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第2章 精神的・身体的被害の回復・防止への取組

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1 保健医療サービス及び福祉サービスの提供(基本法第14条関係)

コラム3 スクールカウンセラーの行う支援活動

スクールカウンセラー 高田晃

スクールカウンセラー(以後、SC)が初めて学校に派遣されたのが平成7年である。現在ではほとんどの小・中学校に配置され高校にも拡大されている。その活動は児童生徒及び保護者へのカウンセリングだけではなく、教師へのコンサルテーションも大切な活動である。ある事例を振り返りSC活動の一部を紹介したい。

母親の不安

担任がA子の母親からA子の学校での様子を尋ねられたのは、中学1年生の夏休み前の保護者会である。その地域ではA子が中学校に入学後間もなく、地元のスポーツ少年団(以後、スポ少)の指導者が子どもたちにわいせつ行為をしたことが発覚し大騒ぎになった経緯がある。発覚当時、母親が心配してA子に尋ねると「私は何もされていない」と答え変わった様子はなかったが、最近元気がないので学校で何かあったのか心配していた。担任は母親に学校でトラブルはないことを伝えるとともにSCを紹介し、後日SCが母親と面談する運びとなった。

母親の話を要約すると、A子は小学校の中学年からそのスポ少に入り、真面目に練習に取り組み、体格にも恵まれていたこともあってめきめきと上達した。指導者からも期待され、練習後に個別の指導を受けたり、週末に他のチームの試合観戦に連れて行ってもらったりしていた。自分の娘に目をかけてくれる指導者に母親も感謝していた。A子が中学校に進学後もスポ少と同じ競技の部活動に入部し意欲的に取り組む姿を見て母親は喜んでいた。そんな矢先に事件が発覚し、母親としては寝耳に水であった。発覚後、A子は「大丈夫」と言うものの不自然にはしゃいだり、物思いにふけったりすることがある。そんな時「本当に大丈夫?」と母親が声をかけても、A子は「何が?」と言うだけでそれ以上聞いても黙り込んでしまうだけ。指導者はもうこの街にはいないので被害に遭うことはないと分かっていても不安でたまらない、何とかして欲しいというのが母親の訴えであった。中学校では学年会が招集され、SCからは、母親了解の下、情報提供と、A子自身も何が起こったのか現実が受け止め切れていない状態と思われることを説明した。担任や他の先生からは特別変わった様子は見受けられないA子の状態や、クラスの雰囲気も事件発覚直後はざわついたが今は話題にする生徒もいないことが報告された。

A子担当の決定

議論の結果、学校全体でA子を注意深く見守っていき、A子親子に個別カウンセリングを実施していくことになった。不安の強い母親をSCが担当し、A子に対しては女性の副担任が選ばれた。A子の担当の選考には、母親からの希望として、A子の担当は女性のカウンセラーであることと(SCは男性)、A子が特別な指導を受けていることをクラスメートや世間に知られないこと、という2点が示された。警察の被害者支援カウンセラーや公的機関のカウンセラーについて説明したが、周囲に知られることを理由に抵抗が強かった。A子自身は「どっちでもいい」と消極的であったが母親の強い促しに流され、「するなら年が近くて女性がいい(根掘り葉掘り聞かれたり、説教じみたことを言われたりするのは嫌)」ということで、教育相談部の委員でもある20代女性の副担任が選任され、SCがコンサルテーションを行っていくことになった。A子の周囲には苦手な教科の補習という名目で進められた。

夏休みの教職員研修会では、SCが「心の傷つきと回復、その支援のポイント」というテーマでミニレクチャーを実施した。参加した多くの先生から「話を聞いてよかった。教師としては『それで済んでよかった。早く忘れてしまえ』と指導してしまうところだった」等の感想が述べられた。夏休みの暑い教室(当時はエアコンもない)で、先生方の熱い視線を浴び、汗だくになって説明した甲斐があったと思い、SC活動の一つである研修や心理教育の大切さを再認識した。

