第6章 公安の維持と災害対策 

12 災害対策

(1) 自然災害の発生状況と警察活動
 平成16年中の台風、大雨、強風、高潮、地震、津波による被害は、人的被害については、死者が252人(前年比202人増)、行方不明者が11人(前年比7人増)、負傷者が7,774人(前年比5,826人増)であった。また、物的被害については、全壊又は半壊した住家数が3万2,402戸(前年比2万6,986戸増)、一部損壊した住家数が17万1,936戸(前年比15万6,537戸増)、流失した住家数が20戸(前年比9戸増)、浸水した住家数が16万7,713戸(前年比14万8,782戸増)、損壊した道路が1万1,716か所(前年比1万805か所増)、崩れた山崖が6,959か所(前年比5,439か所増)であった。

 
表6-8 過去5年間の台風、大雨、強風、高潮、地震、津波による死者、行方不明者、負傷者数(平成12~16年、平成17年5月31日現在)

表6-8 過去5年間の台風、大雨、強風、高潮、地震、津波による死者、行方不明者、負傷者数(平成12~16年、平成17年5月31日現在)
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 [1] 平成16年(2004年)新潟県中越地震
  ア 概要
 16年10月23日午後5時56分ころ、新潟県中越地方を震源とするマグニチュード6.8の地震が発生し、同県川口町で震度7、小千谷市、山古志村及び小国町で震度6強を記録した。その後も余震が続き、本震を含め12月末までに震度5弱以上の地震が19回発生した。
 この地震による被害は、17年5月31日時点で、新潟県を中心に死者が46人、負傷者が4,794人、全壊又は半壊した住家数が1万6,153戸、一部損壊した住家数が11万423戸等であった。

 
ヘリコプターによる部隊輸送
ヘリコプターによる部隊輸送

  イ 警察活動
 地震発生直後、新潟県警察や関東管区警察局では、それぞれ災害警備本部を設置して所要の災害警備活動を実施した。警察庁では、地震発生直後に災害警備本部を設置するとともに、政府が翌24日に災害対策基本法に基づく非常災害対策本部を設置したことから、これを非常災害警備本部とし、指導・調整体制を強化した。
 新潟県公安委員会から援助の要求を受け、33都府県警察が延べ約1万4,000人の警備部隊及び交通部隊からなる広域緊急援助隊等を派遣するとともに、28都道府県警察が延べ約3,600人の避難住民支援要員、延べ約3,700人のパトロール支援要員、延べ26頭・約40人の災害救助犬、同要員、延べ約140機のヘリコプター等を派遣した。
 新潟県警察では、これらの特別派遣部隊のほか、約2,900人体制で、各種災害警備活動を行った。特に、発災当初は、迅速かつ的確に被害情報の収集を行うとともに、被災者の救出救助・地域住民の避難誘導、行方不明者の捜索、緊急交通路の確保等を行った。

 
長岡市妙見堰(ぜき)付近の土砂崩落現場で活動する広域緊急援助隊
長岡市妙見堰(ぜき)付近の土砂崩落現場で活動する広域緊急援助隊

 また、新潟県警察と特別派遣された部隊の女性警察官等から成る「ゆきつばき隊」を編成し、長引く避難生活を過ごす被災者のために、相談への対応や要望の聴取、震災に乗じた犯罪への対策に関する指導等を行った。また、延べ約1,800台のパトカーによる「毘沙門隊」を編成し、被災地域でパトロール活動を実施した。

事例
 16年10月26日夕刻、新潟県警察のヘリコプターが、新潟県長岡市の妙見堰(ぜき)付近で、崩落した土砂に乗用車が巻き込まれているのを発見した。そこで、警視庁の災害救助犬を活用して探索を行ったところ、翌27日午後、車中に生存者がいることを確認した。広域緊急援助隊は、消防等と協力して救出救助活動に当たり、その結果、同日午後のうちに、男児が救出され、母親が遺体で収容された。その後も、広域緊急援助隊は、土砂崩落等の二次災害が発生する危険がある中、活動を続け、同年11月7日、女児の遺体を収容した。

 
ゆきつばき隊
ゆきつばき隊

 
毘沙門隊
毘沙門隊

 [2] 豪雨
  ア 平成16年7月新潟・福島豪雨
 16年7月12日夜から13日にかけて、日本海から東北南部に停滞する梅雨前線の活動が活発化し、新潟・福島の両県で豪雨となった。この豪雨による被害は、新潟県で死者が15人、負傷者が3人等、福島県で死者が1人、負傷者が1人等であった。
 新潟・福島の両県警察では、それぞれ災害警備本部等を設置して、被災者の救出救助、行方不明者の捜索等の災害警備活動を実施した。警察庁では、発災に伴い災害警備連絡室を設置し、関連情報の収集、関係機関との連絡調整、広域緊急援助隊の派遣の調整等の措置を講じた。新潟県公安委員会から援助の要求を受け、7月14日から16日にかけて、群馬・埼玉・長野の各県警察は、延べ約200人の広域緊急援助隊を、さらにその交替要員として、同月16日から20日にかけて、茨城・栃木・神奈川・山梨の各県警察が延べ約530人の広域緊急援助隊を、それぞれ新潟県に派遣した。

