第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

8 サイバー犯罪

(1)サイバー犯罪の情勢

 インターネットその他の高度情報通信ネットワークは、国民生活の利便性を向上させ、社会・経済の根幹を支えるインフラとして機能している。その一方で、サイバー犯罪(注1)はその深刻さを増している状況にある。

注1:高度情報通信ネットワークを利用した犯罪やコンピュータ又は電磁的記録を対象とした犯罪等の情報技術を利用した犯罪

① 検挙状況

 平成23年中のサイバー犯罪の検挙件数は5,741件と、前年より1,192件(17.2%)減少した。
 
表2-11 サイバー犯罪の検挙件数の推移(平成19~23年)
表2-11 サイバー犯罪の検挙件数の推移(平成19~23年)
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ア 不正アクセス禁止法違反
 23年中の不正アクセス行為の禁止等に関する法律(以下「不正アクセス禁止法」という。)違反の検挙件数は248件と、前年より1,353件(84.5%)減少した。その一方で、インターネットバンキングに係る不正アクセス行為が多発し、特に23年3月から同年12月にかけて35都道府県の56金融機関の165口座について、フィッシング(注2)や不正プログラムにより識別符号を入手したとみられる不正アクセス行為の被害に遭い、不正送金された総額が約3億円に上るなど、不正アクセス禁止法違反についての情勢は深刻な状況にある。

注2:(4)参照

イ コンピュータ・電磁的記録対象犯罪、不正指令電磁的記録に関する罪
 23年中の刑法に規定されているコンピュータ又は電磁的記録を対象とした犯罪及び不正指令電磁的記録に関する罪の検挙件数は105件と、前年より28件(21.1%)減少した。このうち、23年7月に新設された不正指令電磁的記録に関する罪の検挙件数は3件であった。

ウ ネットワーク利用犯罪
 23年中のネットワーク利用犯罪(注3)の検挙件数は5,388件と、前年より189件(3.6%)増加し、過去最多となった。特徴として、わいせつ物頒布等事犯の検挙件数が699件と、前年より481件(220.6%)増加する一方、ネットワーク利用詐欺の検挙件数は899件と、前年より667件(42.6%)減少した。

注3:その実行に不可欠な手段として高度情報通信ネットワークを利用する犯罪

② インターネット上の違法情報・有害情報

 インターネット・ホットラインセンター((3)①参照)に通報される情報のうち、23年中に違法情報・有害情報(注4)に該当するとされた件数は4万1,400件と、前年より3,283件(7.3%)減少している。また、23年中の違法情報の内訳としては、わいせつ物公然陳列に関する情報が56.8%とその多数を占めている状況にある。

注4:違法情報とは、児童ポルノ画像、わいせつ画像、覚醒剤等規制薬物の販売に関する情報等、インターネット上に掲載すること自体が違法となる情報をいう。有害情報とは、違法情報には該当しないが、犯罪や事件を誘発するなど公共の安全と秩序の観点から放置することのできない情報をいう。

③ コミュニティサイト等の利用に起因する事犯

 23年中にコミュニティサイト(注1)の利用に起因する事件(注2)の被害に遭った児童(18歳未満の者をいう。以下同じ。)は、1,085人と、前年より154人(12.4%)減少した。また、出会い系サイト(注3)の利用に起因する事件の被害に遭った児童は、23年中は282人と、前年より28人(11.0%)増加した。

注1:SNS、プロフィールサイト等、ウェブサイト内で多人数とコミュニケーションがとれるウェブサイトのうち、出会い系サイトを除いたものの総称
注2:児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童買春・児童ポルノ禁止法」という。)違反、児童福祉法違反、青少年保護育成条例違反及び重要犯罪(第1章第1節1(3)参照)に係る事件
注3:インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律(以下「出会い系サイト規制法」という。)第2条第2号に規定されている役務(面識のない異性との交際(以下「異性交際」という。)を希望する者(以下「異性交際希望者」という。)の求めに応じ、その異性交際に関する情報をインターネットを利用して公衆が閲覧することができる状態に置いてこれに伝達し、かつ、当該情報の伝達を受けた異性交際希望者が電子メールその他の電気通信を利用して当該情報に係る異性交際希望者と相互に連絡することができるようにする役務)を提供するウェブサイト
 
