第4章 支援等のための体制整備への取組

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1 相談及び情報の提供等(基本法第11条関係)

コラム10 犯罪被害に遭うということ

~平成29年度都道府県・政令指定都市犯罪被害者等施策主管課室長会議の講演より~

京都府犯罪被害者支援コーディネーター・社会福祉士・被害者遺族 岩城 順子 氏
京都府犯罪被害者支援コーディネーター・社会福祉士・被害者遺族 岩城 順子 氏

【犯罪被害者の遺族としての体験】

平成8年3月24日の夜、当時、宮崎県内の大学に通っていた私の息子の道暁(みちあき)は、見知らぬ20歳の男に因縁をつけられた上、いきなり殴られて意識を失い、そのけがが元で3年後に亡くなりました。

事件後の受診時、息子の外傷はほとんどなく、CT検査でも異常がなかったため、医師は警察に「全治2週間」の診断書を提出しました。しかし、意識が戻った時には、球麻痺によって話せなくなり、手足はある程度動くものの、不全麻痺によって物をつかむのも困難となってしまいました。そして、殴られた時の記憶は消えていました。

このような状況について、私は、何も悪いことをしていないのに隠したくなりました。人に本当のことが言えませんでした。「治らなかったらどうしよう。道暁の将来はどうなるのだろう」と同じことが何度も頭に浮かび、夜もほとんど眠れなくなりました。

事件後すぐに、病院や介護手続等の様々な情報が欲しいと思いましたが、どこに相談すればよいか分かりませんでした。

全治2週間と言われたにもかかわらず、息子の容態は少しずつ悪くなっていき、症状が固定しなかったので身体障害者手帳がなかなか交付されませんでした。現在の制度では、身体障害者手帳がなければ、様々な福祉措置を受けることができません。電動車椅子等、今すぐ必要なものがあっても必要な時にサポートされず、身体障害者手帳が交付されるまでは自分で買うしかありませんでした。

近所では人々の好奇の目にさらされました。心配そうに言葉を掛けてくださるのですが、好奇心が見え見えの態度に悩まされました。落ち込んでいたら、また話題になってしまう。私は突っ張って生きるしかありませんでした。そして、交通事故が原因であると嘘をつきました。そうせざるを得ない状況に追い込まれていったのです。

事件以来、加害者に対して恨み言も愚痴も泣き言も一切言わなかった息子が、「死にたい」とワープロに打ったことがありました。私は、外傷というものは少しずつ良くなるものと信じていたので、「21歳の誕生日まで待って。それでも駄目なら一緒に死んでもいい」と答えました。本当にそう思っていたのです。誕生日を1週間ほど過ぎた頃、「いつ一緒に死んでくれるの」と聞かれ、私は、「お母さんはまだあなたと一緒に生きたい」と答えてしまいました。

刑事裁判は屈辱的なものでした。事件は傷害事件として扱われ、略式起訴で裁判は知らない間に終わっていました。判決は罰金30万円。それも、加害者に問い合わせて初めて分かるという始末でした。

民事裁判を起こすために記録を取り寄せてみると、ただ目が合っただけで、息子の顔が気に入らなかったからキレた、そして何もしていない息子の顔を力一杯殴った、というようなことが書かれていました。加害者は病院にはほとんど来ていないのに、週に5日は見舞いに通っているなどと嘘の証言がありました。そして、診断書は「全治2週間」のままでした。私たちが裁判で異議を申し立てる場も与えられず、あまりにも実態とかけ離れた判決が下されており、納得ができませんでした。

息子は、事件から3年後、23歳の誕生日を目前にして亡くなりました。

私は、何の支えもなくなった感じで、このままいなくなってしまいたいと考えていました。

しかし、家族全員がつらく苦しい気持ちを抱える中、私は、黙って見守ってくれた夫や、気丈に振る舞っていた娘に支えられました。そして、事件前から知り合いだった友人、同じような事件の被害者、それから事件後に出会って私を理解しようとしてくれた人たちに支えられ、私は元気を取り戻してきました。

人間関係で傷ついた心は、人間関係でしか取り戻せないと感じました。

【京都府が行っている犯罪被害者支援の取組】

京都府では、各市町村や民間の犯罪被害者支援団体をはじめとする関係機関・団体等が連携しながら総合的な支援ができるようなネットワークシステムとして、平成20年、「京都府犯罪被害者サポートチーム」を発足させました。警察から1名、コーディネーターが3名(臨床心理士、精神保健福祉士、社会福祉士)で構成され、それぞれの専門性をいかし、常にチームとして活動しています。

サポートチームの役割として、被害者からの相談内容に応じた面接や助言、支援機関への付添い等、専門知識をいかしたスムーズな橋渡しをすること、講演活動等を通じて犯罪被害者支援の重要性を訴える啓発活動を行うこと、各市町村の担当者に対する研修を企画・実施すること等が挙げられます。

私たちが最初に取り組んだのは、顔の見える関係づくりです。私たちの方から市町村へ出向き、担当者と直接話をすることから始めました。担当者の中には、「被害者支援は警察中心でやればよいのではないか」と考えている方や、「民間の被害者支援センターがあるのに、どうして行政が取り組むのか」と疑問を抱いている方もいました。また、「被害者に会ったことがない」という声も度々耳にしました。

しかし、事件はごく身近なところで毎日のように起こっています。警察による支援は、飽くまでも緊急的な措置でしかなく、日常生活において起きる様々な困りごとの解決には、府や市町村が運用している制度を利用するしかありません。

京都府では、26年までに、26市町村全ての自治体で犯罪被害者支援に特化した条例が制定されました。まだまだ被害者が直接相談に来る例は少ないのが現状ですが、常に被害者に対応できる準備は整っています。

犯罪被害者支援の本質は、被害者が本来の力を取り戻すために支援することであると思っています。行政の担当者には、今まで市民の困りごと等に対応してきた豊富な経験がありますので、被害者の視点にも目を向けて相談に乗っていただきたいと思います。

被害者や遺族が被害から回復する時、司法や社会が壁になるのではなく、支えるものであってほしいと願っています。

※ 本コラムは、平成29年度都道府県・政令指定都市犯罪被害者等施策主管課室長会議における講演を概要として取りまとめたもの。講演の全文は、警察庁ウェブサイト「犯罪被害者等施策」(https://www.npa.go.jp/hanzaihigai/local/pdf/work2017/gi1.pdf)を参照。

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