第4章 支援等のための体制整備への取組

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1 相談及び情報の提供等(基本法第11条関係)

コラム6 被害者担当保護司の手記

全国の保護観察所には、犯罪被害者等施策担当の保護観察官(被害者担当官)及び被害者担当保護司が配置されています。ここでは、心情等伝達制度(【施策番号146】参照)を利用した犯罪被害者等の心情等の聴取に同席した被害者担当保護司の手記を紹介します。

なお、ここで紹介する事例は、プライバシーに配慮し、一部改変し再構成しています。

~涙~

被害者担当保護司(女性)

性犯罪の被害に遭った女の子の母親から心情等を聴取した時の話です。

長年、被害者とその母親は、事件のことを忘れられずにいました。

被害者は学校からの帰り道で被害に遭ったために、学校にも一人で行けなくなり、必ず母親が付き添っているとのことでした。また、大好きだった習い事にも通えなくなるなど、被害によって生活に大きな影響が出ているそうでした。

いろいろお話を伺う中で、被害者の母親の張りつめた様子を見ていましたが、私から、「被害者であるお嬢さんは大変ですよね。それと、全く自分のことのようにお嬢さんに寄りそって暮らしてきたお母様も大変でしたね。お気持ちお察しいたします。私たちがいつでもお話をお聴きしますから、もう少し外に吐き出して気持ちを楽にしていただきたいです。私たちには守秘義務があります。安心してお話しなさってください。」とお声掛けしました。すると、母親の目から涙があふれてきました。被害者の母親は、「弁護士と話をする際にも、泣いたことはなかったけれども、そのように声を掛けられて何かふっと安心したような感じがしました。」とおっしゃいました。こうおっしゃっていただけて、私もほっとしました。

私は、来庁された被害者等には、「何でも吐き出してください。」とよくお話しします。いろいろお話しすると、被害者の方も聞きたいと思っていたことが聞きやすくなるようで、たくさん質問してくださいます。

その被害者の母親は、お帰りになる時、加害者に言いたいことを言えて、自分が疑問に思っていたことを聞けてほっとされたのか、表情が明るくなっていたのが印象に残っています。

~ある犯罪被害者の思い~

被害者担当保護司(男性)

詐欺の被害に遭った高齢の女性から心情等を聴取した時の話です。

被害者は、加害者とは長年の交流があって信頼していましたが、その加害者に現金をだまし取られ、その後必ず返済すると示談書まで交わしたものの、加害者からの返済が途絶えていました。

そこで被害者は、加害者が返済しないのはどんな理由があるのか、返済の意思はどうなのか、直接話して本心を聴きたいとの思いを抱き、来庁されました。

被害者担当官から心情等伝達制度について説明をしたところ、利用を希望されたため、心情等を聴取することとなりました。

実際に心情等を聴取するときには、被害者担当官も私も男性であったため、被害者に威圧感を与えないように留意しました。静かな声で、ゆっくり丁寧に話すよう心掛け、目線も合わせ過ぎないようにしました。

被害者は、当初は緊張のせいか伏し目がちで話をされていましたが、私と住んでいる地域が同じだったことから、地域の話題を織り交ぜることができ、時間がたつにつれ場が和んでいきました。

話の中で、金銭をだまし取られたことへの憎しみ、親密な関係にありながら裏切られたことの悔しさを語る一方、一度は信頼していた人として「返済できないのは、加害者が体調を崩すなど何か事情があるのではないだろうか。健康で過ごしているのだろうか。」など加害者を案ずる言葉も多く聞かれました。

その心情等を加害者に伝達した結果、加害者から返済が数回ありました。しかし、再び返済が滞ったため、2回目の心情等伝達制度利用となりました。

2回目の心情等聴取の際には、人事異動で被害者担当官が代わりましたが、前回と同様に私も同席したことから、終始落ち着いた雰囲気で心情等聴取を行うことができました。被害者はいろいろな思いを吐き出せたという表情で退庁されました。

その後、加害者は再び返済を開始しました。加害者が、少額ではありますが被害者に返済したのは、この被害者の優しさが加害者に通じたためではないかと思います。2回の心情等聴取を通じて、被害者の揺れ動く思いを聴かせていただけたので、私としても大変印象に残りました。

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