図2-26 コミュニティサイト及び出会い系サイトの利用に起因する検挙件数及び児童被害の推移(平成19~23年)
図2-26 コミュニティサイト及び出会い系サイトの利用に起因する検挙件数及び児童被害の推移(平成19~23年)
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④ サイバー犯罪等に関する相談受理状況

 23年中の都道府県警察におけるサイバー犯罪等に関する相談の受理件数は80,273件と、前年より4,463件(5.9%)増加した。特に、詐欺・悪質商法に係る相談件数が32,892件と、前年より1,559件(5.0%)増加した。

(2)サイバー犯罪に対処するための体制整備等

① サイバー空間の脅威に対する総合対策

 警察庁では、平成23年10月、サイバー空間の脅威に対する社会全体の対処能力の強化を促進するため、社会全体でサイバー空間の脅威に立ち向かう気運の醸成、警察における捜査体制強化・捜査環境整備、外国捜査機関等との連携強化を基本方針とした「サイバー空間の脅威に対する総合対策推進要綱」を策定し、警察組織の総合力を発揮した効果的な対策を推進している。

② 体制整備

 サイバー犯罪に適切に対処するためには、十分な捜査体制の整備や捜査員の専門的な知識・技術の向上により捜査能力の向上を図るとともに、容易に都道府県境を越えて行われるサイバー犯罪の捜査を効率的に推進する必要がある。
 そこで、「全国協働捜査方式」((3)②参照)の導入や24年度予算において地方警察官308人を増員するなどして捜査体制の強化を図っているほか、サイバー犯罪捜査に従事する警察官に対する研修を行ったり、民間企業でシステム・エンジニアとして勤務していた者等をサイバー犯罪捜査官として採用したりするなどにより捜査能力の向上を図っている。

③ 国際的なサイバー犯罪捜査協力の推進

 国境を越えて行われるサイバー犯罪に関し、国内における捜査で犯人を特定できないときは、外国捜査機関の協力を求める必要がある。警察庁では、国際刑事警察機構(ICPO-Interpol)等の国際捜査共助の枠組みを活用し、国境を越えて行われるサイバー犯罪に対処するとともに、G8ローマ/リヨン・グループに置かれたハイテク犯罪サブグループ等との協議を通じ、国際的なサイバー犯罪対策プロジェクトの実施や外国捜査機関職員との協力関係の確立等に積極的に取り組んでいる。

④ サイバー犯罪等の抑止に向けた取組

ア 広報啓発活動
 警察では、情報セキュリティに関する国民の知識やサイバー空間における規範意識の向上を図るため、警察やプロバイダ連絡協議会(注1)等が主催する研修会等の機会を利用して情報セキュリティ・アドバイザーが講演等を行うほか、警察庁ウェブサイト(http://www.npa.go.jp/cyber/)、広報啓発用パンフレット、情報セキュリティ対策DVD等により、サイバー犯罪の手口やインターネット上の違法情報・有害情報の現状、対策等について周知を図っている。

注1:都道府県警察ではプロバイダ、関係機関、消費者団体等で構成されるプロバイダ連絡協議会を設置し、サイバー犯罪の情勢や手口、サイバー犯罪被害防止等に関する情報交換を行っているほか、講習会等の実施、一般向け広報資料の作成等を行っている。

イ 民間企業等との連携
 警察庁では、13年度から、総合セキュリティ対策会議(注2)を開催しており、23年度においては、「サイバー犯罪捜査における事後追跡可能性の確保について」をテーマに、データ通信カード・無線LAN、インターネットカフェ及びインターネット上の高度匿名化技術について検討を行い、24年3月に報告書に取りまとめた。同報告書を受け、事業者等と連携の上、サイバー犯罪捜査における事後追跡可能性の確保を図っていくこととしている。

