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3.犯罪被害者等基本計画 (平成17年12月27日閣議決定)


1.国民の理解の増進(基本法第20条関係)

[現状認識]

平成12年に内閣府が実施した「犯罪被害者に関する世論調査」によると、国民の57.4%が犯罪被害者等の支援を行っているボランティア活動に協力したいと考えている。その一方、身体犯被害者や遺族の約35%が「近所の人や通行人に変な目で見られた」ことがあり、そのうちの約80%がそれらを事件の被害の一部だと考えている実状がある (注9) 。半数を超える国民が、犯罪被害者等支援に対して積極的な意志を持っていながら、現実の社会は、必ずしも犯罪被害者等にとって平穏に暮らしやすい環境とは言い難い状況にある。

この不一致については、犯罪被害者等からの要望によれば、国民が持つ犯罪被害者等に対する誤解や偏見、犯罪等による被害の深刻さや命の大切さに対する理解不足、犯罪被害者等が必要とする事項に対する知識の不足等がその根底にあると考えられる。

現状について、国民が、犯罪被害者等に接し、犯罪被害者等の置かれている状況やニーズ等を知る機会に乏しいとの指摘がある。また、民間の調査(注10)では、小・中学生・高校生の5人に1人が「人は生き返る」と回答しているなど、犯罪等による被害の深刻さや命の大切さに対する理解が十分でないこともうかがえる。

注9 辰野文理「2次的被害の認識」、宮澤浩一・田口守一・高橋則夫編『犯罪被害者の研究』(第1部第1章「犯罪被害の心理」第4節) 成文堂、1996年、pp66-70による。

注10 中村博志日本女子大学教授(肩書は当時)らによる「児童の健全育成における青少年の生きる意識についての調査研究」より。(財団法人こども未来財団 平成15年度児童環境づくり等総合調査研究事業報告書pp17-21を参照)

[基本法が求める基本的施策]

基本法第20条は、国及び地方公共団体に対し、

・教育活動

・広報活動

・その他の活動

を通じて、

・犯罪被害者等が置かれている状況

・犯罪被害者等の名誉又は生活の平穏への配慮の重要性

・その他

について国民の理解を深めるよう必要な施策を講ずることとしている。

[犯罪被害者等の要望に係る施策]

犯罪被害者団体等からは、

《1》 教育活動を通じた理解の増進

《2》 広報・啓発活動の実施

《3》 犯罪被害者等の置かれた状況等についての国民理解の増進

《4》 犯罪被害にまつわる偏見のない社会の形成

《5》 その他、社会における配慮の促進

《6》 報道機関等における配慮

《7》 その他の必要な施策

に関する種々の要望が寄せられている。

[今後講じていく施策]
(1) 学校における生命のかけがえのなさ等に関する教育の推進

ア 文部科学省において、学校教育の中で、自他の生命のかけがえのなさ、誕生の喜び、死の重さ、生きることの尊さなどを積極的に取り上げる教育を推進するため、「児童生徒の心に響く道徳教育推進事業」を実施し、教材の開発などの実践研究を進め、成果の普及を図る。【文部科学省】

イ 文部科学省において、かけがえのない生命について考えさせるなど道徳の内容をわかりやすく表した「心のノート」のすべての小・中学生への配布を進める。【文部科学省】

(2) 学校における体験活動を通じた命の大切さの学習についての調査研究の実施及びその成果の普及

文部科学省において、児童生徒の社会性や豊かな人間性を育むため、「豊かな体験活動推進事業」を実施し、学校における自然体験活動や社会奉仕体験活動の充実を図る中で、命の大切さを学ばせることに有効な体験活動について調査研究を実施し、その成果を取りまとめ、全国の教育委員会や学校に普及する。【文部科学省】

(3) 学校における犯罪被害者等の人権問題も含めた人権教育の推進

ア 文部科学省において、人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(平成12年法律第147号)に基づき、犯罪被害者等の人権問題も含め、学校教育及び社会教育における人権教育の一層の推進に努める。【文部科学省】

イ 文部科学省において、学校教育について、自分の大切さとともに他の人の大切さを認めることができるような児童生徒の育成を目指した人権教育の指導方法等に関する調査研究の成果(平成16年6月に第一次とりまとめを公表)を普及するとともに、更に検討を進める。【文部科学省】

