第5章 公安委員会制度と警察活動の支え

4 警察における被害者支援

(1)基本施策

被害者及びその遺族又は家族は、犯罪によって直接、身体的、精神的又は経済的な被害を受けるだけでなく、様々な二次的被害を受ける場合がある。そこで、警察では、次のとおり、様々な側面から被害者支援の充実を図っている。また、各都道府県警察において、捜査員以外の職員が、被害者への付添い、刑事手続の説明等、事件発生直後に被害者支援を行う指定被害者支援要員制度(注1)が導入されている。

図5―28 被害者支援に係る基本施策

注1:平成22年末現在の要員総数31,187人

コラム〔4〕 第2次犯罪被害者等基本計画

犯罪被害者等基本法に基づき、総合的かつ長期的に講ずべき犯罪被害者等のための施策の大綱等を盛り込んだ犯罪被害者等基本計画が平成17年に策定され、平成22年度末に計画期間が満了したため、23年4月1日から27年度末までの5か年を計画期間とした第2次犯罪被害者等基本計画(以下「第2次基本計画」という)が策定された。

第2次基本計画においては、犯罪被害者等基本法第2章に掲げられた施策を分野別に整理して選定した5つの重点課題ごとに、今後実施していくべき施策について取りまとめている。犯罪被害給付制度の拡充及び新たな補償制度の創設、カウンセリング等心理療法の費用の公費負担については、有識者等による検討会が設置され、警察庁も検討に参画している。また、警察庁では性犯罪被害者支援の充実(カウンセリングの充実・ワンストップ支援センター(注2)の設置促進等)についても関係省庁と連携を図りながら、取り組むこととしている。

注2:医師による心身の治療、医療従事者・民間支援員・弁護士・臨床心理士等による支援、警察官による事情聴取等の実施が可能なセンター

(2)被害者支援連絡協議会の活動

被害者が支援を必要とする事柄は、生活、医療、公判等多岐にわたるため、警察のほか、検察庁、弁護士会、医師会、臨床心理士会、地方公共団体の担当部局や相談機関等から成る「被害者支援連絡協議会」が、全都道府県で設立されている。このほか、警察署の管轄区域等を単位とした被害者支援のための連携の枠組みが各地に構築され、よりきめ細かな被害者支援が行われている。

(3)民間の被害者支援団体との連携

全国被害者支援ネットワークに加盟する民間の被害者支援団体は、平成23年4月1日現在、全都道府県に存在している。これらの団体は、電話又は面接による相談、裁判所へ赴く際の付添い等の直接支援、相談員の養成及び研修、自助グループ(遺族の会等)への支援、広報啓発等を行っており、警察では、団体の設立・運営を支援している。また、都道府県公安委員会は、犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律に基づき、犯罪被害等の早期の軽減に資する事業を適正かつ確実に実施できる団体を犯罪被害者等早期援助団体として指定しており、同日現在、全国で39団体が指定されている。

(4)犯罪被害給付制度

犯罪被害給付制度は、通り魔殺人等の故意の犯罪行為により不慮の死亡、重傷病又は障害という重大な被害を受けたにもかかわらず、公的救済や損害賠償を得られない被害者等に対し、国が一定の給付金を支給するものである。この制度は、昭和56年1月に開始して以来、犯罪被害等の早期の軽減に重要な役割を果たしている。

図5―29 犯罪被害者等給付金

表5―7 犯罪被害給付制度の運用状況

コラム〔5〕 犯罪被害給付制度のあゆみ

犯罪被害給付制度は、通り魔殺人等の故意の犯罪行為により不慮の死亡、重傷病又は障害という重大な被害を受けたにもかかわらず、公的救済や損害賠償を得られない被害者等に対し、国が一定の給付金を支給するものである。この制度は56年1月の犯罪被害者等給付金支給法の施行により開始され、平成23年で同制度が開始されてから30年となる。この間、犯罪被害給付制度を始めとする犯罪被害者に対する支援の拡充を求める社会的機運の高まりに応じて、13年には、支給の対象が死亡と重度後遺障害から後遺障害全てに拡大されるとともに、重傷病が追加され、18年には、重傷病給付金について、支給要件が緩和された。また、20年には、有識者及び関係省庁により構成された「経済的支援に関する検討会」による提言を踏まえ、重度後遺障害者や遺族に対する給付金の抜本的な引上げを行うとともに、重傷病の療養のため休業した場合に、休業損害を考慮した額が加算されることとなり、21年には、配偶者からの暴力などの被害者に対する救済を強化するなどの改正がなされた。

(5)被害者の特性に応じた施策

犯罪類型等によって犯罪被害者には異なった特性があることから、警察では、性犯罪の被害者、交通事故事件の被害者、配偶者からの暴力事案の被害者(1章3節2項(2)参照)、ストーカー事案の被害者(1章3節2項(1)参照)、少年の被害者(1章3節1項(5)参照)、暴力団犯罪被害者(2章参照)等について、被害者の特性に応じた施策を推進している。

図5―30 被害者の特性に応じた施策の例

コラム〔6〕 性犯罪被害者対応拠点モデル事業

強姦、強制わいせつ等の性犯罪被害者は、羞恥心や自責の念が極めて強く、警察に被害相談すること自体が非常に難しいものである。従来、警察では、相談体制の充実、女性警察官による事情聴取の拡大等を実施してきたところであるが、それでもなお、被害申告をためらう性犯罪被害者も多く存在するとみられる。

そこで、性犯罪被害の潜在化を防止し、捜査の的確な推進を図るため、性犯罪被害者に対する治療、カウンセリング等の各種支援や迅速な事情聴取、証拠資料の採取等の捜査を一つの場所で一度に行う性犯罪被害者対応拠点「ハートフルステーション・あいち」をモデル事業として、平成22年7月に開設した。今後は、ワンストップ支援センターを設置する際に参考とすることができるよう同モデル事業の検証を行うこととしている。また、22年4月には、大阪府の民間病院において、民間ベースの性暴力救援センター・大阪(通称SACHICO)が開設され、被害者の心身の回復を図っているところである。なお、内閣府において「ワンストップ支援センターの開設・運営の手引(仮称)」が作成される見込みである。


第3節 国民の信頼に応える警察

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