第6章 公安の維持と災害対策 

11 警備実施

(1) 警衛・警護警備
 [1] 小泉首相の北朝鮮訪問に伴う警護警備
 平成16年5月22日、小泉首相は、14年9月以来、1年8か月ぶりに、日朝首脳会談のため北朝鮮を訪問した。北朝鮮とは国交がなく、現地での支援体制も不明確であったことから、警察庁は、先遣警護隊を派遣して北朝鮮の警護当局との調整を行うなど、強力な警護体制を確立して、警護警備を実施した。

 [2] 第20回参議院議員通常選挙に伴う警護警備
 第20回参議院議員通常選挙は、16年6月24日公示、同年7月11日投開票の日程で施行され、各政党の多数の要人が全国で遊説活動を行い、演説会場には多数の聴衆が参集した。
 警察は、右翼のテロ等の違法事案が懸念される厳しい情勢の下、雑踏事故防止にも配意した的確な警護警備諸対策を推進し、要人の身辺の安全を確保した。

 
平壌の順安空港に到着した小泉首相(平成16年5月)(読売)
平壌の順安空港に到着した小泉首相(平成16年5月)(読売)

 [3] 天皇皇后両陛下のデンマーク国女王陛下及び同王配殿下御案内に伴う警衛・警護警備
 天皇皇后両陛下は16年11月18日、国賓として来日したデンマーク国女王陛下及び同王配殿下の御案内のため、群馬県へ行幸啓になった。
 群馬県警察、警視庁、皇宮警察及び沿線を管轄する埼玉県警察では、的確な警衛・警護警備諸対策を講じるとともに、警察庁では、警衛・警護警備対策室を設置して関係警察が連携して警衛・警護警備を実施できるよう指導調整し、御身辺の安全確保と歓送迎者の雑踏事故の防止を図った。

 
天皇皇后両陛下のデンマーク国女王陛下及び同王配殿下御案内に伴う警衛・警護警備(平成16年11月、群馬)
天皇皇后両陛下のデンマーク国女王陛下及び同王配殿下御案内に伴う警衛警備(16年11月、群馬)

 [4] 盧武鉉(ノ・ムヒョン)韓国大統領来日に伴う警護警備
 盧武鉉韓国大統領は、夫人を伴い16年12月17日に来日し、鹿児島県指宿市における日韓首脳会談等の日程を滞りなく終え、同月18日に離日した。
 同大統領来日に際し、極左暴力集団等は、鹿児島県鹿児島市で16人がビラ配布等を行ったほか、右翼は、延べ約60団体、約220人、街頭宣伝車約80台を動員して、指宿市及び鹿児島市で街頭宣伝活動等を行った。
 鹿児島県警察では、最大時約4,700人体制で警護警備を実施したほか、警察庁では、警護警備対策室を設置し、一行の安全と関連行事の円滑な進行を確保した。

 [5] 情勢に応じた的確な警衛警備
 天皇皇后両陛下は、16年中、第55回全国植樹祭(4月、宮崎県)、第24回全国豊かな海づくり大会(10月、香川県)、第59回国民体育大会秋季大会(10月、埼玉県)に御臨席されたほか、地方事情御視察等のため、沖縄県(1月)、岐阜県(7月)、京都府(8月)、新潟県(11月)、群馬県(11月)等へ行幸啓になった。
 皇太子殿下は16年中、第59回国民体育大会冬季大会(1月、青森県)を始め、各種の行事・式典への御臨席のため、行啓になった。
 海外へは、各皇族方が合計10回御訪問になった。また、高松宮妃殿下の薨去(こうきょ)(12月)に伴い、天皇皇后両陛下が御弔問になったのを始め、各皇族方が御参列になる中、諸儀式が執り行われた。
 これに対し、極左暴力集団等は、御臨席される行事・式典に反対する集会やデモ、ビラ配布を行った。このような情勢の中で、警察は、皇室と国民との間の親和に配意した警衛警備を実施し、御身辺の安全確保と歓送迎者の雑踏事故防止を図った。

