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第5章 国民の理解の増進と配慮・協力の確保への取組

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1 国民の理解の増進(基本法第20条関係)

トピックス 「大切な命を守る」全国中学・高校生作文コンクール

警察では、平成20年度から、中学生及び高校生を対象として、犯罪被害者等による講演会「命の大切さを学ぶ教室」を開催し、23年度から、教室の受講生を対象とした作文コンクールを開催してきたところ、令和元年度からは、教室の受講生に限らず、全国の中学生及び高校生を対象に、命の大切さに関する自らの考えや意見等についての作文を募る「「大切な命を守る」全国中学・高校生作文コンクール」を開催している。

令和元年度においては、全国から中学生の作品4万2,581点及び高校生の作品3万1,395点の応募があり、2年3月、この中から、特に優秀な作品が国家公安委員会委員長賞、文部科学大臣賞、警察庁長官賞及び審査委員奨励賞として選出された(警察庁ウェブサイト「命の大切さを学ぶ教室全国作文コンクール」:https://www.npa.go.jp/higaisya/sakubun/pdf/R1sakubun.pdf参照)。

これらの称揚を契機として、中学生や高校生の犯罪被害者等への理解と共感が深まるとともに、命を大切にする意識や規範意識の醸成が一層進むことが期待される。

「大切な命を守る」全国中学・高校生作文コンクール 令和元年度【優秀作品集】

〈〈優秀作品(国家公安委員会委員長賞)の紹介〉〉

[中学生の部]
○ 熊本市立力合中学校 上薗祐己さんの作品

【「生きる」ということ】

「あなたたちは、ここにいるだけで価値がある。生きることをあきらめないで」

この言葉は、先日学校で行われた「命の大切さを学ぶ教室」で、講師の中谷さんが言われた言葉です。中谷さんは、13年前、高専に通っていた娘の歩さんを、同級生に殺害された犯罪被害者の家族の方です。警察署で亡くなった事実を聞かされた帰り道、あまりの絶望感で何をどうしてよいのか分からなかったそうです。そんな辛い思いをされているにも関わらず、その経験を全国で伝え続けられている中谷さんはとても心が強い方だと思います。これまで周りのたくさんの人に支えられ、悩みながらもこの活動をされていると考えると本当に胸が痛くなりました。

僕は、いじめに遭って死を考えた経験があります。小学校3年生のとき、毎日が憂鬱で、学校に行くのがとてもつらかったです。家でも弟とうまくいかずに、毎日を生きるのが大変で、本当にきつく、つらく、何をすればいいのかすら何も分からなくなってしまいました。母にそんな思いを打ち明けたのは、お風呂の中でした。母はシャワーを止め、湯船につかっていた僕の肩をつかみ、泣きながら話をしてくれました。

「生きててくれてありがとう。生まれてきてくれてありがとう」

母が言ってくれた言葉です。僕はこの言葉に泣いてしまったことを覚えています。胸の痛みが消え、救われたような思いがしたからです。中谷さんの言葉は6年前の母の言葉を思い出させ、胸に突き刺さり、気が付いたら涙が出ていました。なぜかは僕にも分かりません。中谷さんの思い、母の思いを考えると言葉にできないほどの感情が僕の胸に押し寄せてきました。

母に打ち明けた後、担任の先生、いじめの相手と何度も話し合い、仲直りをし、友達となって初めて家に遊びに行った日の思いは今でも忘れません。生きていてよかったと心から思いました。

今、僕は「生きる」ということは、未来を信じ続けることだと考えています。誰でも一度や二度は「自分なんて存在していて何になるんだ。自分が生きている意味なんてあるのだろうか」そんなことを考えたことがあると思います。それでも、自分を信じて奮い立たせ、何より生きることを諦めないことが大切だと思います。中谷さんの講話を聞いて母の言葉を思い出し、改めてそう考えました。これからも、何があってもくじけずに、自分を信じて頑張っていきたいと思います。

[高校生の部]
○ 千葉県立千葉女子高等学校 宮澤結友さんの作品

【目に見えない命】

「できることなら、妻を殺した犯人を自分の手で殺したいと思いました。」涙を流しながら苦しそうに発した男性の言葉に私はこらえていた涙をこぼしてしまいそうになりました。

私は、夏休み前の総合学習で、「命について考える授業」を受けました。その授業ではひったくりによって最愛の奥様を亡くされた男性が事件当日のことや、裁判の様子を細かく私たち生徒に教えてくださいました。男性は本当に奥様を愛していて、失った悲しみ、つらさ、犯人を憎む気持ちは、何年経っても消えず、被害者遺族が負った心の傷は一生癒えることはないのだと男性の話を聞いて実感しました。

私は、男性の話を聞いていて、「命とはなんだろう?」と思い始めました。命は目に見えません。しかし、私たちが今生きていて、いつかわからないけれど死ぬ、という決まりが命は存在するものだと教えてくれます。しかし、私たちは、命があり、生きていることが当たり前だと、過剰に信じ過ぎているのではないかと思いました。人は必ず死にます。だけどいつ死ぬのか、どうやって死ぬのかは誰にも分かりません。しかし命は突然、一瞬でなくなってしまうことがあります。残るのは死体だけで、命は見えません。もしそんなことが自分の身の回りに起きたら、残された人間はどうなるのでしょうか。大切な人との思い出だけが頭を巡り、これから作るはずだった未来の思い出はなくなってしまう。つらい日々を憎む毎日はとても悲しいです。自分も大切な家族も友達も生きているのは、当たり前ではないのだと私はこの授業を通じて学ぶことができました。

私はそれから、命を大切にして生きる努力をしようと思いました。一日、一日を大切にし、その日にしかできないことを一生懸命行うことを心がけました。そして、相手を大切にしようという気持ちが強くなりました。男性の話で、ひったくりをした犯人は、「パチンコをする金が欲しかったから犯罪をした。」と言っていたそうです。自分の欲求を満たしたいがために、見ず知らずの他人を傷つけ、命までも奪う行為は許せないと思います。しかし、命は奪わなくとも、人の心や体を傷つけてしまうことは、私たちも行ってしまっています。その行為は命を削っていると考え、言動に気を遣おうと思いました。相手の気持ちを少しでもいいから考える心の余裕を持つことが大切だと感じました。

私の大好きな本の一つである「星の王子さま」には、こんな言葉があります。「とても簡単なことだ。ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは目に見えない。」命の大切さについて考えているとき、私はこの言葉が思い浮かびました。目には見えないけれど絆や愛や時間が命そのものを表しているのだと思います。それらがあることを確かめることはできませんが、私たちがそれらによって生きていることは確かです。

今を生きられることに感謝し、見えないものと向き合うことで、自分も相手も好きになり、大切にしようと思う心が増えれば、犯罪は減ると思います。命の大切さは表せるものではありません。しかし、少し意識するだけで大切さに気付くことができます。生きていることは当たり前ではありません。それなら私たちはどう生きていけばいいのか、考えることが大切だから。

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