第1節 外国人労働者の急増とその実態

1 外国人労働者の急増

(1) 不法就労者の急増
ア 全体の状況

 最近、我が国に就労を目的として正規に入国する外国人が増加する傾向にある一方で、観光等の短期滞在の在留資格で入国し専ら就労したり、在留期間が経過した後も不法に残留し就労を継続する、いわゆる不法就労者が急増している。大都市圏では、市民の日常生活においても外国人労働者と接する機会が多くなっており、外国人労働者の急増ぶりを実感することができる状況になっている。入国管理局が過去6年間に資格外活動又は資格外活動がらみの不法残留事犯により摘発した外国人(以下「被摘発者」という。)の数の推移は、表1-1のとおりで、平成元年の被摘発者数は、5年前の約3.5倍に当たる1万6,608人に上り、不法就労者が逐年増加している状況がうかがわれる。

イ 男女別状況
 最近の外国人労働者の動向として注目されるのは、男性労働者の激増である。先の入国管理局による被摘発者数の推移を男女別にみると、昭和59年には、男性が350人で全体の10%にも満たなかったのに対し、平成元年には、全体の71.0%に当たる1万1,791人を男性が占めるに至っている。女性の被摘発者数は、昭和59年以降ほぼ横ばいないしはやや減少する傾向にあるのに対し、平成元年の男性の被摘発者数は、昭和59年の約33.7倍に達するという著しい増加ぶりを示している。また、フィリピン

表1-1 資格外活動事犯及び資格外活動がらみの不法残留事犯により摘発した外国人の状況(昭和59~平成元年)

