警察活動の最前線 

警察活動の最前線

警察の心理職員として
 
高知県警マスコット
 高知県警察本部警務部警務課
 若藤 奈美主査
若藤 奈美主査


 心理職員として採用されて6年が経ちました。捜査活動に付き添い、時には似顔絵を描き、カウンセリングや犯罪被害給付の裁定事務を行いながら、多くの被害者や遺族と接してきました。怒り、悲しみ、屈辱、自責、あるいは、大切な人を奪われたり、自分の体を傷つけられたという現実が、感情を奪ってしまうこともあり、一度として笑顔の出会いはありませんでした。
 それでも支援をするうちに、性被害に遭い「もう生きていけない」と泣き崩れていた女性が、「うれしいことがあったんです。生きていれば、幸せだと思えることに出会えるんですね」とほほえんでくれたり、子供を殺され「何でこんなことに・・」と涙声でつぶやき、拳を握り締めていた御両親が、慈しみ育てた子供の思い出を時間を忘れて笑顔で話してくれるようになりました。そこにたどり着くには時間がかかりますが、これらの笑顔は私の宝物になっています。
 「あなたは私に何があったか全部知っているのに、簡単に慰めたりしないから、私のすべてを話してみようと思った」、そう言われたことがあります。これからも、自分は今どうあるべきかを常に考え、犯罪被害者の方々に信頼を寄せてもらえるよう努力したいと思います。

安全・安心な街 歌舞伎町を目指して
 
警視庁マスコット
 警視庁新宿警察署地域課歌舞伎町交番
 山田 浩幸警部補
山田 浩幸警部補


 平成18年8月、私は新宿警察署へ異動となり、歌舞伎町交番勤務を命ぜられました。
 東洋一の繁華街・歓楽街を管轄する歌舞伎町交番は、警視庁ではだれもがあこがれを抱く交番ですが、それは華やかさからではなく、警察官としての自分を鍛えるというやりがいのもてる職場だからです。私は、素直に、喜び勇んで初めての交番勤務に就きましたが、そこは数多くの110番通報や交番を訪れる人が後を絶たない、噂に違わぬ激闘の場でした。ベテランの勤務員は、パトロールに出るや否や覚せい剤を所持する暴力団員を逮捕し、また、「いたぞ」と叫んで勢いよく交番から飛び出した若手警察官は、その顔写真を脳裏に焼き付けていた指名手配犯人を素早く確保するなど、犯罪検挙に関する取扱いは、途切れることなく続いたのです。
 歌舞伎町は、飲食店街やレジャー施設が多数あるなど、老若男女が楽しめる街である一方、暴力団等による犯罪の取締りを強化すべき街でもあります。現在、警視庁では、「安全・安心な街 歌舞伎町」をキーワードに、「みかじめ料不払い宣言」により官民が一体となって暴力団追放の機運を高めるとともに、商店会連合会と合同でパトロールを行うなどして各種犯罪の抑止、検挙に向け、最大限の努力をしています。歌舞伎町の再生はまだ道半ばですが、私は、歌舞伎町交番で勤務できる巡り合わせに、警察官としての喜びを感じています。

儀仗勤務について
 
皇宮警察マーク
 皇宮警察本部吹上護衛署兼警備第一課
 齋藤 雄大皇宮巡査
齋藤 雄大皇宮巡査


 皇居の正門には儀礼服姿の皇宮警察儀仗隊員が勤務していますが、私はその一員です。
 儀仗とは常に威容を保持しつつ警戒警備に当たるもので、外見上は華やかさだけが目立ちますが、人並み以上の我慢強さと克己心、警戒心が求められる勤務です。
 夏の暑い時には額から流れる汗をぬぐうこともできず、真冬は凍てつく寒さで指先の感覚が無くなりながらも、直立不動の姿勢を取り続けます。その時は、正直辛いなと思うこともありますが、観光客の「動かないね、人形みたいだね」との言葉に、儀仗は動かないという期待を裏切ってはいけないとの思いで更に気を引き締めて勤務しています。
 新年一般参賀及び天皇誕生日一般参賀においては、天皇皇后両陛下、皇族各殿下がお出ましになられる宮殿ベランダの前で儀仗勤務に当たります。お出まし時には打ち振られる日の丸の小旗を前に胸が高鳴り、緊張感はピークに達しますが、いざという時に動けるよう全神経を研ぎ澄ませて勤務に当たっています。
 私はこのような重要な国家行事に直接携わっているという誇らしさや、多くの国民の方々に皇室への親和と皇室への親しみを感じていただけるという手ごたえを大切にして、これからも皇宮護衛官としての職責を果たしていきたいと思います。

