第7章 公安委員会制度と警察活動の支え
1 適正な警察活動と予算執行の確保
(1) 適正な予算執行の確保
最近、警察の予算執行をめぐる不適正事案が相次いで判明した。不適正事案の背景には、警察が行う監査が十分なチェック機能を果たしていなかったことや、個々の職員が適正経理の重要性を認識していなかったことがある。警察では、事案の解明を図るとともに、厳正に処分を行った。また、平成16年2月には、警察庁長官官房長を委員長とする予算執行検討委員会を設置し、同委員会の検討結果を踏まえ、警察が行う監査の強化や会計に関する職員教育の強化等、全国警察で、適正な予算執行の確保に向けた施策を推進した。
警察は、これらの取組みにより、不適正事案の再発防止を徹底し、国民の信頼回復に努めているところである。
[1] 不適正事案の判明
ア 北海道警察における不適正事案
北海道警察では、平成16年3月、旭川中央警察署で捜査費が不適正に執行されていたことが判明し、北海道公安委員会が監察の指示を発したことを受けて、10年度以降15年度までの全所属での捜査費等の執行状況を調査した。その結果、多くの所属で、捜査費の一部を、困難な捜査に従事した職員を慰労するための会合の開催に要する経費や、部外関係者との交際に要する経費等に充てていたことなどが判明し、同年11月、調査結果を公表した。また、この調査結果と北海道監査委員による監査の結果との間に差異がみられたことから、補足調査を行った。さらに、これらの調査結果について、監査委員による確認的監査を受けた。加えて、北海道公安委員会は、北海道警察が行った調査について、担当の委員(2人)による点検を実施した。
これらの不適正事案に関して、北海道警察の職員及び元職員が拠出し、17年6月までに、国に約6億5,100万円、北海道に約3億600万円を返納した。
また、15年7月に会計検査院が北見方面本部の実地検査を行った際、14年度の警備課の捜査費の関係文書として、存在しない店舗の名称を記した虚偽の領収書を添付し、さらに、その店舗が存在するように仮装するため、虚偽の求人広告を作成し、会計検査院に提示していたことなどが判明したことから、北海道警察は、17年5月、元同課課長を業務妨害罪で検挙した。
イ 静岡県警察における不適正事案
静岡県警察では、15年12月、関係文書を点検した際に旅費の執行状況に不自然な点が発見されたことから調査を行った。その結果、7年度と10年度以降12年度までの間、警察本部の総務課で、旅費の一部を、警察本部長と部外関係者との交際に要する経費や、困難な捜査に従事した職員を慰労するための会合の開催に要する経費等に充てていたことなどが判明し、16年4月、6月及び11月、調査結果を公表した。
これらの不適正事案に関して、静岡県警察の職員及び元職員が拠出し、16年11月までに、静岡県に約2,300万円を返納した。
ウ 愛媛県警察における不適正事案
愛媛県警察では、16年5月、同県警察で不適正な予算執行が行われていたと報じられたことから調査を行った。その結果、11年度と13年度以降15年度までの間、大洲警察署で、捜査費の一部を執行する際、執行実態に反する虚偽の内容を記した文書を作成していたことが判明し、同年9月、調査結果を公表した。
これらの不適正事案に関して、愛媛県警察の職員が拠出し、17年3月、愛媛県に約18万円を返納した。
また、17年2月、監査委員による監査において、13年度の捜査費の執行の一部に関して疑義があるとの指摘がなされたことから調査を行った。その結果、不適正な執行が判明したことから、17年6月現在、13年度の捜査費の執行状況を調査中である。
なお、17年1月、愛媛県警察の警察官が記者会見を行い、同人が以前に勤務していた警察署で虚偽の内容を記した領収書を作成するよう依頼されたなどと述べたと報じられたことから調査を行ったが、そのような事実は確認されず、6月、調査結果を公表した。
エ 福岡県警察における不適正事案
福岡県警察では、16年4月、警察本部の銃器対策課で捜査費が不適正に執行されていたことが判明し、福岡県公安委員会が監察の指示を発したことを受けて、10年度以降15年度までの全所属での捜査費等の執行状況を調査した。その結果、12年度まで、警察本部の14所属の捜査費の一部を、警察本部長と部外関係者との交際に要する経費や、困難な捜査に従事した職員を慰労するための会合の開催に要する経費等に充てていたことなどが判明し、同年11月、調査結果を公表した。また、福岡県公安委員会は、福岡県警察が行った調査について、担当の委員による点検を実施した。
これらの不適正事案に関して、福岡県警察の職員及び元職員が拠出し、17年3月までに、国に約1億9,400万円、福岡県に約2,600万円を返納した。
オ 会計に関する文書の紛失・誤廃棄事案
