第4節 諸外国の地域の安全のための取組み

1 アメリ力

 1980年代から各地の都市で、コミュニティー・ポリシング(Community Policing)と呼ばれる活動の試みが行われている。これは、法執行活動だけではなく、住民の参加、協力を求めつつ、住民と一体となった警察活動を行おうとするものである。
 具体的には、住民との接点を拡大するため自動車によるパトロールに代えて徒歩やバイクによるパトロールを導入したり、交番のようなミニ・ステーションを設置しているほか、地域住民に対して防犯上の様々な働き掛けを行う等の活動が行われている。
 また、民間では、1970年代から防犯診断、街灯の改善、犯罪被害者に対する援助活動等の近隣警戒活動が行われている。
〔事例1〕 ニュ-ヨーク市警察が1984年から実施している「地域警察官計画(CPOP:Community Police Officer Program)では、パトロール警察官は、それぞれ15ブロック前後の受持ちの区域を割り当てられ、徒歩によるパトロールのほか、地域の会合への出席、防犯指導等を通じて住民からの要望を聴取し、地域の様々な問題を解決することを任務としている。
〔事例2〕 ニューヨーク市の民間防犯組織CITIZENS(Committee For New York)は、地域のリーダーに対して防犯トレーニングを施すとともに、青少年のグル-プ活動の支援等を行っている。
〔事例3〕 サンフランシスコ市の民間防犯組織San Francisco SAFE(Safety Awareness For Everyone)は、住民の近隣警戒活動を支援するとともに、同組織に属する専門家が各家庭を訪問して、防犯のための指導を行うなどの活動を展開している。
〔事例4〕 フィラデルフィア市警察では、1980年代後半から、Sub Station36箇所を設置するとともに、警察官が、地域住民やポリス・アドバイザーと呼ばれるボランティアとともに、パトロール等の活動を展開している。

2 力ナダ

 アメリカの影響を受けて、コミュニティー・ポリシングの考え方を取り入れた活動を試みる自治体警察が増加しているほか、民間の活動にも新たな動きがみられる。
〔事例1〕 アルバータ州エドモントン市警察では、住民との交流を取り戻すため、1987年から地区徒歩警ら計画(Neighbourhood Foot Patrol Program)を試行している。同計画の主な要素は、徒歩パトロールと街頭出張所(Storefront Office)であり、このほか、交番と同様の機能を有するコミュニティー・センターの設置を進めている。
〔事例2〕 オンタリオ州ヴァニエ市では、基本的にボランティアで運営されるヴァニエ・コミュニティー・ポリスセンターが、近隣警戒活動の普及、貴重品、自転車等の防犯登録、住宅、事業所等の防犯診断等を行っている。

3 イギリス

 ロンドン警視庁では、警察と地域との結び付きが希薄になりつつあるとの問題意識から、1991年以降セクター・ポリシングと称する地域との連携を強化するための施策を行っている。これは、警察署の管轄区域をいくつかのセクターに分け、各セクターごとにその地域の治安責任を負うパトロール警察官のチームを割り当て、当該チームに重点目標を独自に定めさせるなど広い裁量権を与えることにより、地域との連携を強化して地域の実態に沿った警察活動を推進しようとするものである。
 また、イギリス内務省等は、増加する犯罪に対応するため1984年に告示を発し、地域独自の犯罪防止努力の必要性をうたい、中央および地方の両方における犯罪防止施策の強化を打ち出した。さらに、1988年からは、セイファー・シティーズ・プロジェクト(Safer Cities Project)を実施し、国内の20地区に重点的に資金を投入している。このプロジェクトにおいては、それぞれの地区の実情に応じ、住宅の安全、有線防犯テレビの設置等の公共の場所の安全対策、企業安全対策、薬物乱用防止への取組みが行われている。
〔事例1〕 フルハム・ハマースミス・プロジェクトでは、公園のフェンスを金網製にして見通しを良くし、街灯を増設するなどの環境設計による防犯活動を推進している。
〔事例2〕 ブラッドフォード・プロジェクトでは、駐車場の管理のために防犯カメラを設置することにより、自動車盗を1年間で60%減少させた。
 イギリスでは、ボランティアが警察官を務める特別警察官の制度(Special Constable)がある。特別警察官は無報酬であるが、一般の警察官とほぼ同様の権限と任務をもって活動するものである。また、地域住民がグループを作り、相互に近隣の住宅に注意を払い合い、自宅の防犯性を向上させることなどによって犯罪を防止しようとする近隣警戒活動が広く行われている。この活動は、1982年に開始されて以降、約11万5,000箇所で実施されており、保険会社の中には、実施地域の住民の保険料を割り引いているところもある。

4 シンガポール

 1983年に、日本の交番制度に倣った地区派出所(NPP:Neighbourhood Police Post)制度が試行され、試行結果が良好であったことから本格実施となり、1994年夏までに全国7警察署の下に91のNPPが設置されることになっている。
 NPPには20名弱の警察官が配置され、3交替制で徒歩パトロール、家庭訪問、防犯指導、身分証明書の住所変更届の受理等を行っている。

5 我が国による諸外国への支援と対応

 交番等を中心とした地域警察活動は、我が国の良好な治安をささえる大きな要素として広く海外からも関心が寄せられており、中には我が国に倣って交番の制度を新たに導入した国もある。このため、警察庁では、諸外国からの視察団等を受け入れ、我が国の地域警察の制度、活動状況等を紹介し、地域警察関係者の国際的な交流に努めている。平成5年には、15箇国からの視察団を受け入れた。
 特に、アジア諸国においては、我が国の交番、駐在所制度に対する関心が強いことから、警察庁では、アジア諸国において地域警察等の活動に携わる警察幹部を対象とした「アジア地区・地域警察セミナー」を開催している。このセミナーでは、我が国の交番等の制度や最新の科学技術を活用した通信指令システム等を体系的に紹介し、我が国の地域警察活動の中で培われた情報、ノウハウを参加各国に提供するとともに、参加各国の警察事情について相互に認識を深め、アジア諸国の地域警察関係者の交流を広げている。5年には、ASEAN諸国をはじめとする7箇国から13人を招請した。


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