特集:変革を続ける刑事警察 

3 捜査負担の増加

 犯罪捜査を取り巻く環境が厳しさを増すと同時に、捜査事項の増加等も警察捜査の負担を増加させている。

(1)捜査事項の増加
 捜査を取り巻く環境が大きく変化する中、捜査のち密化や犯罪の組織化・複雑化等により、捜査事項が増加している。
〔1〕 令状発付状況
 裁判所における各種令状の発付状況の推移は、図23のとおりである。逮捕状の発付数がほぼ横ばいで推移しているのに対し、捜索、差押え及び検証許可状の発付数は増加傾向にある。これは、捜査において物証を得るために、幅広く捜索差押え等を実施する必要性が高まっていることを示していると考えられる。
 
 図-23 令状の種類別発付数の推移
図-23 令状の種類別発付数の推移

〔2〕 捜査関係事項照会(注)の照会書発出状況
 犯罪の組織化・複雑化等により、捜査すべき関係先が増加している。ある都道府県警察の本部において振り込め詐欺(恐喝)等の捜査を担当している課における捜査関係事項照会の照会書発出件数(概数)は、図24のとおり、大幅な増加傾向にある。これは、捜査において、犯行に供用された携帯電話や預貯金口座の契約者照会等の実施件数が増加していることや、個人情報の保護の要請から従来は口頭で協力を得られていたものについても文書による照会を求められることが多いことを示していると考えられる。

注:刑事訴訟法第197条第2項に基づく公務所又は公私の団体に対して必要な事項について報告を求める照会

 
 図-24 捜査関係事項照会書発出件数(概数)の推移(ある都道府県警察の捜査主管課に関するデータ)
図-24 捜査関係事項照会書発出件数(概数)の推移(ある都道府県警察の捜査主管課に関するデータ)

〔3〕 電磁的記録の解析等の技術支援実施状況
 携帯電話、コンピュータ等の電子機器は、その普及に伴い、犯罪に悪用される例が増加している。電子機器を押収した場合には、保存されている電磁的記録の解析等の技術支援を要請することが捜査上不可欠であり、各都道府県(方面)情報通信部情報技術解析課が実施した技術支援の件数は、図25のとおり、大幅な増加傾向にある。
 
 図-25 技術支援件数
図-25 技術支援件数

〔4〕 刑事警察官の実感
 刑事警察官に対するアンケートによると、82.7%の刑事警察官が、捜査事項が増加していると感じると回答しており、その具体的理由として、「各種照会・差押え、電磁的記録の解析等の捜査が増加している」(82.6%)、「捜査のち密化で捜査書類を詳細に作成する傾向にある」(42.4%)等と回答している。
 
 図-26 捜査事項が増加していると感じるか
図-26 捜査事項が増加していると感じるか
 
 図-27 捜査事項が増加していると感じる理由
図-27 捜査事項が増加していると感じる理由

(2)暴力団犯罪・来日外国人犯罪捜査の困難性
 暴力団犯罪及び来日外国人犯罪の捜査にはそれぞれ特有の困難があるが、近年では、暴力団の経済活動への進出や、来日外国人犯罪の組織化の進展により、その捜査は一層困難なものとなっている。
〔1〕 暴力団犯罪捜査の困難性
 暴力団犯罪の捜査は、犯人の検挙のみならず、組織の資金源、上位者の関与等の組織実態の解明が課題となる。最近では、暴力団が企業活動を仮装・悪用したり、証券取引に進出するなどして我が国の社会経済の一角に入り込み、不透明な資金獲得活動を行う傾向が見られるほか、資金に窮した暴力団の中には、資金を獲得するために強盗や窃盗を敢行する者が存在し、外国人犯罪者と連携する者もある。また、表面的には暴力団との関係を隠しながら、暴力団の威力、情報力、資金力等を利用するなどして自らの利益拡大を図る者もある。暴力団やこれと共生する者に対しては、聞き込み等従来型の捜査手法の活用が困難となってきている。
 都道府県警察の本部暴力団犯罪捜査担当課及び来日外国人犯罪捜査担当課の刑事警察官に対して実施した調査(以下「暴力団犯罪・来日外国人犯罪に関するアンケート」という。)(注)によると、93.0%の暴力団犯罪捜査担当課の刑事警察官が、暴力団犯罪捜査は困難であると感じると回答しており、具体的理由としては、「犯罪が潜在化しがちで事件の端緒をつかむのが困難である」(65.3%)、「活動実態が不透明化し、上位者の関与等の実態解明が困難である」(61.0%)、「犯罪手口の多様化・高度化で捜査内容が複雑化している」(50.7%)等と回答している。

注:警察庁では、暴力団犯罪捜査・来日外国人犯罪捜査に従事している刑事警察官が、日ごろ感じている負担や課題等を把握するため、20年1月、都道府県警察の本部暴力団犯罪捜査担当課及び来日外国人犯罪捜査担当課を選定し、警部以下の捜査員約1,800人を対象として、「暴力団犯罪・来日外国人犯罪捜査の困難性等に関する調査」と題するアンケート調査を実施した。

 
 図-28 暴力団犯罪捜査は困難であると感じるか
図-28 暴力団犯罪捜査は困難であると感じるか
 
 図-29 暴力団犯罪捜査が困難であると感じる理由
図-29 暴力団犯罪捜査が困難であると感じる理由

〔2〕 来日外国人犯罪捜査の困難性
 来日外国人犯罪の捜査は、言語、習慣等を異にする外国人の被疑者や参考人を相手とすることから、日本人のみを関係者とする犯罪の捜査とは異なる困難を伴う。また、日本国内で犯罪を行い、国外に逃亡している者及びそのおそれのある外国人の数も年々増加傾向にある。
 被疑者が国外に逃亡することにより、証拠物や被疑者の身柄等を確保するために、外国捜査機関との捜査協力が必要となるが、外国によっては十分な協力が得られないこともあるなど、国内捜査と比べて時間と労力が必要となる場合が多い。さらに、近年、来日外国人犯罪の組織化の傾向がうかがえること(参照)や、本人確認書類の偽変造等により被疑者の氏名や居住地の把握が困難となるなど、来日外国人犯罪の捜査は一層困難なものとなっている。
 暴力団犯罪・来日外国人犯罪捜査に関するアンケートによると、93.8%の来日外国人犯罪捜査担当課の刑事警察官が、来日外国人犯罪捜査は困難であると回答しており、具体的理由としては、「活動実態が不透明化し、上位者の関与等の実体解明が困難である」(55.1%)、「被疑者が国外に逃亡することが多く、被疑者の追跡が困難である」(54.7%)、「組織化・広域化で大規模な捜査体制を敷く必要がある」(50.6%)等と回答している。
 
 図-30 来日外国人犯罪捜査は困難であると感じるか
図-30 来日外国人犯罪捜査は困難であると感じるか
 
 図-31 来日外国人犯罪捜査が困難であると感じる具体的理由
図-31 来日外国人犯罪捜査が困難であると感じる具体的理由

 第2節 警察捜査を取り巻く状況

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