組織犯罪情勢については、平成25年中においても、暴力団等によるとみられる事業者襲撃等事件や対立抗争事件が発生しているほか、25年中の覚醒剤の押収量が昭和31年以降で3番目の多さとなるなど、依然として厳しい状況にある。

(1)暴力団犯罪捜査の課題

暴力団犯罪の捜査においては、犯人の検挙のみならず、組織の資金源や上位者の関与等の組織実態の解明も課題である。

しかし、最近では、暴力団が一般の企業活動を仮装して各種の事業活動を行ったり、関係企業や共生者(注)を利用したりするなどして、資金獲得活動を行っている。このため、暴力団関係の事業活動と一般の企業活動を見分けることが困難となり、暴力団の組織実態・活動実態が不透明化するとともに、事件の端緒を把握することが困難になっている。

また、暴力団は、犯罪を実行する者、見張りをする者、現場の下見をする者、逃走用車両を運転する者等に役割を分担し、犯行の際にはフルフェイスのヘルメット等を着用し、顔を隠すとともに、髪の毛等の物的証拠が残らないようにするなど、組織的・計画的に犯罪を敢行しているため、目撃者や物的証拠等が得られにくい。

さらに、暴力団は、警察による取締りを警戒し、構成員等に対する統制を強化するとともに、その意に沿わない事業者を報復・みせしめ目的で襲撃するなどしているため、暴力団関係者や暴力団犯罪の被害者から、組織に関する情報や被害に関する供述が得られにくくなっている。

注:122頁参照

 
図表-27 不透明化する暴力団の組織実態・活動実態
図表-27 不透明化する暴力団の組織実態・活動実態

事例①

25年1月、会津小鉄会傘下組織幹部(54)らを詐欺罪で逮捕し、その捜査の過程で同幹部らが経営に関わっていた清掃業者2社が判明した。そのうちの1社は、暴力団排除条項(注)が設けられた契約書で京都府及び京都市と清掃業務の委託契約を結んでいた(京都)。

注:128頁参照

事例②

25年11月、建設会社社長が出勤のため自宅前に駐車中の車両に乗り込もうとした際、黒っぽいフルフェイスのヘルメットを着用した被疑者から刃物で頭部及び大腿部等を複数回刺され、重傷を負った(福岡)。

(2)薬物犯罪捜査の課題

薬物犯罪の捜査においては、薬物乱用者の検挙のみならず、その背後にある薬物密輸・密売組織を壊滅し、違法薬物の供給を遮断することも課題である。

しかし、薬物犯罪は、直接の被害者が存在せず、秘密裏に敢行されることが一般的であることから、潜在化する傾向があり、取締機関が事件の端緒を把握することが困難な場合が多い。また、薬物犯罪は、暴力団や外国人犯罪組織等によって組織的に敢行される場合が多く、これらの組織は薬物の運搬・保管等の犯行の分業化、指示系統の複雑化、摘発時における供述内容の指示等により組織防衛を図る傾向があることから、組織の実態や供給ルートの解明が困難となっている。

さらに、航空機の利用者の手荷物品への隠匿、船舶コンテナ貨物の利用等の巧妙な手口の密輸事犯が敢行されているほか、近年では、いわゆる運び屋(注1)が密輸事犯への関与の認識を否認したり、「脱法ドラッグ」(注2)の使用者が薬物の違法性の認識を否認したりする事例もみられるなど、薬物犯罪の捜査は一層困難なものとなっている。

注1:航空機等を利用して薬物を密輸する役割を担う者をいい、薬物犯罪組織とつながりの薄い者がこれに当たることが多い。

注2:54頁参照

事例①

九州誠道会傘下組織構成員(52)を中心とする密売グループは、全国各地の密売人らに対し、宅配便を利用して、組織的に覚醒剤を密売していた。また、密売に当たっては、他人名義の預貯金口座を代金の振込先にするなど、組織防衛を図っていた。平成25年11月までに、同グループのメンバー及び同グループから覚醒剤を購入した密売人ら29人を覚せい剤取締法違反(営利目的譲渡)等で逮捕し、同構成員については、最終的に、より罰則の重い麻薬特例法(注)違反(業として行う譲渡)でも送致した(岡山、島根、兵庫、宮城、広島、三重)。

注:国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律

事例②

米国人の女(21)は、25年11月、南アフリカ共和国からアラブ首長国連邦、韓国を経由して福岡空港に到着した際、ブリーフケースの側面等に細工をして覚醒剤約2キログラムを隠匿していた。税関検査において覚醒剤が発見され、同人が報酬を得る目的で覚醒剤を日本国内へ持ち込もうとしていたことから、同人を覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)で逮捕した(福岡)。

 
覚醒剤を隠匿するため工作されたブリーフケース 工作されたブリーフケース内に隠匿された覚醒剤

 第1節 犯罪情勢と捜査上の課題

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