第2章 生活安全の確保と警察活動 

街頭犯罪及び侵入犯罪の発生を抑止するための防犯対策

(1)犯罪類型に応じた防犯対策の推進

1)街頭犯罪に係る防犯対策
○公共空間の環境設計活動
 警察では,道路,公園,駐車・駐輪場等の公共空間について,「道路,公園,駐車・駐輪場及び公衆便所に係る防犯基準」に基づき,犯罪防止に配慮した環境設計を行うなど,犯罪被害に遭いにくいまちづくり(「安全・安心まちづくり」)を推進している。

・街頭緊急通報システム整備事業(警察庁)
 「歩いて暮らせる街づくりモデルプロジェクト地区」(平成13年),「安全・安心モデル街区」(14年)内の道路,公園に警察署への通報や映像の伝送が可能な街頭緊急通報システム(スーパー防犯灯)を設置

 
街頭緊急通報システム(スーパー防犯灯)

街頭緊急通報システム(スーパー防犯灯)

・子ども緊急通報装置整備事業(警察庁)
 全国47か所の通学区の通学路,児童公園等に,警察署への緊急通報が可能な「子ども緊急通報装置」を設置(14年)

道路,公園,駐車・駐輪場及び公衆便所に係る防犯基準(抄)
1 道路
 ○原則として,ガードレール,樹木等により歩道と車道とが分離されたものであること。
 ○防犯灯,街路灯等により,夜間において人の行動を視認できる程度の照度が確保されていること。 等
2 公園
 ○植栽,いけがき,草むら,ぶらんこ等の遊戯施設等につき,周囲の道路,住居等からの見通しを確保するための措置がとられていること。
 ○当該公園の周辺に,交番・駐在所,子ども110番の家等が,又は当該公園に防犯ベルが設置されていること。 等
3 駐車・駐輪場
 ○管理者が常駐若しくは巡回し,管理者がモニターするカメラその他の防犯設備が設置され,又は周囲から見通しが確保された構造を有すること。
 ○駐車の用に供する部分の床面において2ルクス以上,車路の路面において10ルクス以上の照度がそれぞれ確保されていること。 等

○個別の防犯対策
・自動車盗対策
 「国際組織犯罪等対策に係る今後の取組みについて」(13年8月・国際組織犯罪等対策推進本部決定)に基づき,警察庁,財務省,経済産業省,国土交通省と関係民間16団体から成る「自動車盗難等に関する官民合同プロジェクトチーム」では,1~2年間のうちに自動車盗の増勢傾向に歯止めを掛け,その後減少を図ることを目標として,「自動車盗難等防止行動計画」(14年1月)を策定し,イモビライザー等を備えた盗難防止性能の高い自動車の普及,自動車の使用者に対する防犯指導及び広報啓発,盗難自動車の不正輸出防止対策等を推進している。15年3月には,「埠頭管理マニュアル」を制作し,埠頭管理者と警察,税関の緊密な連携を図っている。

 
自動車盗難防止の広報ポスター

自動車盗難防止の広報ポスター

・自転車盗・オートバイ盗対策
 二輪車の盗難防止や盗難被害に遭った場合の速やかな被害品回復のため,自転車については法律により防犯登録が義務付けられており,オートバイを含めた二輪車については,(社)全国二輪車安全普及協会により,グッドライダー・防犯登録制度が運用されている。警察では,防犯登録に係る広報を行うとともに,関係業界に働き掛け,防犯登録制度の普及を促進している。

・路上強盗・ひったくり対策
 路上強盗・ひったくりの発生状況やその手口について具体的な広報に努めるとともに,防犯協会や自転車関係業界と連携して,自転車の前かごに取り付けるひったくり防止ネットや防犯ブザー等の防犯機器の普及を促進している。

 
ひったくりの手口を紹介した防犯ビデオ

ひったくりの手口を紹介した防犯ビデオ

事例
 徒歩・自転車によるひったくりの実演及び防犯グッズを活用した防犯対策についてビデオを制作し,警察署から防犯協会,自治会等を通じて管内全戸に回覧させた(大阪)。

2)侵入犯罪に係る防犯対策
○住宅の環境設計活動
 警察では,「共同住宅に係る防犯上の留意事項」の策定や「防犯モデルマンション登録(認定)制度」(注)の整備・運用を通じて,犯罪防止に配慮した住宅の普及を進めている。


(注)防犯に配慮した構造,設備の審査基準を策定し,これを満たしたマンションについて,防犯モデルマンションとして登録(認定)するもの。

共同住宅に係る防犯上の留意事項(抄)
○基本事項
 ・共用出入口,エレベーターホール等における見通しの確保及び必要な照度の確保
 ・住戸の玄関扉に係る防犯措置(破壊に強い材質,こじ開け防止の措置等),破壊及びピッキングに強い錠の設置  等
○推奨事項
 ・共同玄関扉へのオートロックシステムの導入
 ・エレベーターのかご内への防犯カメラの設置  等
○特に配慮すべき事項
 ・住戸の玄関扉における補助錠の設置
 ・住戸の窓における破壊が困難なガラスの使用  等