(4) 学校における犯罪抑止教育の充実

文部科学省において、平成16年度に警察庁と共同で作成し、教育委員会等へ配布した、犯罪被害者等の体験談を取り入れた学習の事例等を含む非行防止教室等プログラム事例集の活用を教育委員会へ促すなど、犯罪抑止教育の充実を図る。【文部科学省】

(5) 子どもへの暴力防止のための参加型学習への取組

文部科学省において、子どもがいじめ・虐待・暴力等から自らの身を守るための態度やスキル等を育成することを目的として、被害者となることを防止するための教育について、地域の実情に応じた取組がなされるよう教育委員会に促す。【文部科学省】

(6) 家庭における命の教育への支援の推進

文部科学省において、家庭における命の教育への支援を推進するため、命の大切さを実感させる意義などを記述した子育てのヒント集として「家庭教育手帳」を作成し、小学生等を持つ全国の保護者全員に配布することにより、子育て講座等での学習の充実を図る。【文部科学省】

(7) 生命・身体・自由の尊重を自覚させる法教育の普及・啓発

法務省において、学校教育を中心として法教育の普及・啓発を促進し、法や司法によって自らを守り、他者を等しく尊重する理念を体得させることを通じ、他者の生命・身体・自由などを傷つけてはならないことを自覚させることにもつながるよう、文部科学省、最高裁判所、日本弁護士連合会等の協力を得て、平成17年5月に発足した法教育推進協議会を通じた取組に努める。【法務省】

(8) 「犯罪被害者週間」にあわせた集中的な啓発事業の実施

内閣府において、警察庁、総務省、法務省、文部科学省、厚生労働省及び国土交通省の協力を得て、「犯罪被害者週間(11月25日から12月1日まで)」を設定し、当該週間にあわせて、啓発事業を集中的に実施する。【内閣府】

(9) 犯罪被害者等施策の関係する特定期間における広報・啓発事業の実施

ア 内閣府において、全国交通安全運動の期間を中心に、各種の啓発事業が交通事故被害者等の視点も踏まえ展開されるよう努める。【内閣府】

イ 法務省において、人権週間を中心に、様々な広報媒体も通じつつ、犯罪被害者等の人権問題に対する配慮と保護を求めるため講演会・研修会等の啓発活動を実施する。【法務省】

ウ 厚生労働省において、児童虐待の範囲、現状やその防止に向けての取組を広く国民に周知させるため、様々な媒体を活用した広報活動を行うとともに、11月の児童虐待防止推進月間に、ポスター等の作成及び全国フォーラムの開催など集中的な広報啓発活動を実施する。【厚生労働省】

(10) 犯罪被害者等の置かれた状況等について国民理解の増進を図るための啓発事業の実施

内閣府において、犯罪被害者等の置かれた状況について国民が正しく理解し、国民の協力の下に関係施策が講じられていくよう、国民が犯罪等による被害について考える機会として、毎年、東京及び複数の地域で、犯罪被害者等や、犯罪等による被害についての識見を有する者、犯罪被害者等の援助等に携わる者等とその他の国民が一堂に会し、犯罪被害者等に係る様々なテーマを議論する啓発事業を開催するとともに、事業の結果について、インターネット等で国民向けに情報提供を行う。【内閣府】

(11) 様々な広報媒体を通じた犯罪被害者等施策に関する広報の実施

ア 内閣府及び警察庁において、総務省、法務省、文部科学省、厚生労働省及び国土交通省の協力を得て、政府広報等とも連携し、様々な広報媒体を通じて、犯罪被害者等の置かれた状況やそれを踏まえた施策実施の重要性、犯罪被害者等の援助を行う団体の意義・活動等について広報する。【内閣府・警察庁】(再掲:第4、3.(4))

イ 警察において、各都道府県警察が民間被害者支援団体等と連携し、マスコミ広報、街頭キャンペーン、各種討論会の開催、各種会合での講話等を実施することにより、犯罪被害者等が置かれている実態や警察、関係機関、民間被害者支援団体等が取り組んでいる犯罪被害者等支援についての広報啓発活動を一層促進する。【警察庁】

ウ 警察庁において、広報啓発用の冊子「警察による犯罪被害者支援」の作成、ウェブサイト上での警察の犯罪被害者等支援策の掲載等により、犯罪被害者等支援に関する国民の理解増進に努める。【警察庁】