予算執行をめぐる不適正事案が判明したことを受けて、16年3月、警察庁が、同月末に保存期間が満了する10年度に作成した会計に関する文書を引き続き保存するよう指示したが、指示の伝達が徹底されなかったことなどから、その後、警察庁及び都県警察の10部局で、指示の対象である文書を誤って廃棄する事案が発生した。
また、これらの事案を受けて、会計に関する文書の保存状況を調査した結果、この指示以前にも、警察庁及び都道府県警察の46部局で、会計に関する文書を紛失し、又は誤って廃棄していた事案があり、管理が適正に行われていなかったことが判明した。
カ 不適正事案に係る処分等
これらの不適正事案について、17年6月までに、全国で合計3,847人の職員に対して、停職、減給等の処分等が行われた。
表7-1 会計経理に関する不適正事案に係る処分等の状況
[2] 国民の信頼回復に向けた取組み
ア 警察が行う監査の強化
国家公安委員会は、16年4月、警察の会計経理の適正を期するため、会計の監査に関する規則を制定した。
また、警察庁は、16年度以降、原則としてすべての都道府県警察に対して毎年度監査を実施することとした。さらに、警察庁及び都道府県警察は、監査の手法について、
・ これまで、主として会計部門の職員が監査を実施していたが、今後、捜査部門での勤務経験を有する職員を加えて監査を実施するなど、監査の実施体制を強化すること。
・ これまで、監査における聞き取りは幹部職員に対するものが中心であったが、今後、より具体的な執行状況を確認できるよう、予算執行に直接携わった捜査員に対しても聞き取りを実施すること。
などの改善を加えることとした。
コラム1 会計の監査に関する規則
16年4月1日に公布、施行された会計の監査に関する規則(平成16年国家公安委員会規則第9号)には、次のような規定が定められている。
○ 警察庁長官、警視総監、道府県警察本部長及び方面本部長は、会計監査実施者として、毎年度、会計監査の重点項目等を定めた会計監査実施計画を作成しなければならないこと。
○ 会計監査は、会計監査実施計画に従い、実施しなければならないこと。ただし、特に必要があるときは、その都度、速やかに、実施しなければならないこと。
○ 会計監査を行うに当たっては、次に掲げる事項に留意しなければならないこと。
・ 正確性、合規性、経済性、効率性及び有効性の観点から行うこと。
・ 厳正かつ公平を旨とすること。
・ 資料及び情報を十分に収集し、正確な事実の把握に努めること。
・ 必要な限度を超えて関係者の業務に支障を及ぼさないよう注意すること。
○ 会計監査実施者は、会計監査の対象部署の長に対し、説明若しくは資料の提出を求め、又は指定する日時及び場所に所属の職員を出頭させるよう求めることができること。
○ 警察庁長官は国家公安委員会に対し、警視総監及び道府県警察本部長は都道府県公安委員会に対し、方面本部長は方面公安委員会に対し、毎年度少なくとも1回、会計監査の実施の状況を報告しなければならないこと。
○ 会計監査実施者は、会計監査の結果に基づき、必要な措置を講ずるものとすること。
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イ 会計に関する職員教育の強化
職員に予算執行の手続に関する正確な知識を習得させるとともに、適正経理の重要性を再認識させるため、会計に関する教育を強化することとした。また、それに必要な、捜査費等の経理に関する各種の解説資料を作成、配布した。
ウ 会計経理の透明性の確保
都道府県の監査委員による監査の際、次のとおり積極的に対応し、説明責任を十分に果たすこととした。
・ これまで、監査は主として書面により行われていたが、今後、捜査員に対する聞き取り調査の要請が増加することが予想されることから、特段の支障が生じない限り、これに応じること。
・ これまで、会計に関する文書を提示する際、捜査協力者の氏名等を一律に被覆することがあったが、今後、特段の支障がない限りすべての内容を提示することとし、捜査に支障が生じるため特に秘匿を要する場合は、対応策を個別に検討すること。
また、これまで、捜査費を受け取った協力者が、警察に協力した事実を他者に知られることを恐れるなどして本人名義でない領収書を作成したときは、やむを得ず受領してきたが、16年度からは、これを受領しないこととし、本人名義の領収書の作成を拒否されたときは、別途、捜査費を支払ったことを証明する文書を捜査員が作成し、幹部が確認することとした。
エ 会計に関する文書の適正な管理
会計に関する文書を紛失し、又は誤って廃棄することのないように、次のとおり適正な管理を徹底することとした。
・ 会計に関する文書は、専用のキャビネット等において他の文書と区別して保存すること。
・ 会計に関する文書をとじたファイルには、保存期間及び廃棄可能時期を表示すること。
