第4章 公安の維持と災害対策 

第2節 国際テロ情勢

(1)イスラム過激派等
 2001年(平成13年)9月11日の米国における同時多発テロ事件以降、世界各国でテロ対策が強化されているにもかかわらず、イスラム過激派によるテロの脅威は依然として高い状況にある。中でも、「アル・カーイダ」は、オサマ・ビンラディンの約3年振りとなるビデオ声明等を通じて米国を批判し、ジハード(聖戦)への参加を呼び掛けるなど、米国に対するジハードの象徴的存在として、世界のイスラム過激派を惹き付けている。また、「アル・カーイダ」を始めとするイスラム過激派組織及びその支援者は、インターネット等を効果的に活用して、過激思想を広めるとともに、構成員を勧誘するなどしているとみられる。これらの影響を受け、最近では、「アル・カーイダ」の中核(指導部)と直接の関係を有しない組織等がテロの敢行を企図する傾向が世界各地でみられる。特に、欧米等の非イスラム諸国で生まれ又は育ちながら、何らかの影響で過激化し、自らが居住する国やイスラム過激派が標的とする諸国の権益をねらってテロを敢行する、いわゆるホームグローン・テロリスト(国内育ちのテロリスト)の危険性が各国で認識されている。ホームグローン・テロリストによって引き起こされたテロ事件の例として、2005年(17年)7月の英国・ロンドンにおける同時多発テロ事件が挙げられる。
 
 アルジェリア・アルジェにおける国連難民高等弁務官事務所等に対する同時爆弾テロ事件(時事)
アルジェリア・アルジェにおける国連難民高等弁務官事務所等に対する同時爆弾テロ事件(時事)
 
 表4-1 2007年(19年)に発生した主な国際テロ事件
表4-1 2007年(19年)に発生した主な国際テロ事件

(2)我が国に対するテロの脅威
 我が国は「アル・カーイダ」からテロの標的として名指しされ、過去に「アル・カーイダ」の関係者が不法に入出国していたことが確認されるなどしており、我が国は、国内における大規模・無差別テロ、海外における我が国の権益や邦人に対するテロの脅威に直面している。
 
 図4-2 我が国に対するテロの脅威
図4-2 我が国に対するテロの脅威

(3)日本赤軍と「よど号」グループ
〔1〕 日本赤軍
 最高幹部・重信房子は、ハーグ事件(注1)等により起訴され公判中(注2)の平成13年4月、獄中から日本赤軍の解散を宣言し、日本赤軍もこれを追認した。しかし、同年12月には日本赤軍の継承組織が活動を開始するなど、テロ組織としての危険性に変化はない。
 警察は、国内外の関係機関との連携を強化し、国際手配中の7人の構成員の検挙及び組織の活動実態の解明に向けた取組みを推進している。
 
日本赤軍メンバー

〔2〕 「よど号」グループ
 1970年(昭和45年)3月31日、田宮高麿ら9人が、東京発福岡行き日本航空351便、通称「よど号」をハイジャックし、北朝鮮に入境した。現在、ハイジャックに関与した被疑者5人及びその妻子4人が北朝鮮にとどまっているとみられており(注3)、そのうち3人に対し、日本人を拉致した容疑で逮捕状が発せられている。
 また、「よど号」犯人の妻らについては、これまでに帰国した5人を旅券法違反(返納命令)等で逮捕し、いずれも有罪が確定している。その子女については、これまでに19人が帰国している。
 警察では、「よど号」犯人らを国際手配し、外務省を通じて北朝鮮に対して身柄の引渡し要求を行うとともに、「よど号」グループの活動実態の全容解明に努めている。

注1:1974年(昭和49年)9月、奥平純三ら3人が、オランダ・ハーグ所在のフランス大使館を占拠し、大使ら11人を人質として監禁した事件
 2:18年2月、東京地方裁判所で懲役20年の判決を受け、同年3月、弁護側、検察側双方が東京高等裁判所に控訴していたが、19年12月、これらが棄却されたため、20年1月、弁護側が最高裁判所に上告した。
 3:ハイジャックに関与した被疑者1人及び妻1人は死亡したとされているが、真偽は確認できていない。

 
よど号メンバー

(4)北朝鮮
〔1〕 北朝鮮による拉致容疑事案
 警察では、これまでに北朝鮮による拉致容疑事案と判断してきた事案以外にも、拉致の可能性を排除できない事案があるとの認識の下、所要の捜査や調査を進めており、平成18年11月には、昭和52年10月に鳥取県米子市内の女性が失踪した事案、平成19年4月には、昭和49年6月に福井県小浜市の海岸から、朝鮮籍の幼い姉弟が北朝鮮に連れ出された事案を新たに拉致容疑事案と判断し、その旨を公表した。平成20年6月現在、警察が北朝鮮による拉致容疑事案と判断しているものは、表4-2及び表4-3のとおりとなっている。
 
 表4-2 日本人が被害者である拉致容疑事案(12件17名)
表4-2 日本人が被害者である拉致容疑事案(12件17名)
 
 表4-3 日本人以外が被害者である拉致容疑事案(1件2名)
表4-3 日本人以外が被害者である拉致容疑事案(1件2名)

 警察では、19年2月、新潟県におけるアベック拉致容疑事案の実行犯である通称チェ・スンチョルの共犯者として、当時の朝鮮労働党対外情報調査部指導員の自称韓明一こと通称ハン・クムニョン及び通称キム・ナムジンを、同年4月、姉弟拉致容疑事案の主犯として洪寿惠こと木下陽子を特定し、それぞれ逮捕状の発付を得るとともに、国際手配を行った。さらに、同年6月には、欧州における日本人男性拉致容疑事案の実行犯として「よど号」犯人の妻である森順子及び若林(旧姓・黒田)佐喜子を特定し、逮捕状の発付を得るとともに、国際手配を行うなど、警察の総合力を発揮して捜査等を推進している。
 
 図4-3 国際手配被疑者(拉致容疑事案関係)
図4-3 国際手配被疑者(拉致容疑事案関係)

〔2〕 北朝鮮による主なテロ事件
 北朝鮮は、朝鮮戦争以降、南北軍事境界線を挟んで韓国と軍事的に対峙しており、これまで、韓国に対するテロ活動の一環として、工作員等によるテロ事件を世界各地で引き起こしている。
 中でも、1987年(昭和62年)に発生した大韓航空機爆破事件は、日本人を装った工作員により敢行された。
 
 大韓航空機爆破事件を敢行した工作員・金勝一が使用した偽造日本旅券(時事)
大韓航空機爆破事件を敢行した工作員・金勝一が使用した偽造日本旅券(時事)
 
 図4-4 北朝鮮による主なテロ事件
図4-4 北朝鮮による主なテロ事件

 第2節 国際テロ情勢

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