捜査は国民の理解と協力から
 
宮城県警マスコット
 宮城県築館警察署交通課長
 佐藤 保夫警部
佐藤 保夫警部


 平成17年4月、仙台市内中心部のアーケードで発生した、暴走トラックにより多数の被害者が出た事件は全国に報道されましたので、皆さんも記憶に新しいのではないでしょうか。
 私は前所属の宮城県警察本部交通部交通指導課でこの事件の発生当初から捜査に携わった一人ですが、事件を解決できたのは取りも直さず県民の理解と協力のたまものだと考えています。この事件の捜査の過程では、朝の混雑する通勤時間帯に交通を規制しての実況見分を何度となく行いましたが、通行する県民は苦情一つ言わずに協力してくれ、むしろ「大変ですね、御苦労様です」などと声を掛けてくれました。
 そもそも、国民の理解と協力がなければ事件は解決できません。近年は、国民の権利意識の高まり等により捜査に対する国民の協力が得られにくくなりつつあるなどと言われていますが、私は、捜査に携わるたび、「日本人もまだまだ捨てたもんじゃない」とつくづく感じます。

真心と熱意
 
三重県警マスコット
 三重県四日市南警察署地域課小古曽駐在所
 淺井 秀志巡査部長
淺井 秀志巡査部長


 平成2年、私は四日市南警察署水沢駐在所(当時)勤務を命じられました。私は、それまで駐在所勤務の経験がなく、どうすれば早く地元になじむことができるだろうかと頭を悩ませていました。思案の末、妻の勧めに従い、駐在所の近所のごみ集積所に掃除当番としてやって来る人たちにお茶を出し、雑談をするようにしてみたところ、これが好評で、地元の人たちとの信頼醸成や情報交換に大変役立ちました。このお茶出しは、私がその駐在所を離れるまでの間、地元の人たちとの熱い接点となりました。
 また、赴任当時、地元の中学校は大変荒れていました。中でも、ある非行少年グループは、窃盗事件を繰り返し、卒業式にもいわゆる特攻服を着て押し掛けるなど、学校の雰囲気を著しく悪くしていました。私は、彼らを何とか立ち直らせようと、その家を一軒一軒訪問し、時間を惜しまず一人一人と真剣に話し合うことにしました。すると、私の熱意が通じたのか、その中学校では次第に非行も影を潜めるようになり、例年騒然となっていた卒業式も、静粛に執り行われるに至ったのです。時間を惜しまない熱意が彼らにも通じたのです。私が駐在所を離れる際、この少年グループのリーダー格の2人があいさつに来てくれたことを今でもうれしく思っています。
 14年、私は12年間に及ぶ水沢駐在所での勤務を終え、現在の小古曽駐在所に異動しましたが、今も、駐在所勤務で改めて認識させられた「真心」と「熱意」の大切さを胸に、日々の勤務に就いています。

空からの目
 
兵庫県警マスコット
 兵庫県警察本部地域部地域企画課航空隊
 畑 康弘警部補
畑 康弘警部補


 空からの救助活動にあこがれ、交番の警察官から航空隊員になって16年になります。その間、何回も遭難者の発見や救助を経験しましたが、特に印象深いものの一つとして、平成17年4月に発生したJR西日本福知山線の脱線事故が挙げられます。
 「列車が車と衝突し脱線」との第一報で現場へ飛行し、そこで目にしたものは、マンションに衝突し、「く」の字に折れ曲がった銀色の車体でした。
 私たちは、多くの報道ヘリが飛び交う狭い空域を縫いながら飛行し、早く正確な情報を警察本部へ伝えるよう努めました。付近の工場の方たちが、仕事を中断し、トラックを救急車代わりにしてけが人を救助している様子が見てとれました。自分たちも救助に行きたいという気持ちがこみ上げてきましたが、その気持ちをぐっと抑え、事故の状況や救出の状況を映像と無線で送信し続け「空からの目」を忠実に遂行しました。これは、航空隊にしかできない任務だからです。
 地上の事故現場では、私たちの情報を基に救助活動が展開されていきます。真に空陸一体となった活動でした。
 これからも、我々航空隊は、空からの目となり命綱となって県民の安全を守っていきたいと思っています。

「交通事故の絶無」に向けて
 
山口県警マスコット
 山口県岩国警察署交通課
 吉川 理恵子巡査部長
吉川 理恵子巡査部長


 私は前所属の交通部交通企画課において、山口県警察女性白バイ隊「YPエンジェルス」の一員として、交通安全指導や広報活動を行うほか、全国的にも珍しい参加体験型交通安全教育施設「交通安全学習館」で交通安全教育のインストラクターとして勤務していました。
 学習館では、日々様々な立場や幅広い年齢層の来館者に対し、その対象やニーズに応じて学習館の設備や機材を駆使しながら、実体験や疑似体験を通じた分かりやすい指導を行うように心掛けていました。来館者の中には、「今まで事故に遭っていないから自分には関係ない」などと言う人もおられましたが、そうであるからこそ、交通安全教育は、相手の方の安全マインドを高め、今以上に安全な行動に結び付ける重要な仕事だと考えます。
 私は、悲惨な交通事故を一件でも減らすために、そして究極の目標である「交通事故の絶無」に一歩でも近付けていくために、所属は変わりましたが、これからも多くの方々に安全行動、安全運転の大切さを訴えていきたいと思っています。

