第1章 組織犯罪との闘い 

(5)イタリア

 イタリアでは,シチリア島を中心に活動するラ・コーザ・ノストラ等の犯罪組織が古くから存在しており,一般にマフィアと呼ばれている。これらは,「沈黙の掟」(omerta(à))を土台に構成されている極めて秘密性の強い組織であり,また,「マフィア型結社罪」を規定しているイタリア刑法により,その組織は非合法とされている。その組織形態は,シチリア島(行政区画上「州」として位置づけられる)内の各県(20県)にボスが置かれ(ただし,州都パレルモ市については複数のグループが存在するといわれている。),全体を「大ボス」が統括するピラミッド型であるとみられる。すべての構成員には,「沈黙の掟」を守るなど極めて厳しい規律に基づき行動することが求められている。
 犯罪組織は,薬物売買,武器の密輸,各県内で活動する商店,飲食店等に対する恐喝(いわゆる「ショバ代」の要求),建設業者に対する恐喝(かねてよりイタリア南部においては多くの公共事業が行われており,その受注等をめぐってマフィアが介入する例が多くみられる。)を活動の中心としているとみられるが,他国の国際犯罪組織との連携もみられるところであり,薬物の売買に関して中南米の麻薬密売組織と連携する活動がみられるほか,近年,パレルモ市においては,中国系移民の増加に伴い,中国系マフィアと連携した不法移民の入国に関与する等の動きもみられる。また,1980年代から90年代初頭にかけて,マフィアによる犯罪を担当していた捜査官,検事等が相次いで殺害される事件も発生しており,このことから,暴力を頼みとするマフィアの体質がうかがわれるところである。
 組織犯罪対策を推進するため,イタリアでは,3つの主要な警察組織(国家警察,カラビニエリ(軍警察),財務警察)が有する情報,マンパワーを集約する必要性が政府内で検討され,1991年(平成3年)のマフィア対策関連法により,これら3つの組織の組織犯罪対策専門家を集めたDIA(マフィア対策庁)が内務省の外庁として設置された。その権限は,基本的に一般の司法警察とほぼ同様であるが,マフィア構成員としての容疑者に対し,財産の仮保全命令を裁判所に求めること,マフィア構成員の資産の没収を裁判所に求めること,イタリア中央銀行からマフィアによるマネー・ローンダリングの疑いのある外貨取引について通報を受けることなどの特別な権限を法律により付与されており,近年は財務捜査に基づく不法収益の保全・没収にも力を入れている。
 また,軍及び内務省情報局の協力を得てマフィア組織に対するインテリジェンス活動を行うなどマフィア活動の「予防」にも力点を置いている。

 

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