警察庁 National Police Agency

警察庁ホーム  >  犯罪被害者等施策  >  公表資料の紹介:犯罪被害者白書  >  令和元年版 犯罪被害者白書  >  トピックス 命の大切さを学ぶ教室全国作文コンクール

第5章 国民の理解の増進と配慮・協力の確保への取組

目次]  [戻る]  [次へ

1 国民の理解の増進(基本法第20条関係)

トピックス 命の大切さを学ぶ教室全国作文コンクール

警察では、平成20年度から、中学生及び高校生を対象として、犯罪被害者等による講演会「命の大切さを学ぶ教室」を開催し、その受講を通じて得た命の大切さに関する自らの考えや意見等を作文に書くことを推奨している。また、警察庁では、各学校における作文への取組を推奨するため、23年度から、「命の大切さを学ぶ教室全国作文コンクール」(後援:内閣府、文部科学省、公益財団法人犯罪被害救援基金及び公益社団法人全国被害者支援ネットワーク)を開催している。

30年度においては、全国から中学生の作品3万96点及び高校生の作品3万582点の応募があり、この中から、特に優秀な作品が国家公安委員会委員長賞、文部科学大臣賞及び警察庁長官賞として選出され、31年2月、受賞者に対し、山本順三国家公安委員会委員長等から表彰が行われた(警察庁ウェブサイト「命の大切さを学ぶ教室全国作文コンクール」:https://www.npa.go.jp/higaisya/sakubun/pdf/08_H30sakubun.pdf参照)。

これらの称揚を契機として、学校における「命の大切さを学ぶ教室」の開催が促進され、受講生の犯罪被害者等への理解と共感が深まるとともに、命を大切にする意識や規範意識の醸成が一層進むことが期待される。

命の大切さを学ぶ教室全国作文コンクール表彰式
命の大切さを学ぶ教室全国作文コンクール表彰式

〈〈優秀作品の紹介〉〉

○ 湖南市立日枝中学校 廣岡萌菜(もえな)さんの作品

【命の大切さ】

私は、この前学校で命の大切さを学ぶ教室を聞きました。それは同級生からの集団暴行事件によって、当時高校生だった息子さんを亡くされたお母さんのお話でした。

その中で、「人の手足が息子にとって凶器になった。」という言葉を何回もおっしゃっていました。人の役に立つことにできるはずの手足が逆に人を傷つけ苦しめるものになるなんて考えられないし、私自身はしたことがありません。でも、よく考えてみると私の場合、人の心を傷つける言葉を発する口が凶器となったことがあるかもしれないと思いました。口も手足と同様に、人を思いやり優しくかける言葉や感謝の言葉など人と人とがコミュニケーションをすることができますが、凶器になれば人の心を傷つけ悲しめる言葉へ一変してしまいます。体の傷は時間が経てば治りますが、そのときに傷つけられた心の傷は一生治ることはありません。何より恐ろしいのは、人の体や心を傷つけるのは一瞬ですが、それによって悲しみは一生続くということです。もしかすると、自分が気づいていない間に相手の心を傷つけていることがあるのかもしれません。そう考えると、ニュースなどで報道されている暴行事件やいじめはとても重大で悲惨だということを改めて感じました。

それから、今回お話してくださったお母さんは、そんなつらい思いをしたことをふり返って涙しながらもお話してくださいました。そのお母さんの涙を見たとき、被害者は暴行を受けたその人自身だけでなく、その人に今まで関わってきた方全員が被害者なのだと思いました。残された家族の気持ち、毎日病院でお見舞いに来てくださっていた先生の気持ちはとてもつらかったと思います。今まで他人事として見てきた暴行事件やいじめによって自殺したニュース。それまでは、「かわいそうだな。」と同情しかしていなかったしどこか他人事と思っている自分もいました。でも、今回の授業を通して、同情ではなく理解していく必要があると思いました。他人事ではなく自分達の住んでいる世界で起こった出来事だと思う必要があると思いました。今回学んだ多くのことを生かし、手や足、そして口を、凶器ではなく、人の役に立つものにしていきたいです。

今回、つらい過去をふり返ってまで私達にお話してくださったのは、二度と息子さんやご家族などのようなつらい思いをする人がいなくなるようにとの願いを込められたものと思います。そのことをしっかり理解して生きていかないといけない責任を感じました。

○ 埼玉県立川越工業高等学校 塚本歩良(あゆら)さんの作品

【命の大切さの講話を聞いて】

テレビを点けると、日々、様々なニュースが流れてゆく。その中には、事件に巻き込まれたり、交通事故などで数多くの人が命を落としている。

しかし、そんなニュースも、過ぎ去っていく日々の中で、次第に人々の記憶から消え去ってしまう。その事件、事故の裏でどれだけ深い悲しみが、悲痛な叫びがあったかなど誰も知らずに。多くの人は、そういった事件とは無縁だと思って過ごしているだろう。私もその一人だった。

だが、今回の健康講演会で佐藤咲子さんの話を聞いて、そういったことは全くの他人事ではなく、自分や周りの人達が突如に居なくなってしまってもおかしくはないのだと感じた。

佐藤さんが両親をいっぺんに亡くしたのは私たちと同じくらいの高校二年生(一五歳)の時だった。親元を離れ、遠くの学校で授業を受けている間、雑貨店を営んでいる両親を、村内の男に猟銃で殺害された。佐藤さんがそう語る中、私はどこか現実味を感じられないでいた。殺人事件の被害者になるというのは現実では起こらないものだと、平凡な日々を送る中でそう決めつけてしまっていた。だから、佐藤さんの話を正面から受け取れないでいた。

でも、涙を流しながら震えた声で当時の事を語る姿に胸が痛んだ。事件から五十年近く経った今でも、心は事件当時の十五歳のままで止まっているのだと知った。

両親を亡くした佐藤さんを、つらい現実が待ち構えていた。当時の日本は犯罪被害者を守る法律が成立しておらず、加害者のみ人権が守られ、被害者は置き去りだったそうだ。そんな不条理に悩み続け、苦しい日々を送っていた佐藤さんの心情は計り知れない。両親を失ったショックから無気力な状態が続き、「自分も死ねばよかった。」と何度も思ったという。そんな佐藤さんを当時から、ずっと支えてきたのが二つ上のお兄さんの存在だという。兄とは今も事件のことを話すことは出来ないと語っていたが、その存在は佐藤さんの心の大きな支えになっているのが分かった。

佐藤さんは現在、犯罪被害者として講演をしている。「講演することが唯一の親孝行」と考え、遺族の叫びを訴え続けているそうだ。今回の講演を受け、初めに佐藤さんの様子を見た時、明るい人だなという印象を受けた。しかし、話を聞くうちに、その心には五十年以上ずっと深い傷を負っていて、長い年月が経った今でも、その傷は癒えていないことを知った。もしかしたら、私の周りにも、犯罪被害者でなくても、何かしら傷ついている人が居るのではないかと思った。そのような方達に、自分で何が出来るのだろうかと考えてみても、正直答えは見えてこない。

しかし、身近なところから、家族を大切にする、友達の悩みを聞いてあげる、そんな些細なことから始めてみようと思った。また、遺族の方の心情を完全に理解するのは難しいが、そういった方の心を理解しようと努力する一つのきっかけになった。

佐藤さんの講演で、普段生活していただけでは見えなかった、身近な人の存在こそが大切なのではないかと、気付かされたような気がする。

目次]  [戻る]  [次へ

警察庁 National Police Agency〒100-8974 東京都千代田区霞が関2丁目1番2号
電話番号 03-3581-0141(代表)