第2章 生活安全の確保と警察活動 

(2)警察の取組み

1)体制の整備
 警察では,ハイテク犯罪対策を強化するため,対策に専従する組織の設置や要員の確保により,体制の整備を図っている。
○ハイテク犯罪対策プロジェクトの設置
 ・各都道府県警察において,ハイテク犯罪の捜査等を効果的に進めるため,警察部内の各部門が連携の上,ハイテク犯罪に精通した者により構成されるハイテク犯罪対策プロジェクトを設置
○ハイテク犯罪対策要員の確保
 ・企業等においてシステム・エンジニアとしての勤務経験を有する者等をハイテク犯罪捜査官として中途採用
 ・ハイテク犯罪等に関する相談への対応やハイテク犯罪の予防のための広報啓発等を行う情報セキュリティ・アドバイザーを設置
○警察庁における体制整備
 実効あるハイテク犯罪対策を推進していくためには,情報通信に関する高度かつ最先端の技術力を確保する必要がある。
 ・平成11年4月,ハイテク犯罪に関し都道府県警察を技術的にリードするナショナルセンターとして,警察庁情報通信局に技術対策課を設置し,その技術的中核として,同課に警察庁技術センターを開設

2)法制の整備
 警察では,高度情報通信ネットワーク社会における新たな治安課題に対処するため,ハイテク犯罪の発生を防止するための法制の整備を進めている。
○不正アクセス行為の禁止等に関する法律(平成11年法律第128号)
 他人の識別符号(ID,パスワード等)を不正に入力するなど,情報通信ネットワークを通じてコンピュータにアクセスする不正アクセス行為を防止するため,不正アクセス行為を禁止するとともに,これについての罰則及びその再発防止のための都道府県公安委員会による援助措置等を定めたもの(図2-15)。

 
図2-15 都道府県公安委員会による援助

図2-15 都道府県公安委員会による援助

○古物営業法の一部を改正する法律(平成14年法律第115号)
 古物の取引における高度情報通信ネットワークの利用の拡大等にかんがみ,情報通信の技術を利用する古物営業に係る業務に関する規定を整備するとともに,古物競りあっせん業者(いわゆるインターネット・オークション業者)に係る盗品等の売買防止等のための規定を整備したもの(第1節「街頭犯罪及び侵入犯罪の発生を抑止するための総合対策」参照)。
○インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律(平成15年法律第83号)
 最近におけるインターネット異性紹介事業(いわゆる出会い系サイト)の利用に起因する犯罪による児童の被害の実情にかんがみ,出会い系サイトを利用して児童を性交等の相手方となるように誘引する行為等を禁止するとともに,児童による出会い系サイトの利用を防止するための措置を定めたもの(第4節「「出会い系サイト」に係る犯罪被害の防止」参照)。

3)産業界等との連携
 ハイテク犯罪やサイバーテロの特性は,これら犯罪の予防や捜査を困難なものとしており,今後予想されるこれらの犯罪の増加に対処するためには,電気通信事業者等産業界等との緊密な連携を確保していくことが重要である。都道府県警察では,ハイテク犯罪情勢や犯罪手口等の犯罪実態に係る情報交換を行うためのプロバイダ等連絡協議会の設置を推進している。
 また警察庁では,「e-Japan重点計画」に基づき,産業界等との連携を強化するため,平成13年,情報セキュリティの有識者らで構成する「総合セキュリティ対策会議」を設置し,産業界等と政府機関の連携の在り方,特に警察に係る連携の在り方等について,検討を行っている。

 
プロバイダ等連絡協議会の活動内容

 
総合セキュリティ対策会議

総合セキュリティ対策会議

4)国際的な連携強化
 G8国際組織犯罪対策上級専門家会合(リヨン・グループ)のハイテク犯罪サブグループでは,9年12月のG8司法・内務閣僚級会合で策定された「ハイテク犯罪と闘うための原則と行動計画」等に基づき,国際捜査協力や各国国内の体制整備に関する議論がなされている。
 14年5月のG8司法・内務閣僚級会合においては,ハイテク犯罪捜査の特殊性に一層的確に対応すべく,24時間コンタクト・ポイントの拡充が合意されたほか,国際的な情報通信ネットワークを使用する犯罪者等の所在確認及び本人確認を迅速に行うための「テロ・犯罪捜査における国境を越えたネットワーク・コミュニケーション追跡のための勧告」が承認され,また15年5月の同会合では「G8重要情報インフラ防護に関する原則」が承認された。
 警察庁では,これらの会合や,12年5月(パリ)及び13年5月(東京)に開催されたG8ハイテク犯罪対策政府・産業界合同会合に積極的に参画したほか,先進諸国の関係機関との協調関係構築に向けて,ハイテク犯罪対策の専門家の育成を目的とした相互交流等を行っており,特に,アジアにおける近隣諸国及び地域については,情報交換のためのサイバー犯罪技術情報ネットワークシステムを整備するなど国際捜査協力体制の確立を図っている。
 また,欧州評議会で制定され,我が国も署名をしている「サイバー犯罪に関する条約」については,同条約の締結に向けた取組みを進めている。

5)情報セキュリティ意識の向上
 ハイテク犯罪の発生を抑止し,高度情報通信ネットワークの安全性の確保を図るためには,国民の情報セキュリティに関する意識・知識を向上させ,自主的な取組みを促進することが重要である。
 都道府県警察では,市民がハイテク犯罪の被害に遭わないように,関係機関,消費者団体,学校教育関係者等と連携して,情報セキュリティに関する広報啓発活動を推進している。また,教育機関,地方公共団体,民間企業等の職員に対し研修,意見交換を実施し,情報セキュリティに関する知識・意識の向上に努めている。

 
情報セキュリティに関する広報資料

情報セキュリティに関する広報資料

6)違法・有害コンテンツ対策
 警察は,サイバーパトロールを実施することにより,ネットワーク上の違法情報及び有害情報(注)を把握するとともに,関係者に対する指導,検挙,連絡,要請等の措置を講じ,違法・有害コンテンツによる害悪の発生の防止を図っている。


(注)「違法情報」とは,わいせつ画像,他人を脅迫するメッセージ等情報自体が違法であるものや,わいせつ図画,銃器,薬物,毒劇物等禁制品及び規制品の売買に関する情報等犯罪が行われている疑いのある情報をいう。「有害情報」とは,犯罪方法を教示する情報や,少年の健全育成を阻害するおそれのある情報等,違法情報には該当しないが犯罪や事件を誘発するなど公共の安全と秩序の維持の観点から放置することのできない情報をいう。

 また,ネットワーク上を流通する情報は膨大であるため,より網羅的に実態を把握するためには一般のネットワーク利用者の協力が不可欠であり,NPO等の各種民間団体との連携等,官民一体となった違法・有害コンテンツ対策に取り組んでいる。

7)調査研究
 ハイテク犯罪対策を推進するに当たっては,不正アクセス行為が行われにくい環境を構築することや不正アクセス行為が行われたことを早期に認知することが重要であるため,警察庁では,不正アクセス行為とその対策の実態,アクセス制御に関する技術動向その他のハイテク犯罪等に関する調査研究を行っている。

 

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