第4節 災害等への対処と警備実施
1 自然災害等への対処
(1)自然災害の発生状況と警察活動
平成21年中は、大雨、台風、地震、強風及び高潮により、死者・行方不明者77人、負傷者665人等の被害が発生した(22年4月30日現在)。17年から21年にかけての自然災害による主な被害状況は、表4-5のとおりである。
表4-5 自然災害による主な被害状況の推移(平成17~21年。22年4月30日現在)
〔1〕 大雨及び台風
21年中は、「平成21年7月中国・九州北部豪雨」のほか、22個の台風が発生した。このうち1個が日本に上陸し、また、8月に大きな被害をもたらした台風第9号を含む7個が日本に接近した。これらの大雨、台風等の風水害により、死者74人、行方不明者2人等の被害が発生した(22年4月30日現在)。
ア 平成21年7月中国・九州北部豪雨
21年7月19日から21日にかけて、山陰沖から近畿地方を通って東海地方に延びる梅雨前線の活発化により、九州北部、中国及び四国地方において局地的に激しい雨が降り、特に、中国地方では、この3日間の総雨量が所により300ミリを超える大雨となった。また、24日から26日にかけて、九州北部地方から山陰、北陸地方を通って東北地方に延びる梅雨前線の活発化により、九州北部地方で、この3日間の総雨量が多い所で600ミリを超えるなど、局地的に猛烈な雨を観測した。これらの大雨により、死者36人、負傷者62人等の被害が発生した(22年4月30日現在)。
山口県警察、福岡県警察を始めとする関係県警察では、 警察本部長を長とする災害警備本部等を設置し、被害情報の収集、被災者の救出救助、行方不明者の捜索等の活動を実施した。警察庁及び関係管区警察局では、災害情報連絡室等を設置し、必要な措置を講じた。また、山口県内で大規模な土砂災害が発生したことから、山口県公安委員会からの援助の要求を受け、広島、岡山、香川の各県警察は、広域緊急援助隊(延べ約350人)の派遣を行った。
中国・九州北部豪雨に伴い救出救助に当たる広域緊急援助隊
中国・九州北部豪雨に伴い捜索活動に当たる広域緊急援助隊
イ 台風第9号
21年8月9日に熱帯低気圧から台風に変わり日本の南を東進した台風第9号により、中国、四国地方から東北地方にかけて、8日午後3時から11日午後3時までの総雨量が多い所で750ミリを超える大雨を観測した。この熱帯低気圧及び台風により、死者25人、行方不明者2人、負傷者24人等の被害が発生した(22年4月30日現在)。
兵庫県警察を始めとする関係都府県警察では、本部長を長とする災害警備本部等を設置し、被害情報の収集、被災者の救出救助、行方不明者の捜索等の活動を実施した。警察庁及び関係管区警察局では、災害情報連絡室等を設置し、必要な措置を講じた。
台風第9号に伴い捜索活動に当たる兵庫県機動隊
〔2〕 地震
21年8月11日午前5時7分ころ、駿河湾を震源とするマグニチュード6.5の地震が発生し、静岡県伊豆市、焼津市、牧之原市、御前崎市で震度6弱を観測した。この地震により、死者1人、負傷者319人等の被害が発生した(22年4月30日現在)。
静岡県警察を始めとする関係都県警察では、本部長等を長とする災害警備本部等を設置し、被害情報の収集、交通対策等の活動を実施した。警察庁では、警備局長を長とする災害警備本部を、関係管区警察局では災害対策本部等を設置し、必要な措置を講じた。また、静岡県公安委員会からの援助の要求を受け、長野、愛知、山梨の各県警察は、ヘリコプターを派遣した。
(2)広域緊急援助隊特別救助班の活動
警察では、平成17年4月に、12都道府県警察(注1)の広域緊急援助隊に、極めて高度な救出救助能力を持つ特別救助班(P-REX)(注2)を設置した。
特別救助班は、「平成21年7月中国・九州北部豪雨」の被災地に出動したほか、これまでに、17年のJR西日本福知山線列車事故や、19年の新潟県中越沖地震、20年の岩手・宮城内陸地震等の災害現場において、被災者の救出救助に当たっている。
特別救助班は、廃屋等を利用した訓練や関係機関との合同訓練等を行い、救出救助能力の向上に努めている。
また、救出救助活動を安全かつ迅速に実施するためには、部隊指揮官の指揮能力が重要であることから、部隊指揮要領の実戦的訓練や、各種災害現場についての事例研究等を実施するなど、指揮官の指揮能力の向上を図っている。
図4-15 特別救助班(P-REX)の設置
廃屋を利用して救出救助訓練を行う特別救助班
(3)武力攻撃事態等への対処
〔1〕 武力攻撃事態等における国民保護措置等
警察では、武力攻撃事態(注1)及び武力攻撃予測事態(注2)(以下「武力攻撃事態等」という。)並びに緊急対処事態(注3)において、武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(以下「国民保護法」という。)に基づき、国家公安委員会・警察庁国民保護計画に定める国民の保護のための措置等(以下「国民保護措置等」という。)を実施することとしている。
都道府県警察では、国民保護法に基づく都道府県及び市町村の国民保護計画や市町村における避難実施要領のパターンの作成・変更作業に積極的に参画している。
図4-16 警察が行う主な国民保護措置等
〔2〕 国民保護訓練への参加
警察では、武力攻撃事態等及び緊急対処事態において、国民保護措置等を迅速かつ的確に実施できるよう、国民保護法に基づいて行われる訓練(以下「国民保護訓練」という。)に積極的に参加している。平成21年11月の兵庫県国民保護共同実動訓練を始めとする内閣官房や各都道府県等が主催する国民保護訓練に参加し、住民の避難、被災情報の収集・提供、被災者の捜索・救出等の訓練を実施した。
警察では、こうした訓練への参加を通じて関係機関との連携強化に努めるとともに、武力攻撃事態等及び緊急対処事態における被災情報等の収集、住民の避難要領等について習熟するよう努めている。
(4)新型インフルエンザ対策
新型インフルエンザへの対応は、国内外における緊急の課題となっており、政府は、平成17年12月に「新型インフルエンザ対策行動計画」を策定するなど、新型インフルエンザ対策を進めている。
警察庁においても、20年4月に「警察庁新型インフルエンザ対策委員会」を設置し、同年9月に「警察庁新型インフルエンザ対策行動計画」を策定したほか、21年12月に、新型インフルエンザ発生時においても警察庁がその機能を維持するために必要な事項を定めた「警察庁新型インフルエンザ対応業務継続計画」を策定した。
また、同年4月以降、新型インフルエンザ(A/H1N1)が国内外で発生したことに伴い、警察では、同行動計画、各都道府県警察において策定した新型インフルエンザ対策行動計画等に即して、関係機関と連携し、国際空港等における警戒活動を強化するなど水際対策の支援を行ったほか、混乱に乗じた犯罪の取締り等の社会秩序の維持を始めとする諸対策を実施している。