A子への心のケア

SCは、A子のカウンセリングを行う副担任に、被害者の胸の内(恥ずかしさや汚れ、自分の注意が足りなかった等の思いから自信喪失。そっとしておいて欲しいと思う反面、聴いて欲しいと思うアンビバレントな思い)や、関わるときの留意点(A子の話を否定したり責めたり、逆に慰めたり励ましたりしないで傾聴する。傾聴といっても聴きだし過ぎや語らせ過ぎはまずい、教員の教え癖や指導的な発言はもっての外)を伝え、とにかくA子が安全安心を感じられる関係づくりをアドバイスした。

副担任は傾聴に努め、回を重ねるごとにA子との信頼関係も深まっていった。1カ月もすると、A子はスポ少の指導者のことも徐々に口に出すようになり、車の中で体を触られたりキスをされたりしたことを照れながら口にするようになった。副担任も想定していたことだったので冷静に対応していた。

SCはA子にも許可を得て母親に伝えた。母親は「やっぱり」と憤っていたが、目の前のA子の安定した学校生活に支えられ大きな動揺は見られず、副担任への感謝を述べるとともに個別指導の継続を希望した。その後もA子は文化祭に委員として取り組むなど充実した学校生活を送っていた。SCは先生たちから、「SCがいて良かった」と言われ浮かれていたが、その傍らで、さえない表情で俯いている副担任の姿があった。

支援者への支援

実は副担任は2学期になって体調を崩し休みがちであった。当初からA子とのカウンセリングの後、そのやり取りをSCと振り返りA子の内面の理解や対応を話し合ってきたが、A子が加害者のことを口にするようになった頃から体調不良が目立ち、カウンセリングの前日は頭痛で眠れず、朝は目覚めが悪く遅刻することもあった。カウンセリングの当日の夜は吐くこともあったが、SCに「うまくいっている、素晴らしい」と言われると自分の体調不良は言えなかったと打ち明けた。SCは自分の鈍感さを謝り、二次受傷(被害者の辛い話を共感的に聴くことで被害者と同じように傷ついてしまうこと)について説明した。

改めてカウンセリングの内容を振り返ると、A子は副担任の共感的な関わりに支えられ、副担任に何でも言えるようになり(安全安心の確保)、その中で加害者のことを口にするようになった。A子は「中学になって自分が相手をしてあげられなかったから(加害者は小学生へのわいせつ行為を)した」と自責的であったが、その都度副担任に「A子ちゃんのせいではない」と言ってもらうことで、「自分は悪くない」と責任の所在に変化がみられるようになった。SCは、副担任に、A子の変化はひとえに副担任の支援のたまものであるが、A子の思いに感情移入しすぎたため、二次受傷に至ったと説明した。

副担任はその説明を否定し、「自分はA子の思いを理解できなかった。A子が加害男性のことを『彼が…』というたびに嫌悪感を覚えた」と言い、二次受傷ではなく、受け入れられないA子を受け入れなくてはならないことの葛藤に堪えられなかったことを語った。さらに「こんな大変な子を自分に押し付けて…」という先輩や同僚教師への不信感と、「(SCが)自分でやるべきカウンセリングを私にやらせた」というSCへの怒りを、「自分はカウンセラーじゃない、教師です!」と机をたたいて抗議することもあった。SCは副担任がA子に行ったように、話を否定したり責めたり、逆に慰めたり励ましたりしないで傾聴に努めた。3学期になる頃には副担任の体調不良も見られなくなり、A子もいろいろなことにチャレンジ(自己効力感の向上)し、副担任もそんなA子を応援していた。

それから1年、副担任はA子が3年生になる春に異動した。離任式の後、A子は副担任へ母親と選んだプレゼントを渡し感謝の思いを伝えていた。そして副担任はSCに「この経験をこれからの教師生活に生かしていきます」と伝えた。SCは学校長から「SCがいてくれて本当に良かった」と言われ、思わず周囲を見渡したが俯いている者は今回はいなかった。

以上、A子と副担任のプライバシーに配慮し加工の上報告した。皆さんのSCの行うコンサルテーションをはじめ、学校現場における被害児・被害者への関わり方について理解が深まれば幸いである。

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