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第5章 国民の理解の増進と配慮・協力の確保への取組

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1 国民の理解の増進(基本法第20条関係)

コラム18 命の大切さを学ぶ教室全国作文コンクール

警察では、平成20年度から、中学生及び高校生を対象として、犯罪被害者等による講演会「命の大切さを学ぶ教室」を開催し、その受講を通じて得た命の大切さに関する自らの考えや意見等を作文に書くことを推奨している。また、警察庁では、各学校における作文への取組を推奨するため、23年度から、「命の大切さを学ぶ教室全国作文コンクール」(後援:内閣府、文部科学省、公益財団法人犯罪被害救援基金及び公益社団法人全国被害者支援ネットワーク)を開催している。

29年度においては、全国から中学生の作品3万7,292点及び高校生の作品3万1,888点の応募があり、この中から、特に優秀な作品が国家公安委員会委員長賞、文部科学大臣賞及び警察庁長官賞として選出され、30年2月、受賞者に対し、小此木八郎国家公安委員会委員長等から表彰が行われた(警察庁ウェブサイト「命の大切さを学ぶ教室全国作文コンクール」:http://www.npa.go.jp/higaisya/sakubun/index.html参照)。

これらの称揚を契機として、学校における「命の大切さを学ぶ教室」の開催が促進され、受講生の犯罪被害者等への理解と共感が深まるとともに、命を大切にする意識や規範意識の醸成が一層進むことが期待される。

命の大切さを学ぶ教室全国作文コンクール表彰式
命の大切さを学ぶ教室全国作文コンクール表彰式

<<優秀作品の紹介>>

○ 小坂町立小坂中学校 照井和花(わこ)さんの作品

【たった一つの命】

私の命は一つしかありません。それは、世界中の人々も同じです。このあたり前の事実が「命の大切さ教室」に参加し、あたり前ではないと気付かされました。そして、一人一人がもっと真剣に向き合って、一日一日を大切にしなければならないと強く思いました。

「命の大切さ学習教室」で、涼香ちゃんのお母さんが、涼香ちゃんが事故で亡くなってしまうまでの事を丁寧に教えてくれました。

涼香ちゃんが、小学校で作ったカレンダーには、「冬は楽しみがたくさんあります。また来年も楽しみが来るといいな。」と、一年生らしい言葉が書かれてありました。

そんな涼香ちゃんの楽しみが消えてしまった2000年11月28日。集団登校の列に飲酒運転の軽トラックが突っ込み、2人が死亡し、6人が怪我をする事故が起きました。涼香ちゃんは、一緒に通学していた六年生と四年生の2人の兄の目の前で、一人、天国へと旅立ってしまいました。私も小学生の頃、団体登校をしていました。その時に事故が起きていたらと考えると、とても身近に思えて怖くなります。いつもと変わらない朝を過ごし、いつものように登校する途中で、非常識な飲酒運転という行為で、命を落としてしまう。これからの未来に夢や希望あふれる何の罪もない女の子が命を奪われてしまうことがあって良いのでしょうか。本当に悲しく、胸がしめ付けられる思いです。

涼風のように心地よく、たくさんの人を幸せで包んで欲しいと名付けられた涼香ちゃん。その名の通り、優しい心を持った笑顔の似合う女の子でした。そのあふれる笑顔も一瞬で全て消えてしまう。それが事故の現実です。

「命」は、誰しも平等にたった一つ。ゲームのようにリセットは出来ません。「飲酒運転」は絶対に許されることではないのです。また同時に、生きたいと願いながら亡くなってしまった方々を思う時、自ら命を絶つことも決してあってはならないことだと強く思うのです。悲しいことに、毎日のように「いじめ」のニュースがテレビから流れ、消えることはありません。それが原因の自殺も数多く聞かれます。命を絶つ前に何か出来ることはないのでしょうか。一人一人が思いやりの心を持ち、ほんの少しの勇気で相手を考えてあげられることが出来たら…何か変わってくるかもしれません。涼香ちゃんのように命を落としてしまった人、震災で亡くなってしまった人々。どうすることも出来ない、やりきれない気持ちでいっぱいですが、そんな時、改めて私は自分の命を大切にしていきたいと思うのです。また、自分の命と同じように、相手の命も大切にしていきたいです。