 
防犯モデルマンション

防犯モデルマンション

○新たな侵入手口への対策
・カム送り解錠
 「カム送り解錠」とは,特殊な道具を用いて,錠シリンダーを迂回し,直接錠ケース内部に働き掛けてデッドボルトを作動させ解錠する侵入手口である。警察庁は,既にその工具が一部業者により販売されていたことなどから,この手口に関する広報を実施する(14年9月)とともに,カム送り解錠が容易又は可能な錠前を過去に販売した錠前製造業者に対し,対策部品の供給や相談窓口の開設等を行うよう指導した。
・サムターン回し
 「サムターン回し」とは,出入口ドアの施錠部付近にドリル等で穴を開けて用具を差し込むなどして,ドアの内側にある施解錠つまみ(サムターン)を回し解錠する侵入手口である。この手口による犯罪は,14年中に約800件発生するなど急激な増加傾向にあることから,警察庁では,関係業界と連携してサムターンカバー,ガードプレート等の対策部品の普及に努めている。

○防犯性能の高い建物部品の開発・普及の促進
 侵入手段の巧妙化に対処し,侵入犯罪を防止するためには,錠前,窓ガラス,シャッター等の建物部品の防犯性能を高め,これを普及させていくことが重要である。警察庁では,国土交通省及び経済産業省と連携して,15の関係団体とともに「防犯性能の高い建物部品の開発・普及に関する官民合同会議」を設置し,防犯性能の高い建物部品の開発・普及方策を検討している。15年3月には,建物部品に関し防犯上配慮すべき事項を侵入手口ごとに定めて公表するとともに,防犯性能の目安を侵入までに5分を超えるものと設定するなど性能評価の方法について方針を定め,その普及を図っている。

 
防犯ガラス

防犯ガラス

事例
 警視庁葛西警察署は,民間防犯組織・団体等と連携し,住宅等に対する防犯診断及び防犯設備(ピッキングに強い錠前約2,000個,防犯ガラス約4,000等)の普及を行った。同警察署管内では,対策を講じて以降8か月間の空き巣ねらいの認知件数が約10%減少した。

コラム3 「特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律」の制定
 ピッキング用具等の特殊な開錠専用の器具を使用した侵入窃盗等の侵入犯罪は,国民に多大な不安を与えている。このような情勢を受けて,侵入犯罪の発生の防止に資するため,特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律が,15年6月に制定され,その一部が同年9月に施行された。
 同法の主な内容は,次のとおりである。
1)特殊開錠用具の所持等の禁止
・業務その他正当な理由による場合を除いては,ピッキング用具等の政令で定める特殊開錠用具を所持してはならないこととした。
・業務その他正当な理由による場合を除いては,ドライバー,バール等の工具のうち政令で定める指定侵入工具を隠して携帯してはならないこととした。
2)指定建物錠の防犯性能に関する表示制度
・国家公安委員会は,政令で定める指定建物錠の防犯性能に関し,その製造・輸入業者が表示すべき事項等を告示するものとし,これに従った表示をしていない者に対する勧告及び命令の制度を設けることとした。
3)その他
・建物錠,ドア,窓又はこれらの部品の製造・輸入業者に対する国家公安委員会の援助,緊急時の建物錠の改善措置,特殊開錠用具の知情販売等の加重処罰,出入国管理及び難民認定法の一部改正等の所要の規定を整備した。

 
ピッキング用具一式

ピッキング用具一式

3)犯罪に遭いやすい対象に係る防犯対策
○金融機関
 金融機関を対象とした強盗事件は,発生が急激に増加しており(第3章「重要凶悪事件への取組み」参照),灯油等を用いて放火する事案や銃器を発砲する事案等悪質な事案も増えている。警察では,金融機関の防犯体制や店舗等の構造,防犯設備等に関して満たすべき防犯基準を定め,関係機関・団体に対し指導を行うとともに,機会をとらえて,防犯訓練や警察官の巡回を実施している。

 
金融機関における防犯訓練

金融機関における防犯訓練

○ATM機・CD機
 建設機械やその搬送車両を窃取し,これを使用してATM機やCD機を破壊して現金を窃取する事件が急増している。警察では,建設機械やその搬送車両の盗難を防止するため,エンジン鍵の確実な保管,チェーンによるアーム,車体等の固定,イモビライザー,GPS等を活用したセキュリティシステムの利用等の対策を関係業界に指導しているほか,「現金自動預支払機等防犯対策会議」を開催し,関係機関・団体とともにブースに関する防犯基準の策定等の対策を検討している。

 
建設機械により破壊されたATM機

建設機械により破壊されたATM機

○深夜スーパーマーケット
 コンビニエンスストア等深夜スーパーマーケットを対象とした強盗事件は,ここ数年の間に急激に増加し(第3章「重要凶悪事件への取組み」参照),特に都市部を中心に多発している。警察では,防犯体制,現金管理,店舗の構造等について定めた「深夜スーパーマーケットの防犯基準」に基づき,特に,固定式の投込式金庫の設置,カメラの常時作動及び録画を最低限実施するよう防犯指導に努めている。
 また,地域の要所に所在し,深夜に従業員が稼働しているコンビニエンスストアは,同時に地域安全活動の一翼を担うことのできる店舗となり得るものであることから,警察では,自主防犯対策の強化,未成年者に対する酒類・たばこの販売や少年の深夜はいかい等の問題への対応等について協力を求めるとともに,子ども110番の家や防犯連絡所に指定するなど,コンビニエンスストアの地域安全活動への参画(セーフティステーション化)を推進している。

○現金輸送業務
 増加傾向にある現金輸送車を対象とした強盗事件に対し,警察では,体制,現金輸送路線・時間,現金の積降し・積込み・搬送等に関して防犯対策上の点検事項を定め,関係機関・団体に対して対策を強化するよう要請するとともに,個別指導を行っている。

 

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