第2章 組織犯罪対策の推進 

第3節 犯罪収益対策

1 犯罪収益移転防止法に基づく活動

 暴力団等の犯罪組織が蓄えた犯罪収益は、新たな犯罪のための「運転資金」や武器の調達等のための費用等に充てられ、犯罪組織を維持・強化するとともに、組織的な犯罪を助長していることから、犯罪組織を弱体化させ、壊滅に追い込むために、犯罪収益の移転を防止するとともに、これを確実にはく奪することが重要である。警察では、犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯罪収益移転防止法」という。)に基づき、関係機関、事業者、外国関係機関等と協力して犯罪収益対策を推進している。

(1)犯罪収益移転防止法の適切な履行を確保するための措置
 犯罪収益対策を効果的に推進するためには、犯罪収益移転防止法に基づき、特定事業者(注1)により顧客等の本人確認、取引記録等の作成・保存及び疑わしい取引の届出等の措置が適切に履行されることが重要である。このため、国家公安委員会・警察庁は、関係機関と連携して、特定事業者を対象とした各種研修会、ウェブサイト等を利用して犯罪収益移転防止法に対する理解と協力の促進に努めている。また、国家公安委員会・警察庁は、特定事業者が顧客等の本人確認義務等に違反していると認めたときは、犯罪収益移転防止法に基づき、当該特定事業者を所管する行政庁に対して、是正命令等を行うべき旨の意見を述べることができるものとされており、平成21年中は9件の意見陳述を行った。

注1:犯罪収益移転防止法第2条第2項で規定されている事業者


(2)疑わしい取引の届出
 犯罪収益移転防止法に定める疑わしい取引の届出制度により事業者がそれぞれの所管行政庁に届け出た情報は、国家公安委員会・警察庁が集約して整理・分析を行った後、都道府県警察、検察庁を始めとする捜査機関等に提供し、各捜査機関等においては、マネー・ローンダリング事犯の捜査等に活用している。警察において、平成21年中に疑わしい取引に関する情報を端緒として検挙した事件数は337事件と、前年より162事件(92.6%)増加した。このうち、265事件は詐欺事件で、全体の78.6%を占めた。また、21年中に疑わしい取引に関する情報を端緒としてマネー・ローンダリング事犯の検挙に至った事件数は9事件であった。
 国家公安委員会・警察庁は、届け出られた情報を総合的に分析し、各捜査機関等と緊密に連携しつつ、暴力団等の反社会的勢力が関係する資金の動きの把握に努めているほか、海外送金に関する情報等について、外国のFIU(注2)と情報交換を行い、国際的な犯罪収益の移転状況の解明に努めている。

注2:Financial Intelligence Unitの略。資金情報機関と呼ばれ、疑わしい取引に関する情報を集約・分析して捜査機関等に提供する機関として各国が設置している。日本のFIUは、JAFIC(Japan Financial Intelligence Center)と呼ばれ、国家公安委員会・警察庁が担当している。

 
図2-14 疑わしい取引の届出状況の推移(平成17~21年)
図2-14 疑わしい取引の届出状況の推移(平成17~21年)
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 第3節 犯罪収益対策

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