人やタイ人は、女性の占める割合が高いのに対して、パキスタン人やバングラデシュ人では、ほとんどすべてが男性となっている。
ウ 国・地域別状況
 平成元年の被摘発者を国・地域別にみると、フィリピンが3,740人(22.5%)と最も多く、次いでパキスタンが3,170人(19.1%)、韓国が3,129人(18.8%)、バングラデシュが2,277人(13.7%)となっている。昭和59年には、フィリピンが最も多く、全体の62.4%、次いでタイが23.7%と、この両国で全体の80%以上を占めていたのに対し、平成元年には、この両国の占める割合が全体の30%程度にまで低下し、替わって、パキスタンが全体の19.1%、バングラデシュが13.7%を占めるに至り、パキスタン、バングラデシュ両国の急激な増加が目立っている。また、韓国も、元年1月に海外旅行が自由化されたことを契機として、元年の被摘発者は、昭和63年のそれの約3.0倍と急増している。中国は、被摘発者数ではおおむね横ばいの傾向にあるが、中国人については、在留期間の長い就学等の在留資格で入国、在留し、実質は稼働しているケースもかなり多いものと思われる。ちなみに、中国人の外国人登録者のうち永住の在留資格又は日本人の配偶者等としての在留資格を持つ者を除いた数は、全国で63年12月末現在8万9,685人であり、61年12月末現在に比較し、4万104人(80.9%)増加している。
エ 全国的な分布状況
 被摘発者の稼働地を都道府県別にみると、島根県及び佐賀県を除く45都道府県で稼働しており、また、最も多くの被摘発者が稼働していたのは、東京都で4,986人(30.0%)、次いで、埼玉県が2,189人(13.2%)、千葉県が1,698人(10.2%)、大阪府が1,519人(9.1%)となっている。その分布状況をみると、関東、中部、近畿の各地方に多くが集中していることがわかる。
(2) 不法就労者等の流入形態の多様化
 昭和58年ころから、東南アジア諸国から来日して、風俗営業等で稼働する「じゃぱゆきさん」と呼ばれる女性が目立ち始めた。これらの女性は、観光客を装い短期滞在目的の在留資格で入国したり、歌手やダンサーと称して興行目的の在留資格で入国する者が大半である。こうした風俗営業等で稼働する外国人女性が増加する一方、60年ころからは、いわゆる単純労働に従事する男性が増加し始めた。これも当初は観光客を装って入国する者が多かったが、63年には、就学生を装って入国する外国人労働者が増加している。また、平成元年には、「ボートピープル」として入国した者の中にも就労目的の偽装難民が多数含まれていることが判明するなど、外国人労働者の流入形態は、一層多様化している。こうした状況に対処し、警察では、就学生の入国に当たっての私文書偽造事犯を検挙するなど、外国人労働者の入国に係る各種の違法行為の取締りを行うとともに、「ボートピープル」の上陸に当たっては、上陸地周辺の混乱を防止するための警戒活動等を行った。
ア 就学生を仮装した外国人労働者
 昭和63年には、日本語学校等での就学を目的とする外国人の新規入国者数が、62年の約2.5倍に相当する3万5,107人に急増したが、これらの就学生の中には、入国後は日本語学校へも全く通学せず、就学目的は全く名目的なもので、実質的には就労目的で入国したとみられる者もいた。また、日本語学校側でも、入学希望者の実質的な入国目的が就労であることを知りながら、入学させていたとみられる例もあった。その後、就学生の入国審査の厳格化が図られた結果、日本語学校での就学を目的とする外国人の新規入国者数は、平成元年には、前年の48.2%減の1万8,183人に激減した。
〔事例〕 群馬県警察が不法残留で検挙した中国人労働者(23)は、東京都内の日本語学校での就学を装って、入国、在留していたが、日本語学校には全く通学せず、実際には入国直後から群馬県下の自動車部品製造工場で工員として稼働していた。また、日本語学校経営者は、この中国人労働者が全く通学していないにもかかわらず、在留期間の更新許可申請のために必要な内容虚偽の出席証明書をこの中国人労働者に交付していた。
イ 押し寄せる偽装難民
(ア) 「ボートピープル」の急増
 「ボートピープル」の我が国への上陸は、昭和55年をピークとしてその後は毎年減少を続けていたが、平成元年に入って突如増加に転じ、特に5月以降、「ボートピープル」の我が国への漂着事案が相次いだ。
 5月29日、25トン足らずの木造船に乗った「ボートピープル」107人が長崎県五島列島の美良(びら)島に漂着して以来、九州の各県、さらには鳥取県にまで次々に「ボートピープル」が漂着し、12月末までの漂着事案は22件、2,804人に達し、平成元年中に公海上で救助された者も含め、我が国に上陸した「ボートピープル」の人数は3,498人となった。昭和63年に我が国に上陸した「ボートピープル」はわずか5件、219人にすぎず、その増加ぶりが著しい。
(イ) 偽装難民の流入
 これらの「ボートピープル」は、当初本人たちの供述どおりベトナムから脱出してきたものと考えられていたが、平成元年8月になって、「5月末に上陸した難民の中に夫がいる」という中国人就学生の申出が端緒となり、この中にベトナム難民を装った中国人が多数含まれているらしいことが判明し、入国管理局の調査の結果、漂着した2,804人の「ボートピープル」のほぼ全員が中国人であることがわかった。2年6月初めまでに、このうちの1,520人が中国に強制送還されている。これらの偽装難民は、その後の捜査及び入国管理局の調査によって、福建省等に在住する中国人が日本へ出稼ぎするため、偽造のベトナムの出生証明書等を入手するなどしてベトナム難民を装い、不法入国したことが明らかになった。就労を目的とする偽装難民が増加したことの背景には、中国国内での経済引締め政策による郷鎮企業(地方の公営企業)の倒産と失業者の増大、就学生の入国審査の厳格化等の事情があると考えられる。
(ウ) 警察の対応
 これらの偽装難民が上陸後逃走したり、その後収容された施設内で中国系の者とベトナム系の者との反目から集団暴行事件が発生するなどの問題が生じた。警察では、海上及び沿岸の警戒を強化して、「ボートピープル」の早期発見と不法入国の防止に努めるとともに、逃走した偽装難民の捜索活動、「ボートピープル」が収容された施設内での不法事案の発生を防止するための警戒活動、偽装難民の背後組織を解明するための捜査活動を行った。

〔事例1〕 元年8月30日、熊本県牛深市の魚貫崎(おにきざき)港に167人の偽装難民が乗った木造船が漂着、全員が不法上陸し、その一部が逃走するという事案が発生した。熊本県警察では、地元住民からの通報によって警察官を派遣し、漂着現場の海岸に残っていた139人を発見し、その逃走を防止した。また、緊急配備を実施する一方、地元住民とともに付近の捜索等を実施し、翌31日までに逃走者28人全員を発見した。
〔事例2〕 9月16日、東京都品川区の国際救援センター内で、中国系の偽装難民とベトナム系難民との対立から、集団暴行事件が発生し、11人が負傷した。警察では、施設内に無断侵入していたベトナム系の定住難民12人を建造物侵入罪で逮捕した(警視庁)。