 
「第24回全国豊かな海づくり大会」御臨席等に伴う警衛警備(平成16年10月、香川)
第24回全国豊かな海づくり大会御臨席等に伴う警衛警備(平成16年10月、香川)

コラム1 万全の警護を支える警護員
 警護とは、要人の身辺の安全を確保するための警察活動をいう。
 警護員は、警護対象である要人と信頼関係を築き、旺盛な警戒心と高度な緊張感を絶やさず警護に当たっており、危険を察知した際は、要人を守るために自らが盾となることもある。卓越した技能と強い使命感が求められていることから、SPと呼ばれる警視庁警護課の警察官を始め、警護に携わる警護員は、厳しい条件を満たす優秀な警察官が選抜されている。

 
警護訓練
警護訓練

 
(2) 機動隊の活動
 [1] 機動隊の種類と機能
 各都道府県警察には、集団警備力によって有事即応体制を保持する常設部隊として機動隊が設置されているほか、管区機動隊、第二機動隊等が設置されている。
 機動隊には、専門部隊として、爆発物処理班、銃器対策部隊、水難救助部隊、機動救助部隊等の機能別部隊が編成されている。また、一部の都道府県には、ハイジャックや人質立てこもり事件等に対処するための特殊部隊(SAT)や、生物・化学テロに対応するためのNBCテロ対応専門部隊が設置されている。
 さらに、大規模災害発生時の初動措置に当たる広域緊急援助隊や国際緊急援助隊が、全国警察の機動隊員、管区機動隊員等で編成されている。

 
銃器対策部隊
銃器対策部隊

 [2] 機動隊の任務と活動
 機動隊は、危機管理のための集団警備力の中核として、集団不法事案に対する治安警備、主要な警衛・警護警備、台風、地震等の災害警備、祭礼、催し物等の雑踏警備に当たっているほか、集団警備力としての特性を生かしつつ、繁華街や歓楽街における集団警ら、暴力団対策、暴走族の一斉取締り等、様々な活動を行っている。
 また、各種機能別部隊の専門能力を生かした捜査活動や、人命救助活動等の市民生活に密着した警察活動にも従事している。

 
歓楽街における集団警ら
歓楽街における集団警ら

コラム2 精強な機動隊
 機動隊は、昭和27年、20都道府県警察に創設され、その後、極左暴力集団等の尖(せん)鋭化に対処するため、全国の都道府県警察に設置された。
 機動隊員は、国会議事堂、総理大臣官邸等の重要施設を守るため、真夏の炎天下や積雪した真冬の深夜でも、路上に立って警戒を行っている。その活動範囲は、所属する都道府県警察の管轄区域に限られず、大規模な警備が必要とされる際は、応援部隊として全国へ派遣される。
 このような厳しい任務に耐えられるよう、機動隊員は、総重量が10キログラム以上にもなる装備品を装着して部隊活動訓練を行っているほか、山岳や水中での遭難者の救助や爆発物の処理を想定した訓練等、様々な事態に対処するための訓練を行っている。こうした訓練は、個々の隊員の能力を高めるだけではなく、隊員相互の信頼関係や団結心をはぐくみ、より強固な集団警備力を生み出している。
 こうした地道な活動が脚光を浴びることは少ないが、機動隊員は、治安の最後の砦としての誇りと使命感を持って厳しい任務に臨んでいる。

 
警視庁機動隊観閲式
警視庁機動隊観閲式

 
(3) 雑踏警備
 警察では、祭礼等の行事に際して多数の人が集まることにより事故が発生するおそれがある場合には、平成13年7月に兵庫県明石市で発生した、多数の死傷者を伴う雑踏事故の教訓を踏まえ、あらかじめ、行事の主催者や施設の管理者等に対して、自主警備体制の強化、安全確保のために必要な施設の改善等を要請しているほか、雑踏警備計画を作成し、混雑が予想される場所等への警察官の配置、交通規制、広報活動等を行っている。

 
表6-7 雑踏警備実施状況の推移(平成12~16年)

表6-7 雑踏警備実施状況の推移(平成12~16年)
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