第4章 安全かつ快適な交通の確保 

2 交通安全教育と交通安全活動

(1)交通安全教育

① 交通安全教育指針

 国家公安委員会は、地方公共団体、民間団体等が効果的かつ適切に交通安全教育を行うことができるようにするとともに、都道府県公安委員会が行う交通安全教育の基準とするため、交通安全教育指針を作成し、公表している。この指針には、交通安全教育を行う者の基本的な心構えのほか、教育を受ける者の年齢、心身の発達段階や通行の態様に応じた体系的な交通安全教育の内容及び方法が示されている。
 警察では、関係機関・団体と協力しつつ、この指針を基準として、幼児から高齢者に至るまでの各年齢層を対象に交通社会の一員としての責任を自覚させるような交通安全教育を実施している。
 
図4-8 年齢層に応じた交通安全教育
図4-8 年齢層に応じた交通安全教育

② 事業所等における交通安全教育

 一定台数以上の自動車を使用する事業所等では、道路交通法の規定に基づき選任された安全運転管理者により、指針に従って適切に交通安全教育を実施することが義務付けられている。警察では、交通安全教育等が適切に実施されるよう、安全運転管理者等を対象とした講習を行うなど必要な指導を行っている。

(2)交通安全活動

 警察では、様々な形で関係機関・団体や交通ボランティア(地域交通安全活動推進委員(注1)、交通指導員(注2)等)等と連携し、国民的な交通安全意識の高揚に努めている。

注1:適正な交通の方法及び交通事故防止について住民の理解を深めるための住民に対する交通安全教育等の活動に従事している。
注2:学校における生徒に対する交通安全教育、通学路における交通誘導等の活動に従事している。

① 全国交通安全運動

 広く国民に交通安全思想の普及と浸透を図るとともに、交通ルールの遵守と正しい交通マナーの実践を習慣付けることにより、交通事故防止の徹底を図るため、毎年春と秋の2回実施している。期間中、国、地方公共団体や民間団体が相互に協力して幅広い国民運動を展開している。
 
交通安全パレード
交通安全パレード

② シートベルト・チャイルドシートの着用・使用の徹底

 平成23年10月に実施された全国調査(警察庁と一般社団法人日本自動車連盟(JAF)の合同調査)における運転者、助手席同乗者のシートベルト着用率は、一般道、高速道路とも90%を超えているものの、後部座席同乗者のシートベルト着用率は一般道で33.2%、高速道路で63.5%にとどまっており、警察では、交通指導取締りを実施することや、関係機関・団体と連携し、衝突実験映像や「シートベルトコンビンサー」を用いて着用効果を実感できる参加・体験・実践型の交通安全教育等を推進することにより、後部座席を始めとする全ての座席でのシートベルト着用の徹底を図っている。
 また、24年4月の調査で使用率が58.8%にとどまっているチャイルドシートについても、幼稚園や保育所における保護者等への広報、正しい取付方法の指導等により、その適正な使用の徹底を図るとともに、地方公共団体や民間団体に対して各種支援制度の充実を働きかけることによりチャイルドシートの普及を促進している。
 
シートベルトコンビンサー体験
シートベルトコンビンサー体験
 
チャイルドシートの取付け指導
チャイルドシートの取付け指導

③ 反射材用品等の普及促進等

 夜間における歩行者及び自転車利用者の交通事故防止に効果が高い反射材用品等の普及を図るため、各種広報媒体を活用した積極的な広報啓発活動を推進するとともに、視認効果、使用方法等について理解を深めるため、参加・体験・実践型の交通安全教育を実施したり、関係機関・団体と協力した反射材用品等の展示会を開催したりするなどしている。
 
反射材の貼付け活動
反射材の貼付け活動
 
反射材フェア
反射材フェア

④ その他の交通安全活動

 国民的な交通安全意識の高揚のため、警察では、関係機関・団体が行う交通安全キャンペーン等の広報啓発活動に協力するほか、地域ボランティア等による自主的な交通安全活動が効果的に行われるよう、その指導者を対象とする研修会の開催、交通事故実態に関する情報の提供等、各種の支援を行っている。
 このほか、図4-9の諸団体が交通安全を目的とした活動を展開している。
 
図4-9 諸団体の活動
図4-9 諸団体の活動

(3)高齢者の交通安全に向けた取組

① 高齢者が関係する交通事故の状況

 平成23年中の高齢者の交通事故死者数は2,262人で、10年連続で減少したが、交通事故死者数全体の半数近くを占めている。
 高齢者の死者数を状態別に見ると、歩行中が全体の半数近く(49.6%)を占め、次いで自動車乗車中(24.8%)、自転車乗用中(16.6%)の順に多い(第1節1参照)。
 また、交通事故死傷者数を年齢層別・被害程度別に見ると、高齢者の占める割合は、軽傷者では12.3%であるのに対して、重傷者では31.2%、死者では49.0%となっており、被害程度が深刻になるほど高齢者の占める割合が高くなっている。
 さらに、我が国の高齢者の人口10万人当たり30日以内死者数は9.36人で、全年齢の人口10万人当たり30日以内死者数(4.26人)の2倍を超えているが、この比率は欧米諸国と比較して高くなっており、また、今後我が国の高齢化は急速に進むことを踏まえると、高齢者の交通安全に向けた取組は重要な課題となっている。
 
図4-10 年齢層別死傷者の状況(構成率)(平成23年中)
図4-10 年齢層別死傷者の状況(構成率)(平成23年中)
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図4-11 人口10万人当たり30日以内死者数の欧米諸国との比較
図4-11 人口10万人当たり30日以内死者数の欧米諸国との比較
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② 高齢歩行者・自転車乗用者の事故防止対策

 高齢者の交通事故死者数のうち、歩行中・自転車乗用中の死者は約7割を占めているが、その約8割は運転免許を保有していなかった。
 警察では、運転免許を保有していない高齢者に交通安全教育を受ける機会を提供するため、民間ボランティアや関係機関等と協力して、家庭訪問による個別指導、病院や福祉施設等における広報啓発活動を行っている。
 また、各種教育用器材を積極的に活用した教育を行うなど、参加・体験・実践型の交通安全教育を実施している。
 
高齢者宅訪問による交通安全指導
高齢者宅訪問による交通安全指導

コラム① シミュレーターを活用した交通安全教育の推進


 高齢者に対する交通安全教育においては、加齢に伴う身体機能の変化が行動に及ぼす影響や交通ルールの遵守と正しい交通マナーを実践することの必要性への理解を促進することが重要であり、そのためには、実際の交通場面により近い状態で訓練を行うことが望ましい。
 この点で、安全に多様な交通場面を体験できること、また、天候に左右されないことなどから、シミュレーターを用いた交通安全教育が効果的であり、実際に、高齢者の移動手段に応じて自動車運転者用、自転車運転者用、歩行者用等のシミュレーターが、全国の交通安全教育の現場において活用されている。
 
自転車シミュレーター体験
自転車シミュレーター体験
 
自動車シミュレーター体験
自動車シミュレーター体験

 第2節 交通安全意識の醸成

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