私は、「命」について様々な事を感じ、そして考えました。世界の全ての人が、命の重みを分かち合っていけるようにと願いながら。

○ 愛媛県立今治東中等教育学校 井手結茄(ゆうな)さんの作品

【亡き祖父との約束】

私も講師の先生のように、被害者遺族の1人です。私の祖父は5年前に交通事故に遭い、命を落としました。祖母の誕生日に家族そろってお祝いをした帰り、祖父は車にはねられてしまいました。その日は大雪でした。視界が悪く、祖父が青信号で横断歩道を渡っている際、右折してきた車にはねられてしまいました。そのときは右足骨折と脳内出血のための入院ということでしたが、会話もできていた祖父の容体は徐々に悪化し、3週間後には、話すことも笑うことも泣くこともできない植物状態になってしまいました。祖父が亡くなったのは、それから2年後です。桜の花が満開に咲き誇る天気の良い穏やかな一日でした。

私は今でも、雪が降ったり桜の花が舞ったりするのを見るたびに、祖父の笑顔を思い出します。入院中話すことができなくなっても、私と弟に向かって嬉しそうに微笑んでくれたことを忘れることができません。一番辛く苦しかったのは祖父自身なのに、私たちに気を遣ってくれた優しい祖父。あの時、ご飯を食べに行かなければ。あの時、祖父を一人で帰さなければ。そんな家族の後悔と加害者への怒りは、時が経ってもなお残ったままでした。

そんな中聞いた「命の授業」。こんなにも心に突き刺さった講演はありませんでした。講師の先生の旦那さんは、祖父と同じように交通事故で命を落とされたそうです。そして旦那さんだけでなく、息子さんまで。息子さんは暴力団によって殺害されるという残酷な犯罪の被害者となってしまったそうです。今もまだ心の傷は癒えていないはずなのに、私たちが被害者にも加害者にもならないようにと、涙を流しながら語ってくれた先生。「許す」という尊い行為。許したいから謝罪が欲しいとの切実な思い。祖父のことを思い出して辛くなりましたが、「一人じゃないんだよ」と言ってもらっているようで、私の心もすっと晴れていくような気持ちになりました。どんなに辛く苦しい出来事があっても、人は前を向いていいのですね。私も一歩踏み出す勇気をもらいました。

私は、幼稚園の頃から警察官になるのが夢でした。それは私にとって、亡き祖父との約束でもあります。祖父は、私が警察官になるのを一番楽しみにしてくれていました。小さいころからおてんばだった私をいつも叱ってくれていたのは祖父です。ある時いたずらが過ぎ、隣の家のペットにいたずらをしようとしてしまいました。「他人には迷惑をかけるな。」といつも以上に叱られたことを覚えています。

私はその頃から、悪を許さない正義を持ち、町を守ることのできる、まるで祖父のような、そんな強い警察官になりたいと考えていました。しかし、今回の「命の授業」を聞いて、警察官という職業に大切なのは、それだけではないと気付きました。犯罪を許さない心と熱意はもちろん必要ですが、人の心の痛みを理解し、寄り添ってあげられる姿勢も持ち合わせることが大切なのではないかと考えるようになりました。

誰にでも、辛くて苦しくて何もかも嫌になるような経験はあるでしょう。大切なのは、その痛みを受け止め、次の、前へ向かう力に変えることだと思います。もちろん時間は掛かりますし、一人では難しいことです。私の場合は、家族や友達が私の支えになってくれました。私は、そんな他者の痛みを理解できる人になりたいと考えています。これからも周囲の人を大切にし、亡き祖父との夢を叶えるために努力し続けたいと思います。

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