(12) 交通事故被害者等の声を反映した国民の理解増進

ア 警察において、交通事故の被害者や遺族等の手記を取りまとめた冊子やパンフレット等を作成し交通安全講習会で配布することや、交通安全の集い等における被害者等の講演を実施し、交通事故の被害者等の現状や交通事故の惨状等に関する国民の理解増進に努める。【警察庁】

イ 警察において、各都道府県警察での運転者に対する各種講習において、交通事故の被害者等の切実な訴えが反映されたビデオ、手記等の活用や、被害者等の講話等により被害者等の声を反映した講習を実施していく。【警察庁】

(13) 国民の理解の増進を図るための情報提供の実施

内閣府において、犯罪被害者等や犯罪被害者等の援助に精通した有識者等を招き、関係省庁の職員を対象とする「犯罪被害者等施策講演会」を開催するとともに、その概要をインターネット等で国民向けに情報提供する。【内閣府】

(14) 調査結果の公表を通じた犯罪被害者等の置かれた状況についての国民理解の促進

ア 内閣府において、犯罪被害類型別・被害者との関係別に行う、犯罪被害者等の置かれた状況や当該状況の経過等に関する基礎的な事項を把握するための継続的な調査(上記第4、2.(3))の結果を、統計処理の上、実例等も参照する形で公表し、様々な犯罪被害者等の置かれた状況についての国民レベルの基礎的な理解を促進する。【内閣府】

イ 内閣府において、犯罪被害者等の置かれた状況等に関する国民の理解の程度や必要な配慮の程度、心無い言動等からくる二次的被害に対する認識等について、研究調査を行い、その結果を、青少年に対しては、利用しやすい教材等の形に加工し広く提供するとともに、成人に対しては、統計処理後の公表物の形で啓発に利用する。【内閣府】

(15) 学校における犯罪被害者等である児童生徒への的確な対応のための施策の促進

ア 文部科学省において、学校の教職員が犯罪被害者等である児童生徒の相談等に的確に対応できるよう、犯罪等の被害に関する研修等を通じ教職員の指導力の向上に努めるとともに、スクールカウンセラーや「子どもと親の相談員」の配置など教育相談体制の充実等に取り組んでいく。【文部科学省】再掲:第4、1.(17)及び第4、2.(13)

イ 文部科学省において、犯罪被害者等である児童生徒に対する心のケアについても、大学の教職課程におけるカウンセリングに関する教育及び教員に対するカウンセリングに関する研修内容に含めるなどその内容の充実を図るよう促す。【文部科学省】(再掲:第2、1.(18)ウ)

ウ 文部科学省において、虐待を受けた子どもへの対応の問題を含め、養護教諭が行う健康相談活動の進め方等についてまとめた参考資料も活用しながら、養護教諭の資質の向上のための研修の充実を図る。【文部科学省】

エ 文部科学省において、「臨床心理士の資質向上に関する調査研究」の中で、犯罪被害者等に対する支援活動についての調査研究を実施し、その結果に基づき、財団法人日本臨床心理士資格認定協会等に働きかけ、犯罪被害者等に関する専門的な知識・技能を有する臨床心理士の養成及び研修の実施を促進する。【文部科学省】(再掲:第2、1.(12))

(16) 犯罪被害者等に関する個人情報の保護

警察による被害者の実名発表、匿名発表については、犯罪被害者等の匿名発表を望む意見と、マスコミによる報道の自由、国民の知る権利を理由とする実名発表に対する要望を踏まえ、プライバシーの保護、発表することの公益性等の事情を総合的に勘案しつつ、個別具体的な案件ごとに適切な発表内容となるよう配慮していく。【警察庁】(再掲:第2、2.(2)エ)

(17) 犯罪被害者等に関する個人情報の保護に配慮した地域における犯罪発生状況等の情報提供の実施

警察において、被害者が特定されないよう工夫した上で、ウェブサイト上等に性犯罪を含め身近な犯罪の発生状況を掲載するなどにより、都道府県警察が地域住民に対し、住民自らが積極的に防犯対策を講ずる契機となりうるような情報提供に努める。【警察庁】

(18) 交通事故の実態及びその悲惨さについての理解の増進に資するデータの公表

警察において、国民に対し、交通事故の実態やその悲惨さについての理解の増進が十分に図れるよう、事故類型や年齢層別等交通事故に関する様々なデータを公表し、その実態等について周知を図る。【警察庁】


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