第4章 公安の維持と災害対策 

第3節 国際テロ対策

(1)テロの未然防止対策の推進
〔1〕 情報収集と捜査の徹底等
 テロを未然に防止するためには、幅広い情報を収集して的確に分析することが不可欠である。また、テロは極めて秘匿性の高い行為であり、収集される関連情報のほとんどは断片的なものであることから、情報の蓄積と総合的な分析が求められる。そこで、警察では、警察庁警備局外事情報部を中心に外国治安情報機関等との連携を一層緊密化するなど、情報の収集・分析を強化しているほか、その総合的な分析結果を、重要施設の警戒警備を始めとした諸対策に活用している。
 また、国際手配されていたフランス人の「アル・カーイダ」関係者が、他人名義の旅券を使用して不法に入出国を繰り返し、国内に潜伏していた事案等について、警察では、引き続き、徹底した捜査を推進している。

〔2〕 水際対策の強化
 周囲を海に囲まれた我が国で、テロリスト等の入国を防ぐためには、国際空港・港湾において出入国審査、輸出入貨物の検査等の水際対策を的確に推進することが重要である。政府は、平成16年1月、内閣官房に空港・港湾水際危機管理チームを設置して、関係機関が行う水際対策の強化の調整を図っている。また、国際空港・港湾には、空港・港湾危機管理(担当)官(注)が置かれ、関係機関の連携の下で、テロリストの入国阻止や不審物の処理等、具体的な事案を想定した訓練の実施や施設警備に係る改善等に成果を上げている。

注:空港危機管理(担当)官及び一部の港湾危機管理担当官に都道府県警察の警察官を充てている。

 
 図4-5 空港・港湾における水際対策・危機管理体制の強化
図4-5 空港・港湾における水際対策・危機管理体制の強化

〔3〕 重要施設の警戒警備
 警察では、近年の厳しい国際テロ情勢を踏まえ、首相官邸、空港、原子力発電所、米国関連施設等の重要施設や鉄道等公共交通機関の警戒警備を強化している。
 
 空港施設における警戒
空港施設における警戒

〔4〕 テロの未然防止に関する法整備に向けた検討の推進
 16年8月、警察庁は、テロの未然防止と発生時の対処について、当面講ずべき諸対策を「テロ対策推進要綱」として取りまとめた。また、同年12月、政府の国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部において、「テロの未然防止に関する行動計画」(以下「行動計画」という。)が策定され、「今後速やかに講ずべきテロの未然防止対策」16項目については、20年度中にすべての項目が実施される予定である。
 なお、テロ対策の要諦は未然防止にあることから、その対策の推進に資するため、テロの未然防止対策に係る基本方針等に関する法制を整備することが必要である。警察庁は、関係機関と連携を図りながら、諸外国の法制の研究を行うなど法制の整備に必要な検討を行っている。
 
 図4-6 テロの未然防止に関する法整備に向けた検討の推進
図4-6 テロの未然防止に関する法整備に向けた検討の推進

事例

 「行動計画」には、爆発物の原料の管理強化が盛り込まれているところ、警察では、爆発物の原料となり得る化学物質を扱う薬局等に対して、不審な購入があった際の通報を依頼している。
 19年6月、爆発物の原料となる過酸化水素水等を購入しようとした不審人物に関する薬局からの通報に基づき、市販の薬品から爆発物であるトリアセトン・トリパーオキサイド(TATP)(注1)を製造した無職の男(38)を爆発物取締罰則違反(製造及び所持)で逮捕した(警視庁)。

注1:Triacetone Triperoxide


(2)テロへの対処態勢の強化
〔1〕 テロ対処部隊の充実強化
 警察では、テロが万が一発生した場合に備え、特殊部隊(SAT)(注2)や銃器対策部隊、NBCテロ(注3)対応専門部隊といった各種部隊を設置し、その充実強化を図っている。また、有事の際に迅速的確な対処を可能とするため、関係機関とも連携して、日々訓練を実施している。
 特殊部隊については、平成19年5月に愛知県長久手町で発生したけん銃使用人質立てこもり事件を踏まえ、警察庁において、特殊部隊支援班(SSS)(注4)を編成した。