2 来日外国人被疑者等を通じてみた外国人労働者の実態

 警察庁では、平成2年1月から4月までの間に、警察が検挙した来日外国人(注)被疑者の一部について、取調べを通じて判明した実態の取りまとめを行った。この取りまとめの結果によれば、対象となった来日外国人被疑者948人のうち、就労の事実があった者(以下「外国人労働者である被疑者」という。)は、516人(54.4%)であった。取りまとめ等により、外国人労働者の実態をみると、次のとおりである。
(注) 来日外国人とは、我が国にいる外国人のうち、いわゆる定着居住者(永住権を有する者等)、在日米軍関係者及び在留資格不明の者以外の者をいう。
(1) 外国人労働者のプロフィール
 外国人労働者である被疑者の国・地域別状況、年齢等について取りまとめた結果は、表1-2のとおりである。
ア 主たる違反法令
 主たる違反法令(注)別では、刑法犯が276人(53.5%)と最も多く、次いで出入国管理及び難民認定法違反(以下「入管法」という。)又は外国人登録法違反が177人(34.3%)、入管法違反又は外国人登録法違反以外の特別法犯が63人(12.2%)となっている。
(注) 「主たる違反法令」とは、検挙された犯罪のうち、法定刑の最も重い罪をいう。
イ 国・地域別
 国・地域別では、中国が157人(30.4%)と最も多く、次いで韓国が72人(14.0%)、フィリピンが71人(13.8%)、パキスタンが51人(9.9%)、タイが33人(6.4%)となっている。

表1-2[1] 国・地域別状況

ウ 年齢
 平均年齢は、男性が29.8歳、女性が28.6歳であった。男性では25歳から29歳の者が123人(31.5%)と最も多く、次いで30歳から34歳の者が97人(24.8%)、20歳から24歳の者が78人(19.9%)となっている。また、女性では、25歳から29歳の者が39人(31.2%)と最も多く、次いで20歳から24歳の者が38人(30.4%)となっており、女性は男性よりも若年者が占める割合が高く、19歳以下の者も6人(4.8%)いた。

表1-2[2] 年齢別状況

エ 配偶者の有無
 外国人労働者である被疑者のうち逮捕された者(微罪処分又は少年事件簡易送致した者を除く。以下同じ。)の配偶者の有無についてみると、男性184人、女性69人のうち、配偶者のない者が、男性では109人(59.2%)、女性では49人(71.0%)で、いずれも配偶者のない者が多いが、特に、女性については、配偶者のない者の割合が高くなっている。
オ 学歴
 外国人労働者である被疑者のうち逮捕された者が本国で学校教育を受けた年数についてみると、平均では、男性が10.6年、女性が7.6年であった。全体の32.0%が、10年以上12年以下の学校教育を受けており、13年以上の学校教育を受けている者も24人(9.5%)いた。

表1-2[3] 学歴の状況

カ 本国における家庭の経済状態
 外国人労働者である被疑者のうち逮捕された者の本国における家庭の経済状態についてみると、「平均以下」と述べた者が最も多く、45.8%を占め、次いで「平均的」と述べた者が33.2%であり、「平均以上」と述べた者は最も少なく、5.5%にすぎなかった。
(2) 来日の経緯等
 外国人労働者である被疑者の来日の経緯等について、取りまとめた結果は、表1-3のとおりである。
ア 来日の経緯
 外国人労働者である被疑者のうち逮捕された者の来日の経緯についてみると、「日本に行けばもうかるということを見聞きして」と述べた者が61.3%と最も多く、次いで「本国の友人に誘われて」と述べた者が17.4%となっている。このほか、女性のみについてみると、「仲介業者又は日本の雇用者に勧められて」と述べた者も8.7%おり、外国人女性労働者の来日にブローカー等が関与していることがうかがわれる。

表1-3[1] 来日の経緯の状況

イ 入国時の在留資格
 外国人労働者である被疑者の入国時の在留資格についてみると、観光目的等の「短期滞在」が265人(51.4%)と最も多く、次いで「特定の在留資格」のうちの「就学」が88人(17.1%)となっている。
ウ 外国旅券の真偽等
 外国人労働者である被疑者のうち逮捕された者が所持していた外国旅券の真偽等についてみると、自己名義の真正な旅券を所持していたのは、全体の81.8%に当たる207人で、偽造・変造の旅券を所持していた者が7人(2.8%)、他人名義の旅券を所持していた者が8人(3.2%)いた。また、旅券を携帯していないなどのため、旅券の真偽が不明の者も31人(12.3%)いた。
エ 来日の仲介者
 外国人労働者である被疑者のうち逮捕された者が来日した際の仲介者についてみると、「来日の際に仲介者がいた」と述べた者が85人(33.6%)であった。特に女性については、仲介者がいた者が36人(52.2%)と過半数を超えている。「来日の際に仲介者がいた」と述べた者のうち、仲介者 が「日本人であった」とする者は22人、「外国人であった」とする者は73人で、外国人であったとする者の方が多い。また、仲介者が「日本人であった」とする者22人のうち3人が、その仲介者は「暴力団員であった」と述べている。