・ 保存期間が満了した会計に関する文書を廃棄する場合には、事前に所属長の決裁を受けるとともに、廃棄に際しては立会人を置くこと。
事例1
北海道警察は、16年4月、警察学校の教育課程を見直し、会計に関する授業の時間を大幅に増やすとともに、同年10月、会計教養を担当する科を新設し、会計実務を専門に授業を行う教官を配置した。また、同年11月、警察の予算の仕組みや捜査費の執行手続を具体的に解説した研修資料を作成、配布した。
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事例2
福岡県警察は、17年4月、公認会計士を「財務アドバイザー」に委嘱し、会計経理に関する助言を受けることとした。また、職員に対する研修会において、財務アドバイザーが講習を行うこととした。
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オ 警察庁による監査の実施結果
警察庁が16年度に都道府県警察に対し実施した監査では、会計に関する文書が10年度のものまで保存されていることから、当該年度以降16年度までの予算の執行状況を監査した。特に、不適正事案が相次いで判明したことを踏まえ、捜査費の執行状況を重点的に監査することとし、その執行に直接携わった捜査員1,182人を含む3,280人に対して聞き取りを実施するなどの措置を講じた。
その結果を踏まえて、17年4月には、次のとおり改善を指示した。
・ 同一の協力者に捜査費を執行する回数等に制約を設けていたことから、これを廃止すること(青森県)。
・ 幹部職員が捜査費関係文書を十分に点検していないと認められたことから、幹部職員に対する指導を徹底すること(警視庁)。
・ 逮捕した被疑者の食事代を、県費の留置人食糧費から支出するべきであるにもかかわらず、国費の捜査費から支出していたことから、これを返納すること(和歌山県)。
・ 所属長が管理すべき捜査費関係文書を所属長以外の職員が管理できると通達で定めていたことから、これを改めること(大阪府)。
・ 捜査費の経理に関する解説資料を作成していなかったことから、これを作成し、職員に配布すること(沖縄県)。
・ 旅費の一部を支給していなかったことから、これを支給すること(栃木県、長野県)。
また、幹部職員が捜査費の執行手続に関する知識を十分に有していないと認められたものなど58件について、自ら必要な改善措置を講じるよう、関係警察を指導した。
監査における捜査員からの聞き取り
(2) 監察
警察における監察は、能率的な運営及び規律保持のために行われるものである。国家公安委員会が定める監察に関する規則に基づき、警察庁長官、警視総監及び道府県警察本部長は、年度ごとに監察を実施するための計画を作成し、国家公安委員会又は都道府県公安委員会に報告するとともに、四半期ごとに少なくとも1回、監察の実施状況を国家公安委員会又は都道府県公安委員会に報告している。
警察庁長官が作成した平成16年度監察実施計画では、全国統一の監察実施項目として、
・ 告訴・告発事件及び未処理事件の捜査管理状況
・ 地域部門における業務管理状況
・ 生活安全部門における許認可業務の管理状況
・ 交通事故・事件の捜査管理状況
を、管区警察局独自の監察実施項目として、
・ 留置管理業務の推進状況
・ 職務倫理教養及び身上把握の推進状況
等を定めた。
また、都道府県警察でも、それぞれ独自の監察実施項目を定め、業務及び服務の両面において厳正な監察を行った。
このほか、警察法の規定により、国家公安委員会は警察庁に対して、都道府県公安委員会は都道府県警察に対して、具体的又は個別的な監察の指示をすることができることとされており、16年中は、北海道公安委員会と福岡県公安委員会が、予算執行をめぐる不適正事案について監察の指示を発した。これを受けて、北海道警察及び福岡県警察では、調査を行い結果を公表した。
(3) 苦情の適正な処理
警察は、国民からその活動について苦情が寄せられた場合には、これを適正に処理している。警察法には、苦情申出制度が設けられており、都道府県公安委員会は、都道府県警察の職員の職務執行について文書により苦情の申出があった場合には、都道府県警察に対し、調査や適切な措置を実施するよう指示し、都道府県警察はその結果を報告することとされている。
また、申出が都道府県警察の事務の適正な遂行を妨げる目的で行われたと認められる場合や申出者の所在が不明であるなどの場合を除き、処理の結果を申出者に文書により通知しなければならないこととされている。
なお、警察本部長や警察署長あてに申出があったものなど、都道府県警察の職員の職務執行についての苦情でこの制度によらない申出についても、これに準じた取扱いがなされている。