  イ 平成16年7月福井豪雨
 16年7月17日夜から18日にかけて、活発な梅雨前線が北陸地方をゆっくりと南下したことに伴い、福井県で豪雨となった。この豪雨による被害は、福井県で死者が4人、行方不明者が1人、負傷者が4人等であった。
 福井県警察では、災害警備本部を設置して、被災者の救出救助、行方不明者の捜索等の災害警備活動を実施した。警察庁では、新潟・福島豪雨に引き続き、災害警備連絡室を設置して、必要な措置を講じた。福井県公安委員会から援助の要求を受け、同月18日から20日にかけて、富山・石川・岐阜・愛知の各県警察は、延べ約530人の広域緊急援助隊を、また、同月18日と19日の両日、石川・愛知・大阪(大阪については19日のみ)の各府県警察がヘリコプター等を、それぞれ福井県に派遣した。

 [3] 台風
  ア 概要
 16年中は29個の台風が発生し、うち10個が日本に上陸したが、この上陸数は、気象庁が昭和26年に統計調査を開始して以降最多である。これらの台風による被害は、死者が175人、行方不明者が10人、負傷者が2,690人等であった。

  イ 警察活動
 関係都道府県警察では、台風の上陸に伴い災害警備本部等を設置して、被災者の救出救助、行方不明者の捜索等の災害警備活動を実施した。台風第21号の上陸により、三重県で死者が9人、行方不明者が1人等の被害が発生し、三重県公安委員会から援助の要求を受け、平成16年9月29日から10月1日にかけて、愛知県警察は、延べ約170人の広域緊急援助隊を三重県に派遣した。
 警察庁では、それぞれの台風の上陸に伴い、災害警備連絡室を設置して、必要な措置を講じた。
全国で死者・行方不明者が合わせて98人となるなど大きな被害が発生した台風第23号の上陸に際しては、政府が災害対策基本法に基づく非常災害対策本部を設置したことに伴い、警察庁でも、既に設置されていた災害警備連絡室を、非常災害警備本部とし、指導・調整を強化した。

 
倒壊した家屋内を捜索する広域緊急援助隊
倒壊した家屋内を捜索する広域緊急援助隊

 
(2) 広域緊急援助隊の強化
 警察では、平成16年(2004年)、新潟県中越地震での災害警備活動の教訓を踏まえ、情報収集用自動二輪車、生存者捜索システム等の装備資機材を整備するとともに、隊員の能力向上を図り、広域緊急援助隊の救出救助能力を高めた。また、派遣部隊が食糧・飲料水の補給や宿泊所の提供を受けず、おおむね72時間災害警備活動を実施できるよう、体制を整備した。さらに、被災者の不安感を軽減するため、情報の提供を強化することとした。
 加えて、極めて高度な救出救助能力を必要とする災害現場で、被災者をより迅速かつ的確に救出救助することができるよう、17年4月、12都道府県警察(北海道、宮城、警視庁、埼玉、神奈川、静岡、愛知、大阪、兵庫、広島、香川、福岡)の広域緊急援助隊に「特別救助班」を設置した。

コラム3 災害に強い警察通信
 警察庁と都道府県警察本部をつなぐ無線多重回線による通信網は、災害により回線の一部に支障が生じても、他の回線をう回して通信を維持することができる。また、災害の発生時には、管区警察局及び都道府県ごとに編成された機動警察通信隊が、臨時無線中継所を設置したり臨時電話を開設したりすることで、通話量が急増しても通信に支障が生じないようにしている。そのため、警察が独自に整備、維持管理している警察電話や警察無線等の通信網は、災害による障害が発生しにくい。
 阪神・淡路大震災が発生した際は、停電、建物の倒壊や火災による通信用ケーブルの切断、焼損等のため、一般の加入電話や携帯電話が不通となり、これらを利用した安否確認等の情報収集は不可能となった。しかし、警察の通信網は、地震の被害を受けることなく機能し、被害情報の収集や住民の避難誘導等に効果を発揮した。
 平成16年(2004年)新潟県中越地震の発災当初も、一般の加入電話や携帯電話が不通となる一方、警察では、自営の通信網を利用して被害状況を迅速に把握し、被災者の救出救助、住民の避難誘導等に活用した。また、各都道府県の情報通信部に設置されている機動警察通信隊は、ヘリコプター、衛星通信車等を利用して、被災地の映像を迅速に警察庁や警察本部へ伝送し、各種警察活動を助けた。

 
被災地へ向かう機動警察通信隊
被災地へ向かう機動警察通信隊

 12 災害対策

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