注2:Special Assault Team
 3:N(Nuclear:核)B(Biological:生物)C(Chemical:化学)物質を使用したテロの総称
 4:SAT Support Staff、通称スリーエス

 
 図4-7 テロ対処部隊の概要
図4-7 テロ対処部隊の概要

〔2〕 スカイ・マーシャルの運用
 2001年(13年)9月の米国における同時多発テロ事件以降、航空機がハイジャックされて自爆テロに用いられないようにするため、諸外国では、地上における航空保安対策の強化に加え、警察官等が航空機に警乗するスカイ・マーシャル制度の導入が進んでいる。
 警察では、国土交通省等の関係省庁や航空会社と緊密に連携して、16年12月からスカイ・マーシャルを運用しており、諸外国との情報交換等を通じて対処能力の向上に努めている。
〔3〕 国際テロリズム緊急展開班(TRT-2)の派遣
 警察庁では、1996年(8年)の在ペルー日本国大使公邸占拠事件の教訓を踏まえ、国際テロ緊急展開チーム(TRT)(注1)を設置し、国外で邦人や我が国の権益に関係する重大テロ事件が発生した際に、このチームを派遣し、現地治安機関と緊密に連携しつつ、情報収集や人質交渉等の捜査活動支援を行ってきた。
 2002年(14年)10月のインドネシア・バリ島における爆弾テロ事件では、同国の治安機関からの支援要請に基づき、DNA型鑑定の専門家をTRTの一員として現地に派遣した。こうした支援要請には様々なものがあることから、16年8月、従来のTRTを発展的に改組し、現地治安機関に対してより広範囲の支援活動を行う能力をもつ国際テロリズム緊急展開班(TRT-2)(注2)を発足させた。

注1:Terrorism Response Team
 2:Terrorism Response Team - Tactical Wing for Overseas

 
 図4-8 TRT-2
図4-8 TRT-2

〔4〕 関係省庁との協力
 警察では、平素から防衛省・自衛隊と連携し緊密な情報交換を行うとともに、重大テロ等が発生した場合に備えた対処態勢の強化を図っている。
 12年以降、武装工作員等による不法行為に対処できるよう、防衛庁(当時)・自衛隊との間で協定等を締結して武装工作員等事案を想定した治安出動に係る共同図上訓練を実施し、その成果等を踏まえ、17年10月から20年3月にかけて、30道府県警察が、それぞれ対応する陸上自衛隊の師団等との間で、共同実動訓練を実施した。今後も各地でこれらの訓練を重ね、防衛省・自衛隊との緊密な連携の強化を図っていくこととしている。
 また、海上保安庁とも、連携して原子力発電所の警戒警備に当たっており、今後も共同訓練を実施するなど連携の強化を図っていくこととしている。
 このほか、警察庁では、関係機関と連携して原子力事業者、特定の病原体等の所持者等に対し立入検査を実施するなどし、核物質防護の強化や生物テロの未然防止を図っている。
 
 長崎、佐賀及び大分県警察と陸上自衛隊第4師団との共同実動訓練
長崎、佐賀及び大分県警察と陸上自衛隊第4師団との共同実動訓練
 
 図4-9 警察庁職員による立入検査の概要
図4-9 警察庁職員による立入検査の概要

〔5〕 テロリスト等の資産凍結に係る貢献
 我が国は、国際連合安全保障理事会決議第1373号等で求められているテロリスト等の資産凍結にも積極的に取り組んでおり、警察庁も、「テロリスト等に対する資産凍結等に係る関係省庁連絡会議」に参加し、機動的な資産凍結実施に貢献している。20年5月現在、我が国では、519のテロに関連する個人及び団体を資産凍結対象としている。
〔6〕 海外における邦人の安全対策
 警察庁では、平素から専門知識を持つ職員を海外に派遣し、外国治安情報機関等との情報交換を行うなど積極的に情報収集活動を行い、国際テロ組織や国際テロリストの動向把握に努め、情報を随時関係機関等に提供するなど、海外における邦人の安全対策に貢献している。また、職員を海外安全対策会議(注3)にパネリストとして派遣し、国際テロ情勢や在外邦人が講ずべき安全対策等を教示している。

注3:(財)公共政策調査会等が、5年以降、毎年1回、海外主要都市で在外邦人の安全対策のために開催する会議


 第3節 国際テロ対策

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