注2:有識者、関連事業者、PTAの代表者等で構成し、情報セキュリティに関する産業界と政府の連携の在り方について検討している。

(3)インターネット上の違法情報・有害情報対策

① インターネット・ホットラインセンターにおける取組

 警察庁では、一般のインターネット利用者からの違法情報・有害情報に関する通報を受理し、違法情報の警察への通報や違法情報・有害情報に係るサイト管理者等への削除依頼を行うインターネット・ホットラインセンター(以下「IHC」という。)の運用を18年6月から開始した。
 23年中にIHCがサイト管理者等に対して削除依頼を行った違法情報1万4,924件のうち9,543件、有害情報913件のうち447件が削除されており、違法情報の削除率は63.9%、有害情報の削除率は49.0%であった。
 
図2-27 インターネット・ホットラインセンターにおける取組
図2-27 インターネット・ホットラインセンターにおける取組

② 違法情報・有害情報の把握及び取締り

 警察では、IHCからの通報等により、違法情報・有害情報の把握に努めるとともに、「全国協働捜査方式」(注3)の活用等により、効率的な違法情報の取締り及び有害情報を端緒とした取締りを推進しており、23年中のIHCからの通報を端緒とした検挙件数は1,599件と、前年より1,194件(294.8%)増加した。
 また、違法情報については、違法情報の書き込みを行っている者だけでなく、合理的な理由もなく違法情報の削除依頼に応じない悪質なサイト管理者等についても取締りを推進している。

注3:IHCから警察庁に対して通報される違法情報・有害情報について効率的な捜査を進めるため、違法情報・有害情報の発信元を割り出すための初期捜査を警視庁が一元的に行い、捜査すべき都道府県警察を警察庁が調整する捜査方式であり、違法情報については平成23年7月から、有害情報については24年4月から本格実施されている。

(4)不正アクセス対策

① 官民ボードの設置及び不正アクセス防止対策に関する行動計画の策定

 平成23年6月、警察庁、総務省及び経済産業省が主体となって、民間事業者等と共に不正アクセス防止対策に関する官民意見集約委員会(官民ボード)を設置し、官民一体となって不正アクセス防止対策として講ずべき措置について意見集約を行い、同年12月、「不正アクセス防止対策に関する行動計画」を取りまとめた。同計画に基づき、不正アクセス行為の発生件数等の実態を的確に把握した上で、効果的な広報啓発活動や的確な取締り、防御措置の実施を通じて、不正アクセスを防止するため官民連携した取組を実施している。

② 不正アクセス禁止法の改正

ア 改正の背景
 最近のサイバー犯罪の情勢は、インターネットバンキングに係る不正送金事案、大手防衛産業関連企業や衆・参両院に対するサイバー攻撃等の重大事件が発生するなど、サイバー犯罪の危険性が急速に増大していることから、その対策の根幹として不正アクセス防止対策を強化することが喫緊の課題となっていた。

イ 改正内容
 不正アクセス行為の禁止の実効性を確保するため、
 ① フィッシング行為(注)の禁止
 ② 他人の識別符号を提供する行為についての規制の強化
 ③ 他人の識別符号を不正に取得・保管する行為の禁止
 ④ 不正アクセス行為をした者に係る罰則の法定刑の引き上げ
等の不正アクセス行為につながる一連の行為に対する規制を強化するほか、不正アクセス行為の防止を図るための取組を向上させるため、アクセス管理者による防御措置を支援する団体に対する新たな援助規定を定めた不正アクセス禁止法の一部を改正する法律が24年3月、第180回国会において成立し、同年5月1日から施行された。
 警察庁では、都道府県警察に対して改正趣旨を通知するとともに、フィッシング行為等の効果的取締りに係る指導を行うなどしているほか、不正アクセス行為に対する防御措置の向上を図るため、アクセス管理者による防御措置を支援する団体に対し情報提供等の援助を行うこととしている。

注:アクセス管理者になりすまし、その他アクセス管理者であると誤認させて、アクセス管理者が利用権者に対し識別符号を特定電子計算機に入力することを求める旨の情報を、インターネット等を利用して公衆が閲覧することができる状態に置く行為又はアクセス管理者が利用権者に対し識別符号を特定電子計算機に入力することを求める旨の情報を、電子メールにより利用権者に送信する行為をいう。
 
図2-28 不正アクセス禁止法改正により新設された規制
図2-28 不正アクセス禁止法改正により新設された規制

 第1節 犯罪情勢とその対策

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