表1-3[2] 来日の仲介者の状況

オ 来日に要した費用
 外国人労働者である被疑者のうち逮捕された者が来日に要した費用についてみると、平均費用は約20.0万円で、これは、中国の1人当たり国民所得の約5年分、パキスタンのそれの約4年分に相当する。また、借金をしたかどうかが不明の者を除くと、来日に際して借金をした者が69人(50.7%)、借金をしなかった者が67人(49.3%)で、借金をした者の方がやや上回っている。また、借金の平均額は、男性が約31.5万円、女性が約116.6万円となっており、女性の場合は、かなり高額の前借金に縛られて稼働しているケースが多いのではないかと思われる。
 この借金の借入先は、本国の友人、知人が22人(31.9%)と最も多いが、来日の仲介業者から借りた者も17人(24.6%)、日本人の雇用主から借りた者も6人(8.7%)おり、来日に際して、仲介業者や雇用主が大きな役割を果たしていることがうかがわれる。また、女性に限ってみると、仲介業者や雇用主から借りている者が22人(73.3%)とかなり多くなっている。

表1-3[3] 来日の際の借金の借入先の状況

(3) 就労の実態
 外国人労働者である被疑者の就労先等について、取りまとめた結果は、表1-4のとおりである。

表1-4[1] 就労先の状況

ア 就労先
 外国人労働者である被疑者の就労先についてみると、男性では、製造業が92人(23.5%)と最も多く、次いで土木建築業が74人(18.9%)、一般の飲食店が44人(11.3%)となっている。製造業の内訳をみると、金属製品製造業が35人、自動車部品製造業が22人となっている。女性では、風俗営業(料飲関係営業)が45人(36.0%)と最も多く、次いで一般の飲食店が18人(14.4%)となっている。
イ 就労の仲介者
 外国人労働者である被疑者のうち逮捕された者の就労の際の仲介者についてみると、就労の際に「仲介者がいた」と述べた者が113人(44.7%)であった。特に女性については、「仲介者がいた」とする者が52.2%を占めている。

表1-4[2] 就労の仲介者の状況

ウ 就労時間
 外国人労働者である被疑者のうち逮捕された者の1週間当たりの就労時間についてみると、平均で、男性が約40.4時間、女性が約35.3時間となっている。また、1週間に60時間以上就労している者も、男性で21人(11.4%)、女性で5人(7.2%)いた。
エ 賃金
 外国人労働者である被疑者の1箇月当たりの賃金についてみると、平均で、男性が約17.3万円、女性が約20.9万円で、女性の方が男性より高くなっている。また、50万円以上という者も、男性で6人(1.5%)、女性で4人(3.2%)いた。

表1-4[3] 賃金の状況

オ 転職の回数
 外国人労働者である被疑者のうち逮捕された者の転職の回数についてみると、平均で、男性は約2.7回、女性は約2.3回となっている。また、彼らの日本での滞在期間は、平均で、男女とも約1.8年であり、このことから1年当たりの転職回数を計算すると、男性が約1.5回、女性が約1.3回となっており、同一の職場にとどまる期間が短く、また、この傾向は男性の方が強いということができよう。
カ 就労に関する意識
 外国人労働者である被疑者のうち逮捕された者の就労に関する意識についてみると、回答のあった者のうち、仕事について「つらい」と感じている者が67人(38.5%)、「楽しい」と感じている者が39人(22.4%)、「どちらとも言えない」と感じている者が68人(39.1%)であった。特に、女性については、「つらい」と感じている者が21人(47.7%)と、その割合が高くなっている。また、賃金について何らかの不満を持っている者は97人(40.9%)で、その内容をみると、「来日前に予想していた額より少ない」と感じている者が29人(12.2%)、「同じ職場、職種の日本人より少ない」と感じている者が17人(7.2%)、「ピンハネされている」と感じている者が30人(12.7%)であった。
(4) 生活の実態
 外国人労働者である被疑者の生活拠点等について、取りまとめた結果は、表1-5のとおりである。
ア 生活拠点
 外国人労働者である被疑者のうち逮捕された者の生活拠点についてみると、アパートが173人(68.4%)と最も多く、次いでホテル・旅館が20人(7.9%)となっている。

