警察庁 National Police Agency

警察庁ホーム  >  犯罪被害者等施策  >  公表資料の紹介:犯罪被害者白書  >  令和3年版 犯罪被害者白書  >  コラム4 総合的対応窓口担当職員の手記~よりよい支援につながる「備え」に~

第4章 支援等のための体制整備への取組

目次]  [戻る]  [次へ

1 相談及び情報の提供等(基本法第11条関係)

コラム4 総合的対応窓口担当職員の手記
~よりよい支援につながる「備え」に~

某市 総合的対応窓口勤務 副主幹

ガンや交通事故など、突然やってくる不幸に対応するため、保険に加入している人は少なくないだろう。加入のための手続は、それらを自分に起こり得る出来事として捉え、ほんの少しかもしれないが、イメージする機会となる。それは経済的な備えと共に、出来事に対する心の備えにもなっているのかもしれない。

犯罪を原因とする被害、これらに「自分」や「自分の家族」を関連付けて想像する機会があるだろうか。ドラマや映画の中に登場する「被害者」を見るとき、どうしても「自分」ではあってほしくないという気持ちが強く働いてしまう。

犯罪被害に遭うということがどういうことか、それは被害者御本人に接したとき、はっきりと認識させられる。

支援の担当者になってしばらく経った頃、研修を通じて、お子さんを犯罪被害により亡くされた方のお話を聞く機会があった。事件の概要にとどまらず、その時の心情も含めたお話を聞くにつれ、被害現場、病院など実際の現場が頭の中に具体的に思い描かれた。

当市は人口約2万人の小さな地方公共団体であり、犯罪被害者等支援の総合的な窓口は総務を担当する課と人権を担当する課とで協力して行っており、支援制度によって関係する課と連携を図りつつ対応することとしている。

また、犯罪認知件数は少ないものの、窓口に相談者が訪れる機会もある。

窓口に相談者が訪れる際、県の被害者支援センターから情報が共有され、事前にある程度の情報を把握できる場合もあるが、相談者が置かれている具体的な状況や知人関係の詳細を把握することまではできない。

窓口で相談することで、知人に知られたり、事情を知っている人からの心ない言動などにより心理的な被害を受けたりするケースもあるため、相談窓口が市民にとって身近な存在であることが、当市のような小さな規模の地方公共団体の場合はリスクとなることもある。

そのため、市の職員や他の来庁者の中に、相談者の知り合いがいること等も想定し、相談に来たことで御本人に悪い影響を与えないよう、以下のようなことを心掛けている。

  • 具体的な方向性が定まるまでは、不必要に個人情報等は聞かない。
  • 相談に対しては、庁舎内でできる限り人と会わないような場所を準備し、案内する。
  • 御本人が話をすることができる状態であれば話をしてもらうが、話をすることが困難な状態であると感じれば、こちらから少しずつ話しかける。

私が犯罪被害に遭われた方からの相談に初めて向き合うことになったのは、担当者になって2年後のことだった。

最初に対応した相談者は、いわゆるDVにより傷害被害に遭った方であった。

被害に遭った後、経済的に自立したいという希望があることが分かったため、就業までの中長期にわたる支援が必要と判断し、福祉関係の部署と連携しながら、生活保護の受給や職業訓練を受けるための手続に関する支援を提供することができた。

一方で、支援の難しさを感じたケースもある。

ある相談者は、職場の上司から傷害被害を受け怪我を負ったことで、しばらくの間就労できない状況にあった。

そこで、当面の経済的な支援が必要と判断し、当市で制度化されていた傷害見舞金の支給決定を行ったが、このケースでは、相談者の住居が職場から近かったため、被害に遭った後同じ住居に住みづらくなり、また、その後の職場復帰が難しくなることが問題として残っていた。

これらの問題を解決するための支援について、相談者本人は希望を示さなかったが、住み慣れた土地を離れたり、新しい職に就いたりすることへの不安や負担もあることから、すぐに気持ちを切り替えることは困難だろうと感じられた。

犯罪被害に遭われた方は、犯罪被害によって突然起こった様々な問題を受けて、肉体的にも精神的にも痛みを抱えながら生活していかなければならない。また、その問題も、被害に遭われた方一人一人の置かれた状況ごとに異なるため、それらを乗り越えて元の日常を取り戻していくための支援を行うことが、どれほど難しいかを実感した。

総合的対応窓口における支援に係る対応の中で、被害に遭われた方が感じている苦痛はこちらにも伝わってくる。

被害に遭われた方の苦痛を受け止めることに慣れることはないが、支援を継続していくことで、対応の経験を積み重ねることはできる。その経験の積み重ねが、次に窓口を訪れる誰かの支援につながる「備え」となればと思っている。

目次]  [戻る]  [次へ

警察庁 National Police Agency〒100-8974 東京都千代田区霞が関2丁目1番2号
電話番号 03-3581-0141(代表)