「責任」と「目標」をもって
 
 関東管区警察局栃木県情報通信部機動通信課
 酒井 博一技官
酒井 博一技官


 私は、警察活動における情報連絡手段のインフラである基幹通信網の維持管理業務に携わっています。基幹通信網とは、全国の警察機関を結ぶ通信網であり、様々な警察情報を伝達しています。
 かく言う私も、まだまだ経験は浅く、上司や先輩方の指導の下、各装置について勉強する日々です。この業務の面白みは、理論や原理といったものを、実際に装置として具体化し、警察活動に貢献していることを体感できる点にあります。現在、私は、警察活動に支障を来さないよう、既存システムの維持管理に努めていますが、今後は、新しいシステムの設計・整備業務に携わりたいと思っています。自分で設計したものが実際に運用されるのは、この上ない喜びではないでしょうか。
 警察組織には、第一線の警察活動を側面から支える多くの部署が存在します。私の役割は、情報通信の面から支えることです。通信を途絶させてはならないという「責任」と、時代に即した新しいシステムを作り出すという「目標」をもち、日々の業務に励んでいます。

鑑識活動が持つ使命
 
沖縄県警マスコット
 沖縄県警察本部刑事部鑑識課
 嘉本 泰裕巡査部長
嘉本 泰裕巡査部長


 鑑識活動は犯罪に結び付く指紋、足跡、DNA型資料等の法医理化学資料の採取という根気のいる地道な作業ですが、その力は事件解決だけに活用されるわけではありません。
 山中から発見された自殺者の身元確認作業を行ったときのことです。ある家出人がその自殺者と推定され、指紋による確認をするため、家出人の自宅から指紋を採取することになりました。
 その活動は、家出人の死を決定付ける家族には残酷な作業です。そのときは、家出人の兄に立会人を依頼しました。兄は、ただ静かに私達の作業を見守っていました。そして作業を終えたその時、「弟の死は信じたくないのですが、あなた方が丁寧に指紋を採ってくれたおかげで悪い結果が出ても受け入れることができると思います。ありがとうございます」と涙ながらに我々に語ってくれたのです。
 家族が亡くなったかどうかの瀬戸際で、本心ではその指紋が一致してほしくないと感じながらも、我々の活動に感謝していただいたことに、私はこの仕事の尊さを深く感じました。
 鑑識活動は、事件等にかかわる人の人生を左右する重要な活動です。私は鑑識活動が持つ使命を強く自覚して、あらゆる現場に毅然と臨んでいきます。

生活経済事犯捜査官として
 
群馬県警マスコット
 群馬県太田警察署地域課地域第一指導官
 神澤 幸宏警部
神澤 幸宏警部


 私は、平成13年春から今年春まで生活安全部生活環境課で生活経済対策係として勤務していました。同係の取締対象事犯は、ヤミ金融事犯、悪質商法事犯、不正商品販売事犯等多岐にわたっていますが、取扱いの多い事犯は、やはりヤミ金融事犯です。この犯罪は、以前は店舗を設けて行うものが多かったのですが、最近は携帯電話の普及により、店舗を設けず、コンビニエンスストアや駐車場等の不特定の場所で貸付けが行われており、貸付者の特定が困難になっています。しかし、ヤミ金融による高利の貸付けや脅迫的な取り立て等により、実際に多くの人々が塗炭の苦しみをなめさせられています。
 また、床下や屋根を点検し、工事をする必要がないのに虚偽の事実を告げて修繕工事等の契約をするいわゆるリフォーム詐欺事件等でも多くの高齢者が苦しんでいます。
さらに、私が検挙した特異な事件として、農業協同組合(JA)による無登録農薬の販売事犯もありました。この事件は、人体に有害であるとして販売禁止となった大和芋の消毒用農薬を農家の強い要望により販売した事案であり、食の安全にかかわることから、マスコミにも大きく取り上げられました。
 このように、同係で取り扱う事件の範囲は幅広く、また、それぞれ捜査手法も異なります。こういった事件に的確に対応するため、事件ごとの根拠法令の研究等が必要不可欠であり、日々の自己研鑽が重要です。現在は別の部署におりますが、当時の研究等の成果を踏まえつつ、生活経済事犯の端緒把握等に努めています。

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