表1-5[1] 生活拠点の状況

イ 同居者
 外国人労働者である被疑者のうち逮捕された者の同居者についてみると、全体の64.8%に当たる164人には同居者がいた。同居者の国籍については、同居者がいる者のうち、日本人の同居者がいる者は16人(9.8%)であり、154人(93.9%)については、外国人の同居者がおり、そのうち被疑者と同国人の同居者と住んでいる者が143人(87.2%)となっている。また、同居者がいる者について、同居者の人数をみると、平均で2.9人となっている。
ウ 語学能力
 外国人労働者である被疑者の日本語及び英語の表現能力についてみると、まず、日本語については、「全く話せない」か「片言程度」の者は252人(48.8%)で、「日常会話程度」以上に話せる者の257人(49.8%)とほぼ同数となっている。次に、英語については、「全く話せない者」か「片言程度」が225人(43.6%)で、「日常会話程度」以上に話せる者は172人(33.3%)であった。また、日本語も英語も「全く話せない」か「片言程度」の者が126人で、全体の24.4%を占めている。
エ 貯金又は送金の額
 外国人労働者である被疑者のうち逮捕された者の貯金額と本国への送金額の合計額についてみると、平均で、男性が約100.5万円、女性が約74.8

表1-5[2] 貯金又は送金の状況

万円となっている。彼らの日本での滞在期間は、平均で、男女とも約1.8年であり、このことから1箇月当たりの貯金又は送金の額を計算すると、男性が約4.8万円、女性が約3.6万円ということになり、男性の方がやや高くなっている。また、200万円以上の貯金又は送金をしていた者も、男性が17人(9.2%)、女性が4人(5.8%)いたが、反面、全く貯金も送金もしていないという者も、男性で24人(13.0%)、女性で6人(8.7%)いた。
オ 日本の住みやすさ
 (財)公共政策調査会が、日本に居住する外国人116人を対象とするアンケート調査を実施した結果によれば、日本は住みやすいかという質問に対して、外国人居住者の58.6%が「住みやすい」と答えている。反面、生活する上で困っていることがないかという質問に対しては、61.2%の者が「物価が高いこと」で困っていると答えており、また、「住宅のこと」で困っていると答えた者も25.9%いた。また、外国人が多数居住する地域を8箇所選び、これらの地域で、外国人居住者から警察に寄せられた相談について調査したところ、相談の件数は、平成2年1月から3月までの3箇月間で85件であり、その内容は、「雇い主が給料を支払ってくれない」、「病気になったが医療費が高くて困っている」などのものであった。

3 地域社会における外国人労働者

 外国人労働者の増加は、地域社会における居住外国人の増加となって現れている。警察庁では、外国人労働者が多数居住している8地域について、外国人の居住状況、居住外国人又は日本人住民から警察に寄せられている要望の状況等について調査を行った。また、(財)公共政策調査会では、警察庁が調査を実施したのと同じ地域で、居住外国人と日本人住民とのコミュニケーションの状況、居住外国人と日本人住民のそれぞれの意識等について調査を行った。これらの調査結果を踏まえ、地域社会における外国人の居住実態等をみると、次のとおりである。
(1) 外国人の居住状況
 警察が調査を行うに当たっては、外国人労働者の多くがアパートを生活拠点としていることに着目し、アパートにおける外国人の居住状況を調査した。調査対象の8地域(以下「調査対象地域」という。)に所在するアパートの数は2,558戸であり、このうち外国人が居住していたアパートは、531戸で、全体の20.8%を占めた。これらのアパートにおける外国人居住者の全居住者に占める割合は、おおむね30%未満であるが、居住者が外国人のみというアパートも4戸あり、これに居住者の70%以上が外国人であるというアパートも含めると17戸であった。調査対象地域に実際に何人ぐらいの外国人が居住しているかという点については、契約上の居住者と実際の居住者が異なっていることも多く、アパートの管理人でさえ自分の管理するアパートに何人の外国人が住んでいるのかわからないという場合もあり、正確な居住者数は把握しがたい実情にある。
(2) 周辺住民と居住外国人との交流
 (財)公共政策調査会が、調査対象地域の日本人住民1,600人を対象に行ったアンケート調査によれば、周辺住民と居住外国人の交流の状況は次のとおりである。
ア 周辺住民の側からみた交流の状況
 調査対象となった日本人住民のうち、自宅の近辺に「単純労働に就いている、あるいは、その可能性を持った外国人」が住んでいることを見たり、聞いたりしたことがある者は68.1%であった。また、これらの外国人とのコミュニケーションの状況に関する調査の結果は、表1-6のとおりであり、これらの外国人と「あいさつ」や「つきあい」をしている住民は全体の10.5%にすぎず、さらに、その「あいさつ」や「つきあい」の程度についてみると、「あいさつ」や「つきあい」をしている住民の72.2%は、道で会えば軽いあいさつを交わす程度であり、お互いの家を訪問したり、相談相手になる程度の「つきあい」をしている住民は、「あいさつ」や「つきあい」をしている住民の14.2%で、調査対象となった住民に占める割合はわずか1.5%にすぎない。

表1-6[1] 「あいさつ」や「つきあい」をしている外国人がいるか

表1-6[2] 「あいさつ」や「つきあい」の程度

 また、現在は「あいさつ」や「つきあい」をしていない住民に対して、これらの外国人との「つきあい」に関する態度について調査した結果は、表1-7のとおりであり、今後「つきあい」をすることについて否定的な態度を示した者が74.0%を占め、その理由については、「おっくうである」、「外国語会話に自信がない」及び「面倒なことになりそうである」を挙げた者が多かった。

表1-7[1] 機会があればこれから外国人とつきあいたいと思うか

表1-7[2] つきあいたいと思わない理由

イ 居住外国人の側から見た交流の状況
 一方、(財)公共政策調査会が、調査対象地域の外国人居住者の日本人住民とのコミュニケーションの状況について調査した結果は、表1-8のとおりであり、職場以外に「あいさつ」や「つきあい」をしている日本人がいると答えた外国人居住者は45.7%であった。また、その「つきあい」の程度についてみると、お互いの家を訪問したり、相談相手になる程度の「つきあい」をしている外国人居住者は、「あいさつ」や「つきあい」をしている外国人居住者の41.5%で、調査対象となった外国人居住者に占める割合は19.0%となっている。この調査結果から、外国人居住者の8割強は、日本人住民との「つきあい」が全くないか、「つきあい」があったとしても、その程度は浅いということがわかる。また、日本人の対応に偏見や差別を感じたことがあるかという質問に対して、感じたことがあると答えた者は、外国人居住者の33.6%であった。

表1-8[1] 近所に日本人の友人はいるか

表1-8[2] どの程度のつきあいか

 これらの調査結果からみると、周辺住民とこれらの外国人とのコミュニケーションが極めて希薄であり、また、今後、コミュニケーションを持つことについても、周辺住民は消極的であることがわかる。また、コミュニケーションが希薄であることの背景には、不法就労者が周辺住民との接触を避けているという事情もあると思われる。近隣のコミュニケーションの希薄化は、目撃者の減少等を招き、犯罪の防止や捜査にも支障を生じさせるおそれがある。
(3) 住民の不安と地域のトラブル
 (財)公共政策調査会が、調査対象地域の日本人住民で、自宅の近辺に「単純労働に就いている、あるいは、その可能性を持った外国人」が住んでいることを見たり、聞いたりしたことがある者について、近隣に外国人がいることにより、不安を感じているかどうかを調査した結果が、表1-9である。これによると、漠然とした不安感を抱いている者が55.9%と最も多く、全く不安を感じない者の比率を上回ったが、反面、強い不安感を抱いている者は全くいなかった。その不安の内容についてみると、不安を感じると答えた者のうち、「犯罪の発生」について不安を感じている者が68.2%、「女性の夜間の一人歩き」について不安を感じている者が56.1%と多かった。これは、地域社会に見知らぬ外国人が増加し、生活習慣の違い等からこれらの外国人に違和感を抱いている上に、十分なコミュニケーションがないことから、住民が漠然とした不安を抱きやすい状況になっているためではないかと思われる。このため、これらの地域においては、警察官のパトロールの強化を求める要望が多くの住民から寄せられている。

表1-9[1] 近隣に外国人がいることの不安感

表1-9[2] 不安の内容

 

また、これらの地域で、外国人とのトラブルに関し住民から警察の困りごと相談等に寄せられた苦情は、平成2年1月から3月までの3箇月間で504件であり、その苦情の内容をみると、騒音やゴミの捨て方に関する苦情が多く、日本人とこれらの外国人の生活習慣の相違を